4.彼女は俺に何を求めているんだ?
折角店長を追い出して「バイト内恋愛」というルールを変えたのに他のバイトと付き合うとは考えもしなかった。
そう、俺はうなだれて帰宅。
だが何か話ができていないだろうか?
まるでこうなることがわかっていたような展開。
俺が彼女を好きになるように仕向けて、それを邪魔する人物を排除させ、本命と結ばせるシナリオを考えていた奴がいる気がする。
そう考えると腹がたってきた。俺は利用されたのだ。
だがあの店にそんなことを考えた奴がいるとはなんと恐ろしい店なんだろうか?
翌日バイトだったので冷静を装って行った。実はいちゃつく二人が見たくなかったので行きたくなかったのだが、そのことよりも俺の考えが当たっているかどうかが知りたかった。
「おはようございます」
休憩室に入り同じ年の石山さんがいたので挨拶して着替えようとすると
「おはよ。まさかあんな手で店長を追い出すとは思っていなかったわ」
俺は着替えているてを止めて聞いた。
「どういうこと?」
「ごめんね。何と無くあなたならやってくれると思ってたんだ。歩美に悪気があったわけじゃない。そう動いてもらえるよう彼女に仕込んだのはあたしだから恨むならあたしを恨んでちょうだい」
「俺が歩美ちゃんに好意があること知ってたのか? 彼女がそんなこと話すとは思えないし、石山さんとそんなに会ったこともないだろう?」
「まあね。ただあたしとしては恋愛がどうのこうのよりも店長を追い出したかったから、何かいい知恵ないかと模索してたらあんたがいたから歩美を使って利用させてもらっただけよ。あんたなら何かあたしの予期しないことで追い出してくれるんじゃないかと思って。なかなか人を見る目、あるでしょ?」
「俺が店辞めたらどうするつもりだった?」
「そんな人今まで散々見てきたもの。あたしとしては店長さえいなかったらみんな好きだし仕事も好きだからね」
「とりあえず今回やられたことは忘れないわ」
「出来れば寝たら忘れて欲しいんだけどね。晩御飯ご馳走するからそれじゃあダメかなあ?」
背中まで届く黒髪。二重瞼をパチパチさせて上目で俺を見てくる。
可愛い顔してこんなとんでもないことを考えていたとは本当に何を腹に隠しているかわからないと思った。
俺は着替え終えて「とりあえず飯はおごれ。できれば酒もつけてな」と言うと
「了解しました」と元気よく答えられたのがまた腹がたった。
バイトを終えて近くにある居酒屋に行った。
「たまに1人で来るんだよねー」
彼女は「好きなものをどうぞ」とメニューを俺に渡してきた。
俺は「とりあえず生」と言って、メニュー表を返す。
テーブルにビールが2つ届いて何にかわからないが乾杯をする。
「少しは落ち込んでるのとれた? これでも悪かったなーとは思ってるんだよ?」
早速この話か。俺はため息をついてしまった。
「もういいよ。計られたとわかったら諦めもついた。店長もしょぼそうな人だったし楽に仕事ができるし、ここでは出会いとか求めない方がいいともわかった」
「お利口さんです」
「石山さんに何か仕返しも考えたけどアホらしくなってきたし、だいたい男らしいことじゃない」
「なんで? 復讐すればいいじゃない」
「暴力は好きじゃないし、ネチネチしたこともしたくない。俺を手玉に取ったように手玉に取ってもいいけど頭脳戦じゃ勝てる気がしないんでね」
「ふうん。ま、いいけど。あと、あたしのことは沙織でいいからね。あんたは何と呼べばいい?」
「あんたでいいよ」
俺は自分で頼んだつくねを食べる。
なんと言うか、どうしても好きになれない奴だと言うことがだんだんわかってくる。
どちらかというと、ライバル的な奴だと思い始めてきた。
「平和なバイトだけどどうするの?」
変なことを聞いてくる。
「平和が一番じゃないか」
「おもしろくないでしょ?」
「おもしろいってなんだよ…。たんたんと仕事をして稼げるのが一番だろうが」
「えー。折角だから刺激求めて行こうよ」
こいつは俺に何を求めているのだろうか?
何を考えているのかさっぱりわからない。
「例えば…?」
俺は残ったビールを飲み干してグラスをテーブルに置いて聞いた。
そして彼女はとても嬉しそうにこう答えたんだ。
「歩美と佐々木君を別れさせるとか」
本当に何を考えているのかさっぱりわからない。