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僕達が生きる明日へ  作者: 愁真あさぎ
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第五十章

 

悠呂は暫く無言のまま、アスラビ尾崎と対峙していた。


 先に視線を逸らしたのは、アスラビ尾崎の方だった。


彼は車椅子を手元のパネルで器用に操作して書斎机に向かい、机の裏側の何かを操作した。


 数秒して悠呂が立つ目の前にゆっくりと応接セットが浮上してきたのだ。


悠呂は少しその場を後退りし様子を伺う。


 アスラビ尾崎が書斎机から離れるのを見て、あの傍に控えていた老齢な警備兵が、何も指示される分けでもなくキビキビと慣れた様子で応接椅子の一つを脇へ避けた。


そこにアスラビ尾崎は車椅子ごと収まると、こちらに目を向け、向かいにある卵型の椅子の一つを悠呂に勧める。


 悠呂はアスラビ尾崎をじっと見たまま躊躇いもせず、勧められた椅子に腰を降ろした。


 悠呂が椅子に腰を掛けるのを認めると、アスラビ尾崎は改めてエメラルドグリーンの瞳で悠呂を見つめる。


 悠呂も見つめ返すが、見るからに弱りきっている人物の何処にこんな力強さがあるのだと疑う程、ギラギラした瞳が悠呂を捉えて離さない。


 すると、アスラビ尾崎のガサガサで色の悪い唇が微かに動いた。


「随分と若い侵入者だな」



嗄れた声だった。あの老齢の警備兵と同じ科白。


しかし、こちらは関心した風な話し方だ。


間を於かずアスラビ尾崎は、悠呂の瞳を真っ直ぐ見たまま続ける。


「私に……話があるそうだが?」


やけに余裕のある口調だ。いや、むしろ小馬鹿にしたような……。


 悠呂は小馬鹿にされたような感じがして、くっと唇を噛んだ。


 アスラビ尾崎は悠呂の応えるのを、じっと待っている。


子供だから甘く見ている。ありありと分かる態度に悠呂の怒りは増す。


その怒りが、自分でも予想だにしない言葉を発していた。


「僕が、あなたのお嬢さんを攫った者です」


 アスラビ尾崎の右眉がピクリと動いた。


悠呂は視線を逸らさずじっとエメラルドグリーンの瞳を見返す。


しかし、相手の反応はそれだけで土気色の顔からは表情が伺いしれない。


いや、もしかしたらかなりの衝撃を受けたのかもしれない。

それからの会話は、お互い見つめ合ったままで無言だ。



 二人が口を噤み、暫くして傍に控えていた老齢な警備兵が口を開いた。


「……間違いない。 部下が言っていた特徴が一致している」


と低い声で告げると、石像のように動かなかったアスラビ尾崎が重い溜め息を漏らし、車椅子の背もたれに体を委ねた。

「ふむ……」


そう唸ったっきり、目を閉じてしまった。


 悠呂はここで引いてはいけないと、声を出した。


「あなたに一言いいたくて! わざわざ、侵入者みたいな真似までして……僕は来ました」


そう話す悠呂の言葉に、アスラビ尾崎は目を開き体を起こした。


「ほぉ〜」


それで?と言わんばかりに悠呂の瞳を再び見つめてくる。


負けてたまるかと悠呂は続けた。


「僕は、あなた達が禁止区域の……ここ、地下で何をやっているか知っています!」


 初めてアスラビ尾崎の表情が変わった。それも驚きの表情ではない。目を細めて興味深そうな顔だ。


 怯むなと自分を叱咤しながら悠呂は続ける。


「あなた達は、法律に則った皮膚や骨等の医療用の物でないものを……人間そのもののクローンを作っている!」


目の前のアスラビ尾崎は、膝の上に両手を組みそこに顎を乗せて悠呂の話をじっと聞いている。先を続けろと言わんばかりにーーー。


「くっ……」


その余裕の態度に悠呂は頭にきていた。


「……君の言いたいことはそれだけかね?」


尚も余裕な態度を見せるアスラビ尾崎。


「あなたは、自分が何をしているのか分かっているんですか!」


悠呂は思わず声を荒げてしまった。


 すると、アスラビ尾崎は何を思ったのか狂ったように笑い出した。


そんな嘲け笑うアスラビ尾崎を悠呂は睨み付け、口を噤んだ。


 ひとしきり笑うとアスラビ尾崎は、射抜くような眼を向け逆に悠呂に質問してくる。



「私達のやっている事を知っている……か。 じゃあ、聞くが君には大切な者はいるかね?」


「……大切なモノ? それが何だと言うんです?」


「君には、大切に思う人間がいるかと訊いたのだよ」


悠呂は、アスラビ尾崎が言わんとしている事を諮りかね、無言で返答を返す。


「……無言は肯定と捉えてよいのかな?」


「……」


「……まぁいい。 そこで本題だ。」

 そう言うと、アスラビ尾崎は近くに控える老齢の警備兵に顔を向けて手をひとふりすると、彼は書斎机から葉巻を取り出しアスラビ尾崎に渡す。


 それをくわえるとアスラビ尾崎はおもむろに火を点け紫煙を燻らせた。


肺に含んだ煙を一吐きし、話し出す。


「もし、その大切な者が理不尽な死を遂げた時……君ならどうするかね?」


「理不尽な死を遂げた時?」


悠呂は葉巻から出る煙に目を向けたまま問い返した。



アスラビ尾崎は、悠呂の言葉に触れず先を続ける。


「その大切な者が、理不尽に誰かの手によって殺されたり、助けられるかもしれん命を助けられなかったら……君はどうするかね? そして、何を望むかね?」


 悠呂はその言葉にやっと質問の意が分かった。



アスラビ尾崎は、再び葉巻を吸う。


 その二人の様子を傍に控える老齢の警備兵はじっと見ていた。

お待たせ致しました♪五十章です……いや〜あと五話で完結させることが出来るのでしょうか…少々不安です笑


今回は、『念願叶った対決』でしたので構想がかなり苦戦を強いるものでした。しかも、まだ途中だしね…汗 まっ!何とか頑張りますので応援の程宜しくお願い致します!


(´∀`;)あ〜また前回の章みたいにこの後書き消えるんじゃないだろうか?ちょっと心配……管理人さんはあの時の対応として『修正からまた後書き書いて』て言ってたけど…私なんかその場の気持ちで後書きかくから、いきなりまた書いてって言われても書く気になれなくて……どうか、この後書きが消えませんように!

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