第五十一章
最終話に向け、多少文字数を増やしております。読みづらくなるかもしれませんがご了承下さい。
悠呂は静かに応える。
「例え……理不尽な死や助けられずに悔しい思いをしたとしても……僕はあなた達のようなことは……しない」
言い終えると急に目頭が熱くなる。それを隠すように悠呂は俯いた。
「ふっ……果たして、それは本当かな? 実際その場でお前の愛しいモノが病で倒れたらば? 友人が目の前で刺し殺されたら?―――お前は今言った答えとは違う行動をするのではないかな?」
そう言われ顔を上げた悠呂は、アスラビ・尾崎の瞳を見る。
エメラルドグリーンの瞳……綺麗な色だがどこか淋し気で深い色――。
その色と深さに惑わされたか、悠呂の脳裏に父母や兄、はじめの微笑む顔が走馬灯のように浮かんでくる。
「…愛しいモノが……」
はっと気が付き、口を噤む。
(……何を、言ってるんだ! 僕は!)
アスラビ・尾崎に目を遣ると、彼は口端を上げてこちらを見ていた。
「君はどうやら思っている事と、口にする事が相反しているようだな?」
心を言い当てられたようで、何だか悔しかった……。悠呂は硬く拳を握る。
アスラビ・尾崎は葉巻を村瀬の持つ灰皿でねじ消すと、先を続ける。
「ふふふっ。 私に文句があるとここへ飛び込んできた時の威勢はどこへやったのかね?」
また、馬鹿にされているーー。 悠呂は怒りで頭に血が昇るのを感じ、唇を噛み締めた。
そんな悠呂の表情に一瞥すると、アスラビ・尾崎は氷のような冷ややかな瞳でこう言い放つ。
「君の戯れ言に、付き合う時間はもうお終いだ。 とっとと帰りたまえ……村瀬!」
後ろに控える村瀬に顔を向け、帰らせろという合図をすると村瀬は頷きこちらに顔を向けると、ゆっくり悠呂に近づいてくる。
(……まだ、話は終わってない!)
悠呂は腰にねじ込んでいた銃を、素早く抜き取りアスラビ・尾崎に向けて叫んだ。
「動かないで下さい! 撃ちますよ!」
それを目の当たりにした村瀬は、表情を一つも変えずその場で足を止めた。
銃を向けられた本人も、表情一つ変えずゆっくりこちらに振り返る。
「何のマネかね?」
抑揚のない声で問うてくる。
悠呂は重い銃口を両手で支え、アスラビ・尾崎に向けたまま力強く応える。
「まだ、話は終わってません!」
そう叫ぶ悠呂を、アスラビ・尾崎はじっと見据える。
悠呂も負けじと見つめ返す。 諦めたのかアスラビ・尾崎はサッと右手を上げ、村瀬に下がるよう合図した。
村瀬も了承し、無言で元の位置に下がる。
悠呂は銃口をアスラビ・尾崎に向けたまま話す。
「あなたは、僕に訊きましたよね? 大切な者はいるか? と」
アスラビ・尾崎はじっとこちらを見たまま黙っている。 悠呂は、続ける。
「今度は僕から訊きます。 あなたには大切な人がいますか?」
そう言いながら悠呂がそっと銃口を下げると、彼はそれに合わせたようにゆっくり瞳を瞑った。
「いる……はずですよね? あなたにとって大切な……最愛の娘さんが」
アスラビ・尾崎はうっすら瞳を開け、応接机に視線を落とすと微かな声で問う。
「それで……君は、何が言いたいのかね?」
悠呂は怯まず先を続ける。
「質問を変えます。……あなたは、作られたモノの気持ちはわかりますか?」
その質問に、アスラビ・尾崎の薄らと開けていた瞳が見開かれ急に頭を上げた。
そして、呻くように訊き返してくる。
「なっ……何? 今、なんと?」
悠呂の返答を待たず、彼はおもむろに後ろに控える村瀬に振り返った。
「お前! まさか?」
と問われたが、村瀬は無言で首を横に振った。
アスラビ・尾崎は村瀬の返答を見て、再びこちらに顔を戻すと信じられい事を聞いたと言わんばかりの表情で肩を落とす。
暫くの間沈黙に包まれたが、程なくしてアスラビ・尾崎の微かな声が悠呂に向けられた。
「お前は……何を言っているのだ? 何のことだ?」
俯いてブツブツと話すアスラビ・尾崎の反応に悠呂は、かなり驚愕していた。しきりになぜだと、呟く彼の姿を見てひとつの結論に辿り着いく。
悠呂は恐る恐る口を開いた。
「あなたは……もしかして、彼女に真実を話されてはいないのですか?」
と聞くといきなり彼は顔を上げ、目を剥き出し興奮気味に叫ぶ。
「当たり前だろう! 何故、話す必要がある!」
その表情は阿鼻叫喚だったーー。
(彼は……隠し通せていると思っている。 彼女の出生の秘密を……)
悠呂は彼の憎しみに籠もった視線が、逆にいたたまれなくなり、顔を背けた。
(……でも、彼女は自分が何者なのか……既に気づいているーー)
悠呂は固く瞳を閉じると、胸に手を当てた。
(……胸が苦しい。 彼女が気付いていることは、彼以外は知っているんだろうか?)
悠呂はそっと、村瀬に視線を遣った。
しかし、村瀬は表情ひとつ変えずこちらの様子を見ている。
「まさか! お前が!」
いきなり、アスラビ・尾崎に叫ばれ悠呂はハッと彼を見た。
目の前の老人は、悪魔のように血走った眼で悠呂を睨みつけている。 握り締められた肘置きはミシミシと悲鳴を上げる。
「村瀬! 銃を寄越せ!」
アスラビ・尾崎は悠呂に目を向けたまま背中に控える村瀬に叫んだ。
その要求に、あの無表情だった村瀬の顔が変わる。
「しゅっ……修造っ! しかし……」
渋る村瀬に構わず、口から泡を吹きながらアスラビ・尾崎は吠える。
「早くしろ! 何を知ってるか知らんが、コイツをここから出しはせん! 今すぐ消してやる!」
その剣幕に悠呂は、危機迫るものを感じとっさに膝元に握る銃を更に硬く握り締めた。
「村瀬! 何をしとる! 早く寄越せ!」
獣のように叫ぶアスラビ・尾崎に悠呂は意を決して叫ぶ。
「彼女は!」
そう言ったところで二人の視線はこちらを向いた。
その視線を受け、悠呂は続ける。
「彼女は、自分が何者なのか気付いています! 僕が話したのではなくて、彼女じっ……」
銃口を構える重い音がした。
「それ以上は言わせん!」
そう言って銃を向けてくる相手は、アスラビ・尾崎ではなく後ろに控えていた村瀬だった。
今にも引き金を引きそうな気迫に、悠呂は手に持った銃を構えた。
間をおかず、手に持っていた筈の銃が床に重い音を立てて落ちた。
「……っつう!」
すぐに手の甲に火傷のような痛みが走る。
痛みに歪ませ顔を上げると、村瀬は目の前に来ておりその銃口からは湯気のようなものが立っていた。
「……痛いか? これはお前が持っていた警護用電流銃ではない。 殺傷能力のある最新レーザーガンだ」
そういうと、銃口を悠呂の眉間に向けた。 それを見ていたアスラビ・尾崎は狂ったように高らかに笑う。
「ひゃはっはっはっ! 村瀬、いいぞ! そのガキを消してしまえ!」
「……くっ」
悠呂が後ろに落ちた電流銃を目だけで確認すると、村瀬に視線を戻し意を決してそのまま体当たりを試みた。
その試みはあっさりかわされ、派手に床に転がった。
村瀬は、こちらに向き銃口を向ける。
(今だ!)
悠呂は村瀬の横ギリギリを駆け抜け、転がるように電流銃に手を伸ばした。
光線が空気を掻き切る音が間近に聞こえる。
「うあ゛ああぁぁ!」
するとすぐに肩に鋭い痛みが走った。
肩を撃たれたようだ。 悠呂は痛みで床に転げまわる。
村瀬は尚も銃口を向け、冷静な表情で転げ回る悠呂を目で追っていた。
(゜д゜#) 五十一章!無事投稿だゴルァ!
(´∀`*)あっ♪のっけから失礼しました♪えっとですね、かなり苦労をしまして、無事投稿できたことに嬉しさを表現しました♪いえいえ、怒っちゃないですよ♪
楽しみにお待ちいただいてる読者様には、毎度遅筆で逃避癖のある愁真を温かく見守っていただき、誠に有難く思います♪
これからも、めげずに愁真を応援していただくと鼻水垂らして号泣する程嬉しく思います (T_T)次話も首がキリンになるほど楽しみにお待ち下さい♪ではでは