最終話-③
最終話が長くなってしまったので大変申し訳ありません
では、お楽しみ下さい
星羅に悠呂をまかせ、動き出した浅乃木と清は向こうへ通ずる道はないかと二手にわかれ探し始めた
奥に進めば進むほどさきほどまでいた場所が嘘のように足場が悪くなっていく……
瓦礫の除去に躍起になっている浅乃木のもとに雑音混じりの通信が入った
「…先…輩……こ……ら…です」
「清、いまどこだ?」
「………の…って…左手に……いてきたので…を……ぎに………」
雑音が酷すぎてよく聞き取れない
「あ? すまん、もう一度たのむ」
「さっきの…って……扉を……その先に俺のネクタイ……そこ……み…いって…すぐ……」
「………わかった、また連絡する」
よくわからなかったが、とりあえずきた道を戻り、ここへ入ってきたときに使った扉まで来たところでこちらから通信を試みる
「おい、清! 入ってきた扉まで来た、ここからどう行けばいい?」
依然雑音が入るが今度はちゃんと聞き取れる
「その扉の道を少し行って……左…手……俺のネクタイ…置いてるんで……右に来て……い」
「わかった、すぐに行く」
言われた通り清が瓦礫をよけて作った道を行くと二手に別れた場所が現れ、さらに聞いた通りに大きな瓦礫の岩に紺色のネクタイが挟んだあったので右に行ってみた そこを曲がると見覚えのある背中がそこらにあった一本だろうか、鉄の棒のようなもので半壊しているドアにあてがいこじ開けようと格闘していた
「ここか?」
浅乃木が声を掛けるとこちらに振り向いた清は、ドアとの格闘をやめ「おそらく」と零した
浅乃木は半壊したドアに近づき扉の具合を確かめると、自身も手頃な棒はないかと探し、瓦礫と瓦礫の間に刺さる少し太めの鉄のパイプを見つけた手にした
「おっし! 一気にやるぞ」
浅乃木の気合いの入った一声に清は頷くと、力を込めた 浅乃木もドアに鉄パイプを差し込むと清とは逆の扉へ負荷をかけた、ドアは耳障りな鈍い音をたてながら徐々に開いていく
ちょうど人がひとり入れそうな隙間が出来た
「清………行け」
「了解!!」
清は素早くドアのなかに入り、二人を探しに入った 浅乃木はその後ろ姿を見送ると目だけで辺りをさぐり何かの拍子で閉じてしまっても隙間ができるくらいの手頃な石はないかと探した
ちょうど足下に大きな岩があったので、パイプをドアに挟んでその岩に手をかけた
腰が抜けそうになるくらいの重量だ、足をふらつかせながら何とかドアに挟み込み、自身も清の後を追って走った………
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星羅は無我夢中で悠呂に心肺蘇生を続ける 悠呂の胸を圧す腕が段々重く感じ、もう限界だと諦めかけたとき息を吹き返し咳き込んだ
星羅は慌てて悠呂を横向きの姿勢にし背中をさすってやる
悠呂は咳き込みながら、うっすらと目を開けた
「せい………ら」
星羅は悠呂の顔を覗き込んで声にならない声で一言「うん」と応えた
「…僕は……一体?」
まだ意識がもうろうとしながら訊いてくる しかし、しっかり星羅と視線は合っていた
「…少しの間、呼吸…止まってたの」
何故だか涙が溢れ、嗚咽混じりに星羅は説明していた
「そうか……」
もうろうとした意識でむせび泣く星羅を気遣い、「もう、大丈夫だよ」と弱々しく微笑んでみせた
それに応えようと星羅も涙でぐしゃぐしゃな顔で笑んだ
それを見て安心した悠呂は、鉛のように重たい体を横向きから自分でなんとかあお向けに戻し大きく息をついた
星羅はそんな悠呂の横顔をみて涙を拭いながら「あのね」と続けた
「……悠呂を助ける方法をね……おじ様たちに教わったのよ」
とぽつり話す
「おじ様?」
まだ、意識がはっきりしない頭で言われぴんとこないようで天井を見つめたまま悠呂は口を噤んでしまった
星羅はくすりと笑って応えてあげた
「あなたのお父様よ」
「とう……さん」
悠呂は天井を見つめたまま呪文のように呟いた
どこか遠くで誰かが走ってくる音がしてくる
悠呂はこれもぼうとする頭のせいではないかと思っていると
「悠呂くん!! 無事か!?」
と声が聞こえてきた、幻聴か、はたまた夢なのかと疑い目を上げてみると薄暗い闇の中に淡い青が目に入った
「……意識はとりとめたんだな? 蘇生して何分くらいかわかるかな?」
傍にいる星羅に話し掛けながら清は悠呂の顔を覗き込んだ
薄闇で良くはわからなかったが、どうやら助けがきてくれたのだとわかると悠呂は安心してしまったのか再び目を閉じてしまった
「……そんなに経ってないかと…ついさっき目が覚めて……悠呂!!」
星羅は再び目を閉じてしまっている悠呂を見て驚き動揺した
その視線を追って清は悠呂を見やり、にこりと笑うと落ち着いた声音で星羅に言った
「……ん、大丈夫だよ ほら、胸を見てごらんゆっくりだけど上下に動いているだろ? ちゃんと息はしている 助けがきたんで安心して寝てしまったんだろうさ」
そう星羅に説明しながら清は眠ってしまった悠呂を背中に背負い始めた
星羅も慌てて駆け寄り、手助けをしてやる
「ありがとう、君は大丈夫かい? 走れるか?」
「はい」
「じゃ、時間がない 行くぞ!」
清は悠呂を背負ってもと来た道を走り出した、星羅もそのあとを必死についていく
時折、大きな揺れがきてすでに脆くなっている天井から小さい瓦礫が降ってきてそのたびに足を止める星羅に清は振り返り叫んだ
「急げ! 立ち止まってる場合じゃない!!」
「はい!」
清に強く促され、星羅は必死に後を追った
なんとかましな場所にたどり着くと
「清!!」
と呼ぶ声がして声の主を探すと、浅乃木が険しい顔で待っていた
「先輩!!」
そう駆け寄った清の背中に背負われる悠呂を見るなり安堵したような苦く厳しい表情をした
「大丈夫ですよ、眠っているだけですから」
「あ、あぁ………さっきの出口は一応確保してあるが、この揺れだあのドアが開いている保障はない 急ぐぞ!!」
浅乃木はすぐに背を向け、自身が先頭にたって走り出す 清は星羅を振り返りひとつ頷くと後を追って走りだした……星羅もすぐにつづく
揺れは一向におさまらず、時には大きな瓦礫が三人を襲う--
この研究所が崩壊するのも時間の問題だ、自然と三人の足は早くなる
先ほど差し込むんでおいた太い鉄のパイプは見事に折れ曲がり下に転がり落ちていた………
保険にと噛ましておいた大きな岩の瓦礫がなんとか閉まらずに保たれていた
その隙間に躊躇なく浅乃木は自身の体をねじ込み、足で半壊の扉をこじ開けると叫ぶ
「清、行け!!」
「はいっ!!」
清は背中の悠呂を気遣いながらしゃがみ、浅乃木の足下をくぐり抜けドアの外に出きったとき再び大きな揺れに襲われる
ドアはこの大きな揺れに嫌な音を立て足で押さえる浅乃木を凄い力で圧し戻し始めた
「う……が!!」
「おじ様!!」
「先輩!!」
何とか浅乃木は踏ん張り、迫りくるドアを力の限り押し戻すがその負荷は尋常ではなく、限界に達し始めていた 苦しい表情のまま星羅に顔を向けて叫んだ
「もう……もたん、は、はやく……こっちへ」
星羅は今にも泣きそうな顔をして戸惑っている
「ぐあ! は、はやく……するんだ!」
扉は軋む音をさせ今にも挟み潰す勢いだ
「先輩!!」
清は悠呂を背負いながら浅乃木の身を案じ叫んだ
「お嬢さん……はやく!!」
星羅は慌てて駆け寄ってきたので、浅乃木は力の限りドアを押し戻すつもりで足に力を入れるとその足にそっと手が触れた……
「な、なにを………」
星羅は優しく笑って首を横に振ると おじ様、ありがとうと呟いた
どんーー
「なっ………」
星羅は力強く浅乃木の体を清のいる方へ押しやった
地面に倒れ込んだ浅乃木はすぐさま立ち上がり、ドアに駆け寄るが軋む凄い音とともにドアは勢いよく閉まってしまった………
大きな揺れと、天井から落ちてくる砂ぼこり……
そのなかで浅乃木も、清も、完全に閉まりきったドアをしばらく見つめていた……