第三十章
修造は、なかなかはかどらぬ捜索に苛立ちを募らせていた。
唯一信頼するアジェラーチ村瀬の口から出た言葉…。
「何者かに連れ去られた!」
その言葉に驚愕した。その途端に甦る愛しい娘の声。
「お父様…心配なさらないで…私はどこにも行かない…。」
あの胸の痛みが再び甦る。
もう二度、あんな思いはしたくない…。そう思い、修造は無意識に記憶の中に入ってゆく。
あの時、娘の亡骸の前にずっと立ち尽くしていた…。
「…もう、こんな思いは沢山だ…。」
そう決め、娘の亡骸から自慢だった長い髪の一房にハサミを入れた。そして、その髪に縋り誓った。
「お前を…もう何処にも行かせやしない…。」
そして、修造は医学会から退き研究に没頭した…前から追放だ、なんだと言われ見切りをつけようと思っていたのでその流れにのった。
そして自分の得たありとあらゆる最新技術を注ぎ、彼女をこの世に蘇らせた。少し、薬等の副作用で髪の色が抜けてしまったが、生まれたその子はまさしく彼女そのものだった。 途中、テロメアの短さを心配したが自分が得た技術がそれさえも克服した時には、天にも昇る思いだった。
しかし、その子が成長するにつれ彼女は彼女ではなかった…姿形は昔のまま、しかし性格等は少しずつ異なっていった。修造は、それでも良いと思った。自分が生きている内に彼女が傍にいてさえくれるのならそれで良いと…。
その為にも決して、彼女の出生だけは秘しておかねばならない。彼女の悲しむ顔は見たくない。何より知れば自分から離れていってしまうかもしれない。修造は他の研究員、警備兵や研究室に出入りするありとあらゆる者に口止めをし、徹底した。
ある時、何処から聞きつけたのか一人の資産家が修造の元を訪れた。何でも先日、大事な一人息子が病で他界したと言う。その資産家は、藁にも縋る思いで修造を訪ねてきたのだ。
「貴方は、病で亡くなった娘さんを生き返らせたとか…。」
「………………。」
「どうか…どうか息子を!貴方の娘さんの様に生き返えらせて下さい!」
「………何処から、そんな話を……。」
「……どうか!どうかお願いします!」
と資産家の彼は、修造の足元に追いすがり何度も何度も頭を下げた。
「………しかし。」
「金なか幾らでも出す!だから…だから…お願いします!…どうか、どうか息子を!」
修造は、自分の愛する娘だけが生き返ってくれるだけでそれで良かった。
しかし、何度も何度も頭を下げる彼の姿に修造は、自分の姿を重ねてしまう。
「……わかりました。」
と答えると資産家の男は神でも見たかのような表情をした。
「…でっ…ではっ…。」
と言う言葉を遮り修造は言い放った。
「ただし、条件があります。」
その言葉に資産家の男は少し笑顔を引いたが、すぐに顔を引き締めた。
「条件?…いいだろう。なんだね?その条件とは?」
と言う資産家の視線から修造は背を向けた。
「…貴方は、私が今どういう立場か…ご存知ですか?」
と言う問いに、資産家の男は
「わかっているとも」
と答えた。
「…そうですか。それならば話が早い…貴方にも私の片棒を担いでいただきたい。」
「……それは…?」
「そう……この研究の資金…いやっ支援していただきたい。」
と言うとしばらく資産家の男は黙ったが
「…わかった、良かろう。支援させていただこう。」
「…交渉…成立でよろしいですね?」
「ああ…。」
それから修造は、その資産家の後ろ盾を得て更なる高みへと研究を続けていった。
しかし、その頃から娘の様子がおかしくなった。
いつも悲しそうな顔で、自分の研究を見つめるようになったのだ。まさかと思い、誰かが話したのかと皆に問い詰めると、誰も話していないという。もしかすると、彼女は自分の出生の秘密を薄々感づいているのではないかと思うようになった。そうして、彼女は夜に徘徊するようになって修造は益々焦っていた。
しかし、フラフラと亡霊の様に出歩くが朝になれば必ず自分の元に帰ってくる事に安堵した……。
しかし、今回は違う自ら出て行ったのではない。誰かに連れ去られたのだ。修造は胸を引きちぎられる思いで、アジェラーチ村瀬の報告をまった。
(T_T) 全体の描写を考え、この小説の更なる高みへ……私は…私は………。