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竜と人への鎮魂歌  作者: ポティト
青年編
6/12

青年は同族を見つける

周囲は地獄絵図、醜く耳にべっとりと粘着する悲鳴は胸の辺りをむかむかさせる。


 広場の中央で空を見上げ、巨大な白い竜が光を身に纏い、取り囲む赤、青、黄、緑、銀、金、黒の竜はどれも血によって黒ずんでいた。


 周囲には誰もいないはずだった。


「おい、王様はどうした!」


 レイスが鬼気迫る表情で言ってきた。


 避難が遅れた人たちを探しにきたのだろうか。


「王様は俺にあの白い竜を殺せと御命令です」


「そんなことを、あの王様が言うはずが無い!」


「やっぱり、レイスさんも王様の性格を熟知しているようですね」


「……っ。そのことはどうでもいい! どうして――」


 レイスの頬の横を魔槍グングニルが通り過ぎ、頬に切り傷を付ける。


 背後にいた銀の竜が、口から尻尾にかけて丸い穴ができ、背骨の無くなった竜はグチャリと音をたてて崩れた。


「レイスさんみたいな真っ直ぐな人はまだ生きていて良いと思います」


 作った微笑みを向けた。


 少しは本心なのかもしれない。


「命令ではないですが、俺が王に白い竜を殺すと約束しました」


 持っていた三本の槍を左右と前方に突き刺す。


「レイスさんは、守りたいのを守ってください」


「…………わかった。レヴィアを信じる。無理だと思ったら逃げろよ」


 一つだけ頷く。


 そういえば、俺はこの人の命令を聞くときだけ、自然に頷いてしまう。


 今考えることではない、後にしよう。


 悔しそうな表情を見せてレイスはその場から立ち去った。


 俺は目を閉じて、透明な水に一滴の雫が落ち、周りの音は遮断された。


 右の槍を手に取り、水が真っ黒に染め上がった。


「一本目。……うおおおおおおおおおおおおお!!」


 広場全体の地面、周囲の建物、血、空気、そこにある全てのものを巻き込みながら魔槍グングニルは一直線に空を駆け上る。


 が、白い竜の元へと到達せずに空中で弾けた。


 まだだ、まだいける。


「二本目」


 さっきまで馬鹿にしていた叫びを、俺の口から発せられた。


 二本目の槍は一本目以上の威力で飛ぶが、白い竜の周囲に張られた透明な壁で守られた。


 跡形も無く槍が消える。


 ここまで強いとは思わなかった。


 白い竜は口を開き、魔力を溜め始めた。


 他の竜とは別次元の魔力量だ。


 あれが放たれればこの世界は空の屑になるだろう。


「やっぱり、父さんは強いな」


 上空を見ながら前方の最後の槍に手にかける。


「だが、他の竜とは、だ」


 なりふり構っていられない。


 四本の槍は、俺の魔力にどれだけ耐えてくれるかを試していた。


 だが、最後の一本になった以上、魔装具を壊す思いで魔力を込める。


 槍が震えだし、装飾が軋み、ヒビが入る。


「これじゃあ、届かない」


 より一層魔力を込める。










 静かな国から放たれたそれは、影に覆われた暗い国を照らし、遠くから見れば地面から飛び出した一つの流れ星だった。


 青白く見えるガラスの球体を貫き、淡く光る白い竜の腹に突き刺さったように思えた。










 白い竜はかすり傷を負った。


「これじゃあ、どうすることも出来ない。このまま世界は終わりかな」


 卑屈に少しだけ笑った。


 つまらない人生だった。


 極限の状態になれば自分に正直なれるのかな。


「あぁ、母さん、ごめんなさい。……俺も今から行くみたいだ。母さんの言ったとおり、一人は寂しいな」


「まだ私がいる」


 後方からレイスが自身の弓の魔装具と一本の矢を手にして現れた。


「まだ親離れできないのか?」


 意地悪そうに笑ったレイスを見て、口に出していたことを少しだけ焦った。


「やっと、人らしい表情が見えた。無口でクールぶるのは良いけど、一人で何かを成し遂げようとするな。……言いたいことは終わったし、さっそくあの白い竜でも倒すか」


「俺が無理だったんですよ」


「だから私には出来ないと? まぁ、その通りだ。だから私とレヴィア二人で倒す」


「どうやってですか?」


「説明してる時間は無さそうだから、作戦を伝える。レヴィアは私に抱きつけ」


 頭のネジが数本足りない。


「変な意味ではない! え、ええーと、私とお前がこの魔装具の使用者になるんだ。一人で戦ってきたお前には分からないだろうが、弓の魔装具は接触している人も使用者として認識できる。弓の使い方では私の方が長けているので、私に抱きつけというのだ」


「それでも無理です」


「私に抱きつくのが、ということか?」


「俺の魔力が魔装具を、レイスさんの体を破壊するかもしれません」


「親離れできないレヴィアの魔力なんてたかが知れてる。それに、私は竜討伐隊最前線隊長だ」


「部隊が抜けてますよ」


「言いにくいんだよ、私が総指揮になったら変更してやる」


 この人といるとつまらなくない。


「分かりました、レイスさんの体を信じましょう」


「体かよ。……まぁいいや。ほら、胸に飛び込んでくることになっただろう?」


「前のは抱きつく話じゃないですよ。それに打つとき邪魔になるんで後ろから、肩に手を乗せます」


「密着度は低いけど、行けるだろう。遠慮はするなよ」


 レイスが弓を構え、矢をかける。


「その矢って……」


「くすねてきたから皆には内緒だぞ」


 矢の魔装具が昔あった。槍と同じように吸い取るだけだが、矢の表面積に対して触れる面積が大きかったために平均を保とうとする弓との相性は最悪だった。


「それに、竜討伐隊の奥の奥の手で、強度は他のとは桁違いだ。まぁ、一本しかないんだけどね。……行くぞ、時間が無い。レヴィア、全力で私に魔力を流し込め!」


 俺は全力で、無我夢中で、流し込んだ。


 レイスの歯軋りが聞こえても止めない。


 足が震えていても止めない。


 今までの戦いで受けてきた古傷が開いても止めない。


 俺より小さい背中が大きく思えた。


 額をレイスの後頭部にのせた。


「信じてますよ、レイスさん」


「分かってる」







 槍とは比べ物にならない程大きな流星が白い竜を貫通した。







「お前……無意識かは知らんが……送る魔力に手加減あったぞ……倒せたから良いけど」


 レイスは気を失って倒れるが、支えて地面に優しく寝かせる。


 その瞬間脇腹に鈍い痛みが走り、三メートルほど吹き飛ばされた。


「なにしてくれてんだよ! 時間かけて白い竜を召還したのにー」


 蹴った張本人がその場でぴょんぴょんと、飛び跳ねた。


「まぁいいや、こっちの方が楽しそうだし。世界を壊そうとする竜人と人間を守る竜人の、これからの運命を決める一騎打ち! いいね、面白い」


 白い長髪の少女のような風貌だが、黒い竜の翼が生え、黒い竜の耳がある。


 すぐに距離を詰め少女が腹に蹴りを入てきた。


「あ、やっぱりこういうのは場所を決めたほうが良いのかな。でも、白い竜の件は死んで償うべきだよね」


 少女の拳が鳩尾に深々と突き刺さる。


「おい、竜の少女」


「気を失ってないの!? すごい、面白い」


 笑顔のまま少女は手の平をかざし、魔力を放出した。


「これなら、どう!? 手加減したけど君なら死の瀬戸際までいくんじゃないかな!」


 砂煙のなか少女は大きく声を出す。


「竜の少女」


「すごっ……! 初めてだよ、あれを受けて原型が残っているのは! 面白い面白い」


「今疲れてるから、魔力量のバランス取るの難しいから後悔するなよ」


「え」


 白い翼に白い耳、俺もこいつと同じ竜人だ。


「ぎゃあああああ、ごめんなさいごめんなさい。まさか白い竜人だとは思わなかったんです! 僕って黒い竜人で他の奴らより強いから調子に乗ってました! ごめんなさい!」


 俺の目の前で涙目になりながら土下座する少女は、数秒後八ッとして後ろに距離をとる。


「この国壊したの僕が張本人ですし、恨んでますよね、殺したいですよね」


「いや、怒ってないよ」


「ふぇ?」


 予想外の返答に竜の少女は間抜けな声を出す。


「もともとこの国は壊すつもりだったし。俺だって世界を壊そうとする側なんだよ」


「な、なにを言っているんですか? だって白い竜殺したじゃないですか」


「あぁ、殺したよ。あいつが俺の父さんだったこともあるけど、世界を壊す時は自分で手を下したいんだよ」


「話が掴めないんですが……」


「細かいことは置いて、俺はお前と同族であり、生き残りなんだ。俺は竜人としてこの汚い世界を壊すんだけど、お前も同じ考えなんだろ。人間を、竜を、辛く苦しめながら殺したかったんだ」


 少女は涙を流した。


 今までずっと竜人として一人、一匹として生きてきた。頼れるものはいない、いや頼りたくなかったのだ。


 竜人は生涯敵対する異種の間に生まれ、呪われた種として迫害を受けてきた。

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