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僕達が生きる明日へ  作者: 愁真あさぎ
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第四十九章

 星羅は肩を震わせ泣いていると、ロッヂ武田が後ろから声を掛けてきた。星羅は慌てて涙を拭き、何事もなかったように振り向くと。


「お嬢様、ここはまだ危ないかもしれません。 早々に退室して下さい」


辺りをキョロキョロしながらロッヂ武田は言う。

 星羅はそれに頷き、先に研究室の出口に向かうロッヂ武田の後を追って歩いた。そして、出口付近で一度振り返り目を瞑ると一つ深呼吸して部屋を出た。


 部屋を出たところで星羅は、ふと疑問に思ったことをロッヂ武田に訊いてみる。


「村瀬は何処に行ったのかしら?」


その質問には、彼は首を傾げて

「わかりません」

と申し訳なさそうに頭を掻いた。

仕方ないと軽く溜め息をつき、次に父親は自室にいるのかと問うとこれには頷くが、なんだか自信なさげだ。全く以て役に立たない男である……。

 星羅はそんな彼を置いて、先を急いだ。

「あっ! おっお嬢様! お供します!」

としつこくついて来た。ロッヂ武田がついて来るのも構わず、先へ先へ早足で歩きふと足を止めた。

(しまった……近道をしようと思ったけど、彼がついて来たんじゃ……)


星羅は後ろにキリッと振り返った。いきなり振り向かれた本人は、驚いた様子でその場でたたらを踏む。

走ってついて来ていたのか、丸い顔が真っ赤になって滝の様に汗だくになっていた。

「あなた、もうここでいいわ」



そう言うと彼は口をアワアワして、理由を訊きたがる。


「お父様と二人でお話がしたいの」


落ち着いた声色で応えると、渋々といった感じで星羅に背を向けて元来た道を戻って行く。


 星羅は、その背中が完全に見えなくなるまで見送ると、すっと踵を返しすぐ側の角を曲がった。


数歩あるいて辺りに人がいないか確認すると、壁に手を当ててやる。


「指紋照合を開始します」


と壁から機械的な声があったかと思うとすぐにまた


「指紋照合が完了しました」


と返ってきたので、星羅は壁が開くのを待つ。

しかし、一向に開く様子がない。おかしいと思った星羅は壁にもう一度手を当てて

「ロック確認」

と声を出した。


「ロック確認します。しばらくお待ち下さい」

と機械的な声がまた応対する。

数秒待たずに再び声が返ってくる。

「只今、ロックされています。ロック者番号0001……ロック形態種別……緊急警備……Bパターン」


星羅は機械的な声に耳を傾けながら、眉を顰めた。


しばらく壁を見つめ、軽く拳で壁を叩くと諦めたようにその場を離れ奥へ歩いた。


(遠回りになるけど……仕方ない。研究員が使う通路を使うしか……)


自然、歩く速度が速くなる。気がつくと一心不乱に走っていた。


(……あの角を曲がれば、お父様の部屋に繋がる廊下に出れる)


足がもつれそうになりながら角を曲がったその時、派手に何かにぶつかった。


「きゃっ!」


「うっ!」


星羅は勢い良くその場で尻餅をついていた。どうやらぶつかったのは人らしい……相手も同じように尻餅をついたのか痛そうに声を漏らしている。

 星羅は痛い腰をさすりながら顔を上げ相手を見た。相手も痛そうに腰の辺りを押さえ、顔を歪めている。

 少年だった。歳は星羅より下のようだ。しかし、この研究所では初めてみる顔だ。


相手もこちらに気付いたようで、あっという表情をした。


端正な顔立ちに、色白でそれに映えるようなエメラルドグリーンの綺麗な瞳をした少年。

彼に見入っていると、彼が先に立ち上がり星羅に手を差し伸べた。


「あのっ……ごめんなさい。 大丈夫?」


とても耳に優しい声だった。星羅は彼の綺麗な瞳を見つめながら、手を借り立ち上がると背の低い彼の登頂が見えてはっとした。


彼のサラサラした髪色は綺麗な栗色だが、今見る登頂は色素が抜けて星羅と同じ色をしている。そこですぐに彼も誰かのクローンなのだと気付いた。しかし、こんな子は星羅が見ていた子供達の中でも見たことがない。


ましてや最近生まれたのであればもっと小さい筈だ。


見た感じ、この少年の年の頃は七、八歳くらいだ。


「あなた……誰?」

星羅がきくと、きかれた本人はびっくりした表情をしたがすぐに顔を曇らせた。

「名前、ないの?」

ときくと彼は首を横に振り、

「シュウ」

とだけ呟いて俯き、また暗い顔をする。


「そう、シュウて言うの」


と彼の前に屈もうとした時、すぐ側のドアが開いた。


そちらに顔を向けると、一人の研究員が飛び出してきてシュウに目を止めると


「あっ! シュウ!いないと思ったらまた!」


とシュウの腕を取った。シュウはしまったという顔をして捕まった腕を必死に解こうともがいた。


「勝手に出ては駄目だといったろう!まだ検査も途中なんだぞ!」


研究員は嫌がるシュウを抱き上げると、シュウはジタバタともがき、なんとか逃げようと身を捩る。

「その子は?」


という質問に、やっと星羅の存在に気付いその研究員は、慌てたように畏まった。


「おっ……お嬢様!」


その隙にシュウは研究員の腕に噛みついた。


「あでっ!」


研究員の腕から逃れたシュウは、あっかんべをしてすぐに星羅の背に隠れた。


痛そうに腕をさすりながら研究員は、星羅の背に隠れたシュウに目をやり、すぐに星羅に視線を戻した。

研究員は何か言いかけて、すぐに口を閉じてしまった。


そして無言で一礼すると、大股で星羅の後ろに行きシュウの腕をまた掴むと、暴れるシュウを小脇に抱えすぐ側のドアに消えて行った。


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