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僕達が生きる明日へ  作者: 愁真あさぎ
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第五十三章

長らく、更新を停止していたこと深くお詫び致します。これからは完結に向け更新してゆきますので、宜しくお願い致します。

 星羅はその父親の視線を怒気を露わにした視線で返し、静かに口を開く。


「お父様、他に私に隠していることはありませんか?」


虚を突く質問をされ、修造は顔を強ばらせる。


「なっ……何のことだ?」


その気迫、いや質問に動揺し、修造の声は少しばかり震えてしまった。


 星羅は視線をこちらのままに、悠呂に覆い被さるようにしていた自分の体を起こし、あの少年の名を口にする。


「……シュウ」


修造の顔が更に硬くなる。


「あの子に……会ったのか?」


「………」


娘の無言。 修造は星羅から視線を逸らし、車椅子を動かした。


その背に追いすがるように星羅は質問を浴びせる。


「彼は何? お父様は何故私に……」


そこまで口にして、星羅はあの幼少の頃の記憶と憤りが一気に湧き上がってくるのを感じた。そして抑えられなくなり、体中が怒りに震える。


「お父様はいつもそうっ! 私に何一つ真実を教えては下さらない! イサムくんの時だって! ……お姉ちゃんのことだって! 」


もう、抑えきることができなかった。


「私の本当の出生だって! 」


叫んでしまって、はたと我に返り慌てて口を押さる。


はたと顔を上げ、修造を見るが彼はこちらに背中を向たままでどこか遠くをみている。


慌てて父を呼ぶと、それを遮るように静かで落ち着いた声が返ってきた。


「そうか……お前は気付いていたんだな……なにもかも」


そう呟くような父の背が痛ましかった。

感情のままにぶつけてしまった言葉に後悔しながら、星羅は修造の後ろ姿をじっと見つめる。



電動の音をさせ、車椅子をこちらに向けた修造の顔は涙に濡れていた。



ーー胸が痛んだ。


そして唇を震わせながら、掠れた声で修造は語り出す。



「初めは…隠すつもりではなかった。 しかし、日に日に成長するお前を見て、話さなくてよいのではないかと思うようになった……いや、話せなかった。 ショックを受けるお前の顔など見たくはなかった」


修造はおもむろに自分の両の掌を見つめる。


とても愛おしそうに目を細め、先を続ける。


「失ったはずの娘が、またこの手に還ってきた。 その事が本当に信じられなくて……嬉しかった」

そう語ると堅く拳を握り、声色を変えた。


「しかしっ、お前が八つの時にあの事件が起きた! 何もかも順調にいっていた! そうだったんだ! そう、思っていたのにっ」


修造の目は血走り、噛み合わせた歯が悲鳴をあげる音が聞こえる。


「たった…たった一人の被験体が妙なウィルスにかかったが為に……成功しかけの他の被験体までも息絶えていった……その様を見て、私は急に怖くなった。 息絶えて逝く彼等とお前が重なって……また、この手から奪われてしまうのではないかと……」



小刻みに震える手を、毟るのではないかという勢いで顔に当てると、修造は嗚咽を漏らした。




ーー静かな部屋に父親のむせび泣く声だけが響く。


子供のように震えて嘆く父の、弱く儚い部分を目の当たりにして星羅の心は激しく揺れる。


 傍で気を失い横たわる悠呂に目を遣り、そっと頬に触れると強い視線で村瀬に目を遣った。


村瀬は相変わらず涼しい瞳を此方に向けていたが、銃口は向けず足の横にだらんと持っていた。


攻撃の意志のないことを確認して星羅はゆっくり立ち上がり父の元へ歩く。



小さくなってむせび泣く父の背にそっと手を遣り、優しく撫でてやる。



足に不自由はあるが、いつもしっかりして大きな存在だった父。


しかし、どうだろうこの手に触れる儚い感触はーー。



痩せた背を撫でながら、揺れ動く心と必死に戦う。


 父の愛しい者を失う悲しみは分かる、しかし……。



 星羅は悠呂が横たわる場所に目を遣った。


ーー今、ここで大切な者が失われていくのは違う。


 星羅は父の背中から手を離し、悠呂の元へ行こうと一歩踏み出したその時、手首を強く掴まれ後ろへ引き寄せられた。


 驚いて振り向くと、修造が俯いたまま手首をしっかり掴んでいる。



それに構わず振り払おうとしたが、物凄い力でそれを阻止され、驚愕した。


「……!? お父様、離して! 」


離れようともがくが、離す様子は全くなく、代わりに顔をゆっくり上げた……。


 その表情は羅刹のようで、背筋が凍る。


「おとう……さま」


「……行くな。星羅、行かないでくれ」


途端に表情を歪め、星羅の腰元にすがり顔を埋めた。


「……お父様」


「お願いだ……私から、私から離れんでくれ」


そう懇願する父の声の後に、鉄が擦れ合わさる冷たい音がした。


慌てて振り返ると、悠呂の胸倉を持ち、その額に銃口を突きつける村瀬が居た。


「なっ…!? いやっ! やめて! 」


星羅の緊張した声が飛ぶ。


激しく身を捩るが、修造はしっかり腰に縋りついたままで、一層腕に力を込めた。



「離して! 離して! お父様ぁ!」


声を上げ懇願するが手は緩められることはない。


「いやあぁ! 悠呂っ! 悠呂ぉ! 」

声の限り、悠呂を呼ぶが彼は目を醒ます様子はない。



「ーーどうせ……」

ぽつりと修造は嗄れた声を零す。


「どうせ……この研究所も終わりだ。 良くも今まであやつ等は見逃してくれていたものよ……」


 修造は自嘲したように不気味に顔を歪めた。



その表情に羅刹が戻ると、力づくで星羅を自分の元に寄せ跪かせると、娘の頬を両の手で挟んだ。



 しかし、目の前の娘は自分を見て恐怖に顔を強張らせ、頬に大粒の涙を零している。



ーー壊れていく……このまま、壊れてしまいそうだ……。



その時、修造の中の何かが崩れ落ちて壊れた音がした。


いや〜、やっと更新することが出来ました♪ 半年も何も書けず、案が出ず苦悩な日々でした。 しかし、こんな拙作でも楽しみにしてくれている方々に励まされ再び、書くということが出来ました♪ 支えになって下さった方々には本当に感謝してもしきれないです。 本当に有難うございます!あと何話か増えますが完結へ向けて頑張りますので、最後までお付き合い下さい。

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