蟹座、どっと疲れたぜ
森の中の小屋の前。
この小屋にクラビスは弟子二人と住んでいる。
弟子は男と女一人ずつって言ってた気がする。
「お邪魔ー」
と言って入って行ったら、少年少女に剣を突きつけられた。
確かこいつらがクラビスの弟子だ(たぶん)。
少年の方は、17歳位で、灰色の髪のオールバック。目付き悪い。
少女の方は、同い年だろう。橙色の髪をポニーテイルにしている。こちらは、目付きが悪いのではなく、ただ単に少しつり目。なんか気が強そう。メイディンほどじゃないだろうけどな……いや、アイツより気が強い女なんていねーだろ。
"します"を省いたのが悪かったのかな。
「アンタ何者だ」
「師匠の命を狙いに来たのか?」
「お邪魔します」
「ふざけるな」
違ったようだ。
つーか、あの爺さん、賞金掛かってねーし、誰にも恨まれてねーだろ。何故に命狙われんだよ。
とは思いつつ、俺のイタズラ精神が引っ掻かれる。
……引っ掻かれるじゃねーや。えーっと………まぁ良いや。
「……貴様等ごときでは俺を止められまい。大人しく奴を差し出せ」
「な、何だと…!!」
「貴様等は魔術師だろう?剣を使って勝てるとでも思っているのか?」
「……舐めるな」
そう言って少女の方が斬りかかってくる。
俺はその剣を躱さず、木の枝のようにへし折る。
「なっ…!」
「その辺りでやめんか」
あーあ、結構楽しかったんだが…。
「「師匠!」」
クラビス・オールメス登場だ。
真っ白くてメッチャ長い髭が特徴の、何処にでもいそうな爺さん。
コイツは魔術師で、勿論その弟子達も魔術師。
逆に、師匠が魔術師なのに弟子が魔術師じゃなかったら何なんだよ、って話だよな。
「お主等もあった事があるじゃろう」
「「え…?」」
少年少女は同時にこっちに振り返る。
息合い過ぎだろ…。
「「……もしかしてロアールさん…?」」
「お前等の息の合いっぷりが気持ち悪いんだけど……」
「「い、息なんて合ってません!!」」
「もうどっかで仕組んできただろ!!」
ナチュラルでここまで息が合うのって双子位だぞ。
双子でも怪しい位のレベルだ。
……余談だが、ウィンツは一人っ子らしいぞ。
「さて、中へどうぞ。立ち話は辛いのでな」
「ん、ああ」
この前クラビスが、「儂が死んだらバカ弟子のどちらかに蟹座を継がせてやってくれ」って言ってたな…。
まぁクラビスが言うのだから、コイツ等はその辺の輝流士なんて、相手にならない位強いんだろう。
あんましお世辞とか言う奴じゃねーし。
「ディオール、お茶を持ってきてくれんか」
「了解っ」
「キュイ、お前は茶菓子を持って来てくれ」
「はい」
どうやら少年の方がディオール、少女の方がキュイらしい。
あ、別に名前は覚えなくても良いんじゃないかな。ここだけの話、もう出て来ないと思う…。
俺の勝手な予想だけど。
二人は、それぞれ頼まれた物をすぐに持って来た。
そしてその後外に出ていく。
「さて、お前と話すのは今までの奴より神経使いそうだ」
「ふぉっふぉっ、儂のような老いぼれに対して気張らんでも良い。気楽に構えなされ」
「そうはいかねぇよ。今までは自分の事しか考えてねぇ奴ばっかだったからな」
俺も含めてだけど。
……自己中って言う奴いるけど、この世の人間って大抵そうじゃないか?
「ふむ、面白いのぅ。自分の事しか考えてない奴ばかりとは……」
「ん?」
来たよ、この空気。
ひゃ~、ここ出る時には俺号泣してたりして。
「そんな者はこの世におりはせん」
「いやいやいや、そりゃねーって」
「この世には、自分の事ばかり考えとる奴しかおらんよ」
これが儂の持論じゃ、と付け加える。
ちょっと言葉を変えるだけでここまで意味が変わるとは…。
「って、人の為に行動する奴とかいんじゃん。俺の命はアイツのもんだ!って言う奴とか」
つっても、そんな奴、平面世界にしかいないだろうけど。
マジで言ってる奴とか見たことねーよ。
え?お前平面世界の住人だろって?あーあー、聞こえなーい。
「そんな者、実際の世界におらんじゃろう」
だよねー…。
「仮におったとして、そやつも結局は自分の事ばかり考えておるじゃろうて」
「どういう事だ?」
「そやつも無償でそんな事を言っておるわけではあるまい。そうする事で、何かを返したいと思っておるんじゃろう。そうやって、報い、報われたいんじゃろう。結局は自分の事じゃ」
……すげぇこじ付けだな。何からしくないな。
だが、コイツ相手に口で勝てる気はしないので、これ以上の反論はやめておく。
「さて、獅子よ、儂に訊きたい事があるのではないのか?」
何で解んの…?
読心術でも使えんの?プライバシーもへったくれもねーぞ。
「正確には表情を見て予想しとるだけじゃ」
「俺は良く知らねぇけど、そういうのを読心術って言うんじゃねぇのか?」
で、話を戻す。
「話が早くてありがたい」
「先に言っておくが、『炎の子』については儂もあまり知らんからの」
……何なの?
何で13星座のメンバーは話の種を摘み取るのに手慣れてんの?
「どうやら本当に『炎の子』絡みだったようじゃな」
「ああ、そうだよ。やっぱ番外編じゃあ、こう言う話はできねーか」
「ふむ、本編ではいくらか知っておるかもしれんの」
じゃあ本編でもっかい訊きにこようかな。
……いや、本編だったらカインの修行とっくに終わってるじゃねーか。
「あ奴とはつい先日会ったわい。その時は、闇の少女と吸血鬼少年と一緒じゃったのう」
「あ?」
「いやいや、一度顔を見とうてな。ある村の村長として会ったんじゃ。確かあの時は……『グーライズ』と名乗ったか」
「あー、そう……」
よく分からねぇが、まぁ置いておこう。
つーか、俺にそんな事言われてもなぁ…。
「そう落胆せんでもえかろう。もしや、そんなに爺との世間話が嫌なのか?」
「お前との世間話は非常に疲れそうだな」
別に落胆した訳ではないんだが…。
そう見えたのか?
「爺と若者では話が合わんかのう」
「そういう問題じゃないんだが」
「よく解らんが、『マジパねぇ』という奴か」
「本当に解ってないんだな。色々と」
まず意味から理解できてねぇよ。
「じゃがな、爺の世間話を聞くのが若者の務めじゃぞ」
「さっきから何で爺って連発してんだよ」
普段はそんな事言わねぇんだけどな。
そういえば老いぼれとか言ったり、らしくないような事言ったり…。
……え、そういう事なの?言いにくいけど、何かアレか?お別れの予兆的なアレなのか?
「お、おい!お前……」
「……気付いてしまったか。そうじゃ、儂も……」
やっぱり、そうなのか。
流石に俺でも、今まで一緒に戦ってきた奴との別れは寂しいものが―――――
「ツイッターにハマってしもうてのぅ」
「大バカヤローッ!!」
とりあえず謝れ!
俺を含め、この話を呼んでいる読者様に謝れぇッ!!
数話前にコイツが一番まともって言ったが前言撤回だ!
「何じゃ。儂は何も変わった事は言うておらんのに……突然、爺を怒鳴り出すとは……最近の若者は怖いのぅ」
「ぐっ……」
確かにコイツは何も言ってない…。
全部俺の勘違いだ。
コイツ……番外編だからってキャラ変えて来てやがる…!
普段はこんな奴じゃないのに……こんな奴じゃないのにーーッ!!
「こう言うネタは不謹慎だとは思わんのかのぅ……」
俺が悪いのか!?
俺が悪いというのか!?
何てこった!
「読者様方、申し訳ございません。この獅子が言うには儂に全ての責任が御座いますようで……」
「そこまでは言ってねぇ!悪かった!俺が悪かったから!!」
俺が言うと、クラビスはふぉふぉっと笑う。
超今更だが、クラビスは13星座のメンバーの事を称号を座抜きで呼んでいる。
解り辛いな……例えば俺の事を獅子と呼んだり、ジャクラの事を水瓶と呼ぶような感じ。
ただ、メイディンだけは"危険娘"と呼んでいる。
以前一度、メイディンを乙女と呼んで襲われたことから、そう呼ぶ事にしているそうだ。
その時メイディンは、「乙女だと?訂正して詫びて土に還れ」と言っていた。
爺さん相手にも容赦のないメイディンさんだ。
「これで儂に、思い残す事は無い」
「嘘こけ。こんな事でスッキリした雰囲気出すな」
そう言って俺は席を立つ。
このまま話しこんでると、俺の心に疲労が蓄積されまくる。
まくり、まくって、まくられる。
うん、意味不明。
「おや、もう行くのか」
「ああ、実を言うと、俺今日他にも色々と用事あるんだ」
「そうか、丁度良かった。儂もあのバカ共の修行を見ないといけないのでな」
「そうだったのか」
俺はそう言って扉に手をかける。
その時だった。
「ありがとう、今まで、楽しかったわい」
「……いや、騙されねーよ」
俺は部屋を出ていった。
大地を照らす13星座の蟹座が、ディオールという名の少年になるのは、今からそう遠くない未来だという事は、この時の俺には、解る筈もなかった。
外に出た俺は、やはり手紙を読んでいる。
「はぁ!?」
今呼んでいるのは、シーパス・ラムリア、という少女から送られた手紙。
その手紙の文面はこうだ。
『あたしの部屋散らかってるから、獅子座の部屋に行くね!』
シーパス・ラムリア。
大地を照らす13星座の牡羊座。
13星座の中で最も幼く、最も不誠実な子羊。
と、いつも通りの過程を済ませた後、最後の行を見て俺は一瞬で移動した。
『P.S. 2時位に行くね♪』
只今の時間、2:24pm。
~大地を照らす13星座の名前解説~
今回はシルゴートとアルティスです。
一気に二人って豪華ですねぇ。
はい、まずファリスは適当です。
マ〇ドで考えました。
シルゴートは言わずもがな、『goat(羊)』から来ました。
アルティスは……それぞれは適当なんですけど、頭文字がアルファベット順になっています。
ABC……Zです。
Altis.Begra.Clmena……Ziorandiaって風に。
英語で書くと
Shillgoat.Fallis
……アルティスは割愛で(笑)