第五十七章
大変長らく更新せず、申し訳ありませんでした。かなり久々の更新ですので乱筆乱文になっていますがどうか楽しんでいただけたらと思います。
それは、そろそろ動きを見せようかという時だった。
足元から不気味な感触の揺れを感じる。
話し合いの最中だった悠呂の父、浅乃木比呂はとっさに目を上げ研究所のある禁止区域に目を遣った。
微かだがどこからか、煙が上がっているのが見える。
浅乃木と同じように顔を禁止区域に向けている一同の中で、口を開いたのは刑事の澤田だった。
「……中でなにか始めやがったか」
嗄れ声に面白ろがる調子が混ざっている。そう聞こえて、浅乃木は少し眉をひそめた。
傍にいた清も同じように思ったのかしかめ面を作っている。
だが、清はすぐに気持ちを切り替え腕時計型モニターで中の様子を窺う。
荒い画像に出てきた人物の背後には、白衣の人間が右往左往として混乱を極めている様子が見て取れた。
何があったのかと問うと、潜入員も混乱しているのか少し声が上ずっていた。
「はいっ……それが、いきなり自爆プログラムが作動した……ですが……らず……」
通信をよこす潜入員の声は画像のノイズと逃げ惑う人間の声で聞き取りづらくなっている。
一同は『自爆プログラム』という言葉だけ聞き取り、目をみはった。
「何!? 自爆だぁ? あの朦朧じじぃ、証拠という証拠を燃やし尽くす気でいやがるな! 」
澤田は、鼻息荒く憤慨した。その様子を横目に浅乃木は顎に手を添え、何かを考え込む仕草を見せた。
浅乃木達から少し離れた場所にいたはじめも、同じように揺れを感じていた。
何事かと禁止区域に目を凝らすと、うっすらと煙が上がっているのが見えた。
慌てて立ち上がり、浅乃木達の方を見ると同様に禁止区域に目を遣っている。一体、何が起こっているのか分からず歯噛みしていると、嗄れた声が何か喚いているのが聞こえた。
その言葉にはじめは、背筋が凍った……。
確かにいま、『自爆』と聞こえたのだーー。
「なっ……なんだよ。 自爆って……」
はじめは一目散に浅乃木の元に走り寄り、胸倉に掴み掛かると激しく揺らしながら喚いた。
「おじさん! 自爆って……自爆ってなんだよっ! これも作戦なのか? 中には……中には悠呂がっ……悠呂達がいんだぞっ! 」
襟を閉めんばかりに詰め寄るはじめの腕を清は掴んだ。
「はじめ! 落ち着け! これは俺達が出した指示じゃない。 中のヤツが勝手に始めたことだ」
そう話す清の腕を乱暴に振りほどき、悔しそうに顔を歪めると浅乃木の襟から手を離した。
力無く膝から崩れると、掠れた声で呟いた。
「なんなんだよぉ……どうなってんだよ。 何とか、何とかなんねぇのかよぉ……」
手元にあった雑草を引き抜くと乱暴に投げ捨てた。
その様子を見ていた澤田はフンと鼻を鳴らすと、しゃがみ込むはじめに毒を吐いた。
「何だ、この小僧は? 元はと言えば、浅乃木さんの倅が勝手に入り込んだのが悪いんじゃないか。 爆発に巻き込まれたって自業自得というやつさ」
「んだと? 」
「やめろ! はじめ! 」
澤田に掴み掛かろうとするはじめを清は後ろから羽交い締めにして止める。
「離せ! お前等それでも警察か? 人を助けんのが仕事だろっ! なのに何だ! てめぇのその言いぐさは! 」
凄い剣幕で吠えるはじめをはなから相手にしていないと言わんばかりに、澤田は耳を掻く仕草を見せた。
「これだから素人は話にならん。 救助活動はレスキュー隊に頼むんだな」
「何だと! 」
「やめろっ! 」
尚、突っかかろうとするはじめを羽交い締めのまま澤田から離した。
清の枷から逃れようと身を捩りながら、今度は浅乃木に突っかかる。
「おじさん! あんた何黙って見てんだよっ! さっき、俺に任せろって言ったよな? あれは嘘だったのかよっ! こんなのに頭下げて、何が俺に任せろだ! 」
浅乃木は、清に抑えられながら叫ぶはじめを黙したままじっと見ている。
「悠呂が! 悠呂が死んじまってもいいのかよっ! 悠呂は、あんたの息子だろ! 」
「はじめ! 」
清の制止も聞かず続ける。
「……何黙ってんだよ。 もしかして、あんたもコイツと同じことが言いたいのかよ。 爆発に巻き込まれても仕方ないって! 」
「いい加減にしろ! はじめ! 」
清は羽交い締めから、地面にはじめを押さえ込んだ。
それでも尚、暴れるはじめの背に肩を入れ込む。
「ぷっ……」
頭上から笑う声がして、清もはじめも何事かと見上げた。
煙草をくわえ、火を付けると煙をひとつ吐いて浅乃木は押さえ込まれているはじめの前にしゃがんだ。
「いや〜あっついねぇ。 いっちゃん♪」
「んなっ……」
あまりにもあっけらかんとした態度に、はじめは開いた口が塞がらなかった。
「お前、何ひとりで熱くなって勝手に吠えちゃってんの? 」
はじめの顔に、煙を吐きながら飄々とした態度でにやりと笑う。
「あっ……あんたってひとは」
と、頭に温かくて重い何かが乗った。
「お前に言われなくても何とかしちゃうから。 お前は大人しくここで悠呂達を待ってろ ワンワンてな」
「ワンッ……このっ! 」
頭からフッと浅乃木の手が離れた。
反論してやろうと見上げたはじめは、
口を噤んでしまった。
自分を見る浅乃木の目がどこまでも優しげで、微笑んでいたからだ。
「まっ、見てろ」
自信に溢れた声でそう言い残すと、浅乃木は煙草を携帯灰皿に押し付け、はじめに背を向けて行ってしまった。
頭上から大仰な溜め息をつく人間が一人。
「まっそういうことだ。 お前は悠呂くん達をここで待っていてやれ。 なぁに、先輩はいつもヘラヘラおちゃらけてるけど、やるときはやる人だから……」
清ははじめに手を貸して立たせてやった。
彼の手を借りて立ち上がると、じっと禁止区域に見入っている浅乃木にはじめは目を遣った。
何も言えないでいると、清に背中をぽんと叩かれてつんのめる。
「いきなり、何すん……」
振り返ると、そこに清の姿はなく、彼も背を向けて浅乃木の元へ歩いて行ってしまった。
「なんだよ……清兄ぃまで」
口を尖らせて独りごちたが、すぐに口を引き締め二人並ぶ背中を見つめて微笑んだ。
作戦場に戻ると、浅乃木の顔付きは明らかに変わり、アゲイスに研究所の地図はあるかと尋ねた。
「……地図と言えるかわかりませんが、あの研究所の案内パンフなら裏から入手しましたけど」
浅乃木に話しながら、アゲイスは横にいる澤田をちらちらと気にしている。
「それでいい。 見せてくれないか? 」
「えっ?……えっと」
アゲイスは戸惑う様子を見せた。
「……見せてやれ」
嗄れた声で澤田は、見せるよう指示をした。アゲイスは渋々と腕時計モニターを操作し、パンフの画像を出した。
パンフと言っても、研究所の図解は大まかで地図とよべる代物ではなかった。
それを暫く眺めて、浅乃木は口端を上げた。
「……何かわかりましたか? 浅乃木さんよぉ」
どろりとした目で睨みながら、澤田は質問をする。
澤田を見て浅乃木は薄らと笑うと、突拍子もないことを言い出した。
「俺は、ここから別行動をさせてもらう」
約一名を除いて一同は驚愕の声を上げた。
「なっ……何!? どういう事だ! そっそんな勝手は、この指揮を委ねられている俺が許さんぞ! 」
顔を紅潮させ、澤田は唾を飛ばしながら反論する。
「安心しろ、 俺の部下は指示通りあんたに従う。 別行動とは俺一人ということだ」
「なっ……何をするつもりですか!? 」
アゲイスは信じられないと言った表情で声を荒げる。
「はぁ〜……多分、こうなるんじゃないかと思ってましたよ。 こうなると先輩は反対したって聞く耳持たないんですから」
清はお手上げと言ったジェスチャーをする。
「なっなななっ……桐矢くんまで、何を言ってるんですか! 」
アゲイスは顔を真っ青にして清を見た。
「つれないですねぇ先輩、俺は数に入ってないんですか? 」
清は首を鳴らす。
二人のやり取りを静かに聞いていた、澤田は恐ろしく低い声で浅乃木に詰め寄る。
「お前……あの時のことを忘れたとは言わせんぞ」
目を血走らせながら睨む澤田に、浅乃木は表情を変えず肩をすくませた。
「覚えてますよ」
飄々と応えると、澤田は尚も詰め寄り彼の襟元を掴んだ。
「だったら、そんな勝手なことは……」
「だからどうした? お前が親父さんのことで俺を恨んでいるのは知っている。 だが、あの事件と今にどんな関係がある? 」
浅乃木の襟元を強く引き寄せると、顔を紅潮させ澤田は叫んだ。
「関係ある! お前のその身勝手で横暴な行動が周りを巻き込むんだ! 」
「あわわっ……けっ警部! 」
アゲイスが澤田を止めようとしたが、それはあっさり振り払われてしまう。
浅乃木は尚も表情を崩さず、冷ややかな目で澤田を見下ろすと襟元を持つ彼の手を乱暴に払った。
「俺は親として、息子を助けに行く。 お前は警察としての仕事を全うしろよ」
襟元を正すと、怒りに震え自分を見据える澤田に一瞥して、すぐに歩き出した。
その後を清は小走りについて行った。
鬼の形相で二人の背中を見据える澤田に、アゲイスは恐る恐る声を掛けた。
「けっ……警部、どっどうします? 」
アゲイスの質問に応えず、澤田は勝手にしろと言うように鼻を鳴らし、二人とは反対の方向に歩き出した。
アゲイスはあたふたと澤田について行く。
(*u_u)大変遅くなりまして……こんなことは理由にはなりませんが、長期に渡りスランプに陥りやる気も殆どなくなっておりました。しかし、秘密基地さんのところで気分転換にイラスト依頼をお受けしたところ、他作者様の作品に触れる機会があり、彼等の作品のアイデアや文章達に感銘して私も頑張ってみようと思うきっかけをいただけました☆本当に有難いです。この場を借りてお礼申し上げます。有難う☆こんな私ですが、下手なり頑張っていきますので応援のほど宜しくお願いします!