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竜と人への鎮魂歌  作者: ポティト
少年編
7/12

少年は学校に通う

 七年前、僕は国の逃亡未遂罪で奴隷の身分にさせられた。


 二年間は地下で仕事する覚悟をしていたが、一週間後に大量の竜の進撃が国を襲ったのだ。


 度重なる竜の地面への攻撃で、錆びていた牢屋が壊れた。


 同じ年の奴隷が混乱に乗じて地下から逃げようと提案してきたが、僕は真っ当に身分を上げる約束、といっても一方的なものを守るため反対すると、あっさり了承してくれた。


 その子に他の奴隷も続いて脱出するための鉄の重い扉を潜ろうとするが、潜ったのは竜の口だった。


 そのまま赤い竜は顔を扉に突っ込み、次々人を食べていく。


 皆は腰を抜かして叫んでいた。


 僕はそれを見て、恐怖や悲哀という感情が無かった。別に薄情というわけではない。


 ただ僕は、これ以上の惨劇を見たことがあり、またこんな竜を圧倒する力を近くで感じたのだ。


 壊れた牢屋の鉄棒を手にして赤い竜に飛びかかった。


 たしかに、恐れという反応を鈍らせる枷をとった僕はその場で誰よりも動けたが、やはり子供だった。


 単純な話、竜が僕より早く動いた。


 縮めていた首を伸ばし、僕に噛み付いた。


 が、脱出の提案をした子供に押し飛ばされ、助かった。しかしその子供は食われた。


 僕に怒りはあった。


 横から竜の目を刺した。


 赤い血液が噴出するが奥へ、奥へと力を入れ続けた。


 暴れてから赤い竜は逃げ出すが、子供の奴隷は下半身のみを残されたのだ。


 奴隷達が胸を撫で下ろす暇も無く次の襲撃者を見る。


 黒い竜。


 黒い竜が扉から少しだけ距離を開いて魔力を溜め、遠慮なくここを吹き飛ばすつもりだった。


 絶望に満たされた牢屋を救ったのは一本の槍であり、覚えがあった。


 嬉しさと、感謝が溢れて扉から出て見たものは、笑みを浮かべて走るレヴィアの横顔だった。


 僕は底知れぬ恐怖を感じた。


 ここからは面白くも無いから省くけど、奴隷は攻め込んできたインラ王国兵士と対峙することになり、僕は生き残ることが出来た。


△▼△


「なに物思いに耽ってるんだよ! グリア! あ、ロイちゃんのこと見てたのか?」


 休憩室のベンチに座って昔のことを思い出してたら背中を叩かれた。


「ちげぇよ。あんなやつ何処が良いんだよ、カーソン」


 僕が兵士育成学校で初めて友達になってからよく一緒にいるカーソンは、長身で腕っ節も強くて下級生からは恐れられている。


「めっちゃ可愛いじゃん。性格もいいし勉強と武道の成績もいいぞ」


「それは認めるけど、男子に媚びてるあたりがマジうざい」


「まーなぁ、あれが良いってやつもいるぜ」


「男心わかんねぇな」


「お前が言うなって……こっちにロイが来るぞ」


 後ろに男子を仕えさせてロイが笑顔で向かってきた。


「グリア君だよね? お願いがあるんだけど良い?」


 となりで落ち込んでいるカーソンは無視して、ロイの瞳をひたと見る。


「どんな願いだ?」


「わたしに、マンツーマンで剣の稽古をしてくれな「嫌だ、他をあたれ」


 後ろにいた男共に加えてカーソンが殺意の視線が送られた。


「ロイちゃんのお誘いを断る理由なんて無いだろ!」


「カーソン、考えてみろよ。マンツーマンなんて裏があるに決まってんだろ」


「あ、なるほど。一応ロイちゃんはモテることを自覚してるからな」


「ふ、二人とも、本人の私が近くにいるんだよ……」


「簡単な罠にかかるほど僕は馬鹿じゃない」


 筋骨隆々の男が大きな音を立ててベンチの背もたれを蹴った。


 自ら後ろに回転して着地すると、男に胸倉を掴まれた。


「落ち国の癖にロイ様を侮辱するのか」


「まぁまぁ喧嘩はやめようぜ? 先生にバレたら酷い罰を課せられるからさ」


 カーソンが喧嘩をなだめようとするが、僕は片手を上げて制止させる。


「侮辱してないよ、ただ心配なだけ。僕みたいに冴えない男に声が掛かるなんておかしいからな。僕より君のほうが武道の成績は上でしょ?」

「それもそうだな……」


 男は手を離し、謝ることなく振り返りロイに稽古のお誘いをした。


 あっさりと玉砕し、目頭を袖で押さえながらトイレに駆け込んだ。


「私はグリア君の秘密を知っているのよ」


「そろそろ昼休み終わるだろうし、教室に戻ろうぜカーソン」


「はぁー、喧嘩に発展したら俺まで巻き添え食らうんだぞ。気をつけろよ」


 適当に返事をして、教室に歩いていく。


「また、私を無視した……」


△▼△


 放課後、僕はすぐさま荷物をしまって、いつものとうりある場所へ向かおうとするが


「お前は武技道やらないの?」


 後ろの席のカーソンに話しかけられた。


「何回も言ってるだろ、やる暇が無い」


 武技道というのは放課後に行う活動で、弓、剣、槍などの武器の特徴を使って、同じ武器同士でルールとフィールドの下それぞれのゲームをするのだ。


 学生にとっては鬱憤を晴らすためにやっていたりする。


「そうだよなぁ。運動神経悪くないから良い線まで行けると思うのによ」


「褒めてくれてありがとよ。まぁ、助っ人ぐらいはやってもいいぞ」


「あはは、初心者にレギュラー取られるほど弱い奴はいないよ」


「だよなー」


「今日もグリアは忙しいのかー。女を貪るのに」


「お前の悪い口を貪ってやろうか」


「俺のファーストキスを熱い口付けで奪うというのか」


「考えただけで吐きそうになるわ。そんじゃ、もうそろそろ行かないと」


「おう、いってらっしゃい」


 カーソンに軽く手を振り学校を後にした。


 僕が住んでいるインラ王国は昔、僕の故郷である国に侵略してきた。


 結果は惨敗だったがインラ王国に、レイスという国最強の女性兵士が自分の力を全てインラ王国のために尽くす事を条件に、民を一般国民として迎えて欲しいというのだ。


 レイスは武力重視のインラ王国にとっては必ず自分の下に置きたいため、その破格の条件を飲む事にした。


 いや、脅しとも言える。レイスは上空に出現した白い竜を討伐した実績があり、インラ王国はその牙が自分達に向くのを恐れたのだ。


 そのお陰で普通の生活を送れているのだが、落ち国として蔑まれている。


「あのさ、ついてこないでくれる? ロイ」


 立ち止まって後ろを振り向き、威勢の良い兄さんが営む八百屋の裏に隠れている人に向けて話しかける。


「よく分かりましたね」

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