―prologue―
『戦争』。
全ての大罪が辿り着く結末。かつては神々までもが犯した過ち。
決して絶えることのなかったそれは常に、或る者の勝利と引き替えで無際限に人身御供を生み出していった。
その哀しき事実は何時の時代も然り。
隆盛には及ばずとも尋常な日々の中にあったであろう町は、既に人が住む事など到底出来ない有様となっていた。最早薪炭としての役割しか存在せぬ住居は囂々と燃え、混凝土造りの建物までもが大破している。その光景はまるで、神々の黄昏――ラグナロクを思わせた。
天災に遭おうともここまでの惨事にはなり得ないだろう。
生物の存在を許すまじと広がりゆく猛火。紅蓮の天鵞絨に包まれてゆく、町であったモノ。消え逝く平温、死に逝く露命。
そんな地獄に如何なる奇跡が在ったのであろうか。そこには一人の少女が佇んでいた。
顔は煤で汚れ、彼方此方が破れている服の隙間からは無数の擦り傷が見える。致死量の怪我は見当たらないが、この状況ではいずれ他と同様に無惨に焼け死んでいくのであろう。勿論少女もそれは理解している筈だ。
しかし、そんな死と隣り合わせの、ただただ苦しいだけの世界で、
少女は、
歌っていた。
死を間近にした少女は此の悲運に対して愁嘆もせず、原因であろう顔も知らぬ誰かに慷慨しているわけでもなく、歌うことしか知らないかのように、その澄んだ声で静かに旋律を奏でていた。
いつかは喉も爛れ声も出なくなるであろう。だが戦場に響くそれは、まるで終わりなどないかの様に、いつまでも流れ続けていた。
それは、
懺悔でもなく、
祈祷でもなく、
自らの運命を悟った少女の、最期の座興。
まるで咲くことしか知らぬ花のように、
まるで舞うことしか知らぬ蝶のように、
終焉を迎えるその場所で、
歌い続けていた――




