軌跡(エロス)の果てに
「お・じ・い・さ・ん?」
地底から響くような声にお爺さんはアホみたいな笑い声をとめて、振り向きました。
すると、そこには
「地獄へ旅立つ準備は出来たよね?」
三匹のしもべを従えて、釘バット二刀流の桃太郎が笑顔で仁王立ちしていました。額に巻いた鉢巻にはいつもの『ラブ&ピースでフルボッコ鬼退治』というゲーテも感激する文言ではなく『サーチ&デストロイクソジジイ殲滅作戦』というチャイコフスキーの格言がプリントされていました。
「……こここ、これはどうしたことじゃ。桃太郎、ツンデレラは来ぬのか?」
「現実逃避は良くないよ。何で入所して数日で老人ホームが真っ二つになっているのかなあ?」
笑顔のままの桃太郎の後ろには鬼が島㈱の社長、鬼が島権兵衛が巌のように屹立しています。しかも、黒服の屈強なボディーガードたちがさらにその後ろに控えていました。
「少しは常識があると思ったが、どうやら完全にアウトのようだな」
鬼が島権兵衛は心底残念そうにつぶやきます。
「始末しろ」
その声を合図と受け取った黒服の男たちは一列に並んで一斉にアサルトライフルをお爺さんに向けました。
「待つのじゃ、鬼が島権兵衛! ここでワシを抹殺したら、あの子が悲しむぞ?」
「誰だね、それは?」
「ツンデレラという絶世の美少女じゃ。あの子の心はワシの」
「嘘は良くないわね、クソジジイ」
「何じゃと?」
列をなした黒服たちの間からひょっこり現れたのはデニムスカート姿のツンデレラでした。
「彼らに見覚えはないかしら? 関東竜胆会の特殊部隊よ。あなたを完全に倒すために集めたの」
彼女は優雅に一礼すると、周囲が凍りつくような声で命じます。
「殺りなさい。細胞一つも残しては駄目よ。あれは細胞分裂とか常識の範疇では扱えない代物なの。存在自体を消すしかないわ」
お爺さんは震えあがります。
まさかここまで劣勢になろうとは思ってもみなかったのですから。
「年貢の納め時、ということじゃ。貴様、我が真なる拳にて那由多の果てに帰れィ!」
回復した藤崎ゴドウがお爺さんに向けて構えをとりました。
「ままま、待つのじゃ。こんなか弱い老人をいたぶるなど虐待じゃ……数の暴力じゃ」
「「「お前が言うな!!!」」」
「ワシは世界の希望にして、老人たちの至宝。ワシのいない世界はすぐに滅亡へと向かい、イエス=キリストの再来はやがてセクハラの嵐になるであろう」
涙を浮かべて間違った方法で許しを請うお爺さんを一瞥して、桃太郎は金属バットを突き付けました。
「お爺さん、天罰覿面って言葉知ってる?」
「……ワシは罰を受けるようなことはしておらぬ。この老人ホームは……そうじゃ、隕石が落下したのじゃ! 銀髪のマザコンが邪神に祈りを捧げての、それでいきなり隕石が降ってきたのじゃ!」
ツンデレラはすぐさまスマホをポケットから取り出して、お爺さんが老人ホームを叩き割っているシーンを再生します。
「……こ、これはねつ造じゃ! このスマホ、壊れておるのじゃ! おのれ、セフテバンク! ワシをハメようとは、万年早いわ! OL千人分のセクハラを……」
「お爺さん、もう詰みだよ」
ため息をもらして、桃太郎が優しく語りかけます。
「お爺さんは日本政府から第一種危険生物指定を受けたんだ。だからね……」
ニヤリと極悪な笑みを浮かべる桃太郎。
彼の横には鬼が島権兵衛、ツンデレラ、藤崎ゴドウ、三匹のしもべが戦闘態勢に入っています。
「ここで終わらせよう」
圧倒的な数の暴力によるお爺さん掃討作戦が開始されたのはこの時でした。
こんばんは、星見です。
ブルーマンデーですね、ああ今週が始まってしまう。
落ち込んでいても仕方ないので、頑張ります。
さて、鬼退治Ⅳですが、次回でお終いとなります。よろしければあと一話お付き合いくださいませ。
ではまた次回お会いできることを祈りつつ……




