最終話-②
お目汚しすみません
どうぞ、よろしければお楽しみ下さい
-ー数時間前……
どれだけ歩いてきたのだろうか?そう思わせるほど研究所の崩壊は凄まじい………
遠回りしてようやく嗅ぎつけた薬品の匂いだったがそこへ続くはずの廊下が瓦礫に埋もれて先に進めず、迂回を続け道を探し探しに進んできた 悠呂と星羅二人は疲労困ぱいでほとんど無意識で歩いている-ー
懸命にまえに進んできたが、どうしても限界を感じその場に二人倒れ込むように座り込んだ
悠呂はすぐに上体をずらし横になる形で寝転び荒く呼吸をする星羅も瓦礫の破片だろう岩を挟み込み半開した扉に背を預けこちらを息荒く天井を仰ぎ見た
-ー果たして自分たちは無事にここを出られるのだろうか?
そんな一抹の不安を感じ始めていた 星羅は隣で横たわる悠呂に視線をむけた、肩口の出血が酷く応急手当てした箇所から再び鮮血が染み出ていた
顔色も段々血の気を失ってきている 星羅ははたと何かの違和感に気付く………
先ほどまで呼吸荒く肩で息をしていた悠呂だが、今は静かになっている 寝てしまったのだろうかとも思ったが嫌な予感がして星羅は飛びつくように悠呂の傍に寄り口元に手を近づけてみた………
一気に血の気がひいた………
呼吸が………ない
「ゆ、悠呂!! ねぇ! 起きて!! 息をして!!」
激しく揺らすが反応はない……
「い…いや……悠呂? ………悠呂!!」
星羅はどうしていいのかわからず、彼の胸に突っ伏して何度も名前を呼び続けた
するとどこからかこもった声のようなものが聞こえた 星羅は一瞬、身を強ばらせ辺りを窺った
「おい! 誰かそこにいるのか?」
どうやら背中の方から聞こえてくる………星羅はそっと壁から背中を外す
「おい! どうした!! そこにいるのか?」
--どこかで聴いた声
星羅は声が聞こえる箇所を慎重に探し、小さな瓦礫のひとつを取り除くとそこから覗いてみた相手はこちらに気付いていないようだが、間違いなく星羅の見知った顔だった
安堵からか溜め息のように声が漏れる
「おじ…さま………」
その声に浅乃木はこちらが見えないのかあさっての方向を向きながら反応した
「ん? その声は、星羅お嬢様か?」
助かるかもしれないという喜びで星羅は瓦礫の壁にすがりついた
「君がいるということは、悠呂は? 悠呂は一緒なのか?」
そう訊かれて、星羅ははっと壁から顔をあげ悠呂を振り返った
「おじさま…悠呂が……悠呂が………」
震える声が相手に今の状況を伝えてしまっているのか、一瞬沈黙がおりる
「悠呂が………どうした? あいつはそこに………星羅お嬢様の傍にいるんだな?」
浅乃木の沈んだ低い声で訊かれ星羅はいたたまれなくなり、嗚咽混じりに先を告げる
「えっぐ…おじ…さま…ゆ、ゆ、悠呂が…悠呂が……いっ!いいっ…うっぐ、息、息を…を…して…していない……の…」
再び、沈黙がおりた--
すぐに浅乃木とは違う別の声が尋ねてきた
「星羅さん、落ち着いて! 悠呂くんは今どんな状況か詳しく教えてくれるかい?」
そう訊かれるが、星羅は涙がとめどなく流れ応えようにも声がまともに出てこない
「星羅さん!! 泣いてる場合じゃない! こうしている間にも悠呂くんの蘇生率が下がっていくんだ! 的確な処置が間に合えば助かるかもしれないんだ!! しっかりしろ!」
壁の向こうから一喝され、星羅は涙を拭ってごめんなさいと返事を返した
「よし、少しは落ち着いたかい?」
落ち着いた優しい声音で問われ星羅はひとつ大きく息を吸うと「はい、大丈夫です」と気持ちを切り替えた
壁の向こうからの質問が始まる相手はあくまでも冷静沈着に質問をしてくるので星羅も動揺せずに的確に相手に伝えていく
「そうか、じゃあ今から僕が言う通りにやって下さいね」
「はい」
「まずは、肩口の方からだこれ以上の出血は危ない………君、ハンカチか何か細長い布のようなものは持ってないかい?」
「………布」
星羅はスカートのポケットを探るが何もなく、どうしたものかと忙しなく自分の服などを見て思考する
仕方なしに目についたのはスカート………そっとスカートに手をあて意を決すると裾の方からびりびりと破り、すねまであった白いスカートは見事に膝上までになった
「ありました」
「大丈夫かい? なんか破ける音がしたけど………」
「お気になさらないで下さい」
「う、うん……じゃあ、それを悠呂くんの肩口に縛ってちょっと隙間をあけてそこに棒きれか何かを入れて捻るんだ」
「棒きれ」と言われ、肩口に自分のスカートの布を縛りつけながら辺りを窺う
瓦礫から飛び出る鉄筋に目がつき引き抜こうとするがやはり無理で、他にないかと探し見つけたのが何かの折れた木の棒で少し細くて頼りないがそれを布に差し込むと、ネジを巻くように捻った
「やりました」
「うん、じゃあ次は彼の首が手首に触れてみてくれないか」
言われるまま、星羅は悠呂の頸動脈辺りを触る……脈はない
「どうだい? 脈はふれるかい?」
「………ふれません」
次の指示がすぐには返ってこない
「………わかった、じゃ、悠呂くんの額に手をおいて、反対の手の指先をあご先にあてて、あご先を持ち上げながら頭を後ろにそらして」
指示とおりに試み、頭を後ろにそらしてやると悠呂のくちが自然に開いた
「やりました」
「いいかい、今から心肺蘇生に入る」
「はい」
「大丈夫、指示どおりにしてくれたらうまくいくよ いいね?」
「はい………」
星羅は清の指導のもと心肺蘇生を開始する
「君は悠呂くんの意識が戻るよう努力して!! 僕たちはそちらに行ける道がないか探しすぐにそちらに向かう いいね?」
星羅の返事を待たずに壁の向こうは静まり返った--
その静けさが不安をよぎらせたが、不安な気持ちに負けまいと必死に悠呂の心肺蘇生を続ける蘇生を行いながら悠呂の顔を見るが依然として息を吹き返す様子がなく、星羅の視界がみるみる涙でぼやけた
「お願い悠呂………戻ってきて、!」
星羅の涙がひと粒、悠呂の頬に落ちすっと流れた




