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竜と人への鎮魂歌  作者: ポティト
少年編
8/12

少年は少女に説明する。

「急いでるから用件のみを言え」


「そんな連れない事言わないでよぉ。あ、あのさデートしな「断る、他をあたれ」


 関わると面倒なことになる。落ち国の僕となればなおさらだ。


 むぅー、酷いなぁー。隠れて修行してるの、やっぱり見られたくない?」


「……なんで知ってる」


「たまたまだよぉ」


 走って逃げることにした。


「逃げても無駄だよ」


△▼△


「だって秘密の修行場知ってるんだもん」


 遠回りをして巻いたと思ったが、無駄な体力を使ったようだ。


 木々が生い茂る森でロイは大木に座って、年輪を指でなぞりながら余裕の笑みを見せた。


「どうしてグリア君って武道の成績を低くしてるの? この大木だってグリア君が切ったんだよね」


「ここでのことを誰にも言わないと約束するなら教える」


「二人だけの秘密ってことね」


「それじゃあ、武道の成績で上位に入ると護衛軍に強制的に就く事になるから」


「護衛軍に入れば一生安泰なんだよ。どうして嫌なの?」


「僕は竜討伐軍に入りたい」


 ロイは困惑の表情を見せ、少しだけ唸ってみたものの答えが浮かばなかったようだ。


「命を投げ出すような軍に入る理由教えて」


「命の、人生の恩人に会うため。今は何処にいるのかも分からないし、死んでいるかもしれないけど、一度正面からまたお礼をしたいんだ。それに竜と戦えばその人に会える気がする」


 ロイは途中から興味が無くなったようで、適当に「ふぅーん」と相槌をうった。


「もっと壮絶な過去とかだったら面白かったのに。なんかつまんないの」


 僕は昔その人に同じことを言われた。


 その台詞をこんな女性に言われたことが可笑しくて笑ってしまった。


「な、なに笑ってるの? ……気持ち悪いわよ」


「なんでもないよ。ま、もうすぐで始めるから帰ってくれよ」


「そうね。デートの約束もあるし」


「彼氏なんていたのか」


「うん。十五人の彼がね」


 やっぱりこいつ嫌いだわ。


 小悪魔のように笑い、軽く駆けて町へ向かおうとした瞬間、茂みに隠れてた衣服が所々破けている男がナイフを手に持ち、ロイの首元に背後からナイフの先を当てた。


「譲ちゃんも兄さんも反抗しようと思うなよ。すぐこの首を切ってやる」


「あんたさ、私が誰か分かってるの?」


「あぁ? 金持ちの娘だろ」


「そうだけど、あんたみたいな鍛えられてない体で私を拉致できると思うなよ」


「調子に乗ってんじゃねぇぞ」


 僕はなにもするなと言われたので傍観してるだけだ。


 こんな男に武道の成績が優秀なロイが負けるはずが無い。


 ロイはナイフを持つ男の腕を掴み、捻りを加えてから一本背負いを決めた。


 常人が見よう見まねでする一本背負いとは威力が逸脱してるのを食らった、男は気を失ってしまった。


「金持ちお嬢さんっていつも大変そうだな」


「少しは助けようとしようよ。私の周りにはいつも命がけの人がたくさんいるのに」


「え、助けたじゃん」


「何処が!?」


 ロイに、さっきまで男が持っていたナイフが僕の手にあることを見せ付ける。


「鈍っていたけど、落ち国の兵士だと思うよ。型にはまりきった一本背負いなんて、死ぬ気で向かう人にとって反撃しやすいよ」


「……いつのまに取ったの」


「ロイが反撃する直前。細かく言えば腕を掴む前に」


「すごいね。やっぱりマンツーマンで稽古して「断る。早く彼氏に会ってこい」


 ロイが腕時計に目をやると、慌てながら走りだそうとするが何かに気づいて足を止めた。


「お礼言ってなかったね、助けてくれてありがと。それと明日の武道大会は出ておいたほうがいいよ。どうせ護衛軍の人に目を付けられるからエントリーしてないでしょ」


「そうだけど」


「今回の大会にはレイス様が来るらしいわ。他の兵士とは次元が違う力を持つ最強の竜討伐隊の兵士よ。その人に目がとまれば竜討伐隊にオファーが来るらしいわ。国の王も強く反対はしないらしいよ」


「へー。というか、様って……」


「レイス様は女性の憧れよ。あの美貌を持ちながら国が、竜が恐れる女性兵士。言ってなかったけど私もレイス様目当てで竜討伐隊に入るの」


「学業、武道の成績めっちゃ優秀じゃん」


「そんなもの、金持ちの私だったら竜討伐隊に変えられるわ」


「知りたくない裏事情を聞いた」


「あ! もう時間が無い! またね! 明日勝負しましょう」


 そのまま駆けて行ってしまった。


 そういや、ロイはこの男を捕まえようとはしなかったし、僕も同じ落ち国として同情する。


 確かに一般の国民として落ち国を迎え入れてくれた。


 制度や法は同じものを適用するが、そこに人情が入って落ち国の人は実際、酷い仕打ちを受けている。


 男を抱えてさっきまでロイが座っていた大木のに寝させる。


 武術大会か……。ショートカットと思えばやって損は無いけど、もしオファーされなかったら学校から不真面目に武道を取り組んでいたとされて、減点がありそうで怖いな。


 この森から僕の国の象徴が見える。上空に固まって動かなくなった白い竜。


 死んだとされたが、実際のところ何故浮かんだままなのか、周りにある透明な球体も分からず、謎が多いのだ。


△▼△


 結局一晩考えて参加しようとしたが、急なのでもちろん拒否された。しかしロイが先生になにかをして押し通してくれたそうだ。これで昨日の貸し借りは無しと言われた。


 一日の授業を潰して行われる武道大会は、互いに軽装の防具と木剣でどちらかが負けを認めるまで行われる。


「まさかグリアが参加するとは思わなかったぜ」


「気まぐれだよ。そういや予選は校庭を使って無差別に戦って人数を絞るんだろ」


「そうなんだけど、誰もかかってこないんだよ。俺って優しいから襲うのは気が引けるんだ。襲ってくるのは容赦なくぶっとばすけどな」


「お前が友達でよかった」


「どういう意味だ?」


 カーソンは外見からして強い人のオーラのみたいな物が出ているから、馬鹿ではない限り襲ってこないだろう。


「お前らが参加してくれるとは、ありがたいぜ。ロイ様の前でよくも恥を掻かせたな!」


 ロイに仕えてる男子の一人だ。たしか稽古の誘いをして見事玉砕したやつだ。


「あれは、自業自得じゃねぇかよ」


 カーソンが本当に、間を置かず容赦なく顔面に拳を入れた。


「これしきで……倒れるとは思うなよ、次は俺の番だ! おりゃあ! 見たか俺の雷の如く早いパンチを!」


「こいつ倒れながら夢見てるぞ」


「馬鹿だからしょうがない」


 ズルい気はするがカーソンの近くにいれば予選は突破できる。 


「そういや、グリア。お前は戦わないのか? お前と武道の時間に手合わせしてると、なんか手を抜かれているような気がして嫌だったんだ」


「本気でいつもやってるよ。カーソンが強すぎんだ」


「よくそんな事が言えるわね」


 会いたくない人が現れた。


「グリア君、露骨に嫌悪感を顔に出さないで」


「ロイちゃんって武術大会に出るんだ、なんか意外!」


「学校の行事は皆と仲良くなるチャンスだから、出るに決まってるよ」


「そうだよね、ロイちゃんを嫌ってる人いないもんな。女子にだって人気あるし」


「そんな褒めたってなにもでないよ、カーソン君」


「名前呼ばれるなんて嬉しいな。……あれ。いつも後ろにいる男子達は?」


「なんか、私を楽させるために戦いに行ってくれたの。皆優しすぎて私嬉しい。グリア君、鼻で笑わないで」


「ロイちゃんは大丈夫だけど、グリアは心配だ。このまま生き残って闘技場で痛めつけられるくらいなら、ここで俺が倒すべきなのかって考えるんだけど、ロイちゃんどう思う?」


「まぁルール上、立っていた者が規定の人数になるまでやり続けるから、危険だと思ったら最後に組み手で伏せてしまえば良いんじゃないかな。グリア君に痛みは無いし、仲が良い二人が殴りあうところなんて見たくないからね」


「それもそうだな! ロイちゃんに相談して良かったぜ」


「いえいえ。……カーソン君が負ける場面しか想像できないけどね」


「あはは、そんな風にならないように頑張るよ、ロイちゃん」


「カーソン、もう行こうぜ。仲良く話しててロイの男子に目を付けられたくない」


「それもそうだな。また本選で会おうな、ロイちゃん」


「はい。皆で頑張ろうねカーソン君、グリア君」


△▼△


 今日の武道大会予選は三人の突出した力で例年よりも早く終わった。


 一人目は最上級生の、努力すればなんでも叶う! という思想の持ち主で無駄に熱いが、殴り合いのときは無駄が無く、流水のように静かな戦いをする男だ。


 二人目は新年生の天才だ。死より苦しい修行を数年することで得られる魔力を用いて、他を寄せ付けない戦いを見せ付けた女だ。


 三人目は行事などにまったく興味が無かったが、幼馴染に無理矢理参加させられたという男だ。幼馴染が襲われているのを見て我慢が出来ず、周囲の人を殴り飛ばしていったという。


 しかしその三人にもカーソンの力は匹敵する。


 ロイも力を出していなかったようだ。


 他にも力を隠している人はいるに違いない。


 そして、まもなく武道大会が始まった。


 この後の惨劇もしらずに。

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