第二十四章
修造は、自室で紫煙をくゆらせていた。
部屋の外は騒がしい。
娘の捜索にと警備兵を呼んだからだ。修造達の家は研究所より少し離れた場所にある。
娘がベッドにいない事に気付いたのは、夜半過ぎトイレに目を覚まし隣にいる筈の娘の名を呼んでも返答がなかったからだ。
またか、と思い長年信頼の置ける友人の一人、アジュラーチ村瀬警備隊長に連絡を入れたのだ。
彼は自分が医師会から追放された時、唯一自分を信じついてきてくれた中の一人だった。
もうかれこれ彼との付き合いも二十数年になる。
修造は、今はボタン一つで動く車椅子を自室の机へと向けた。
机の上に飾ってある写真立てを手にする。
研究所の机にも同じものがあるがあれはこの写真とは別の時に撮ったものである。
そこに写る娘の笑顔に、修造は目を細めた。
しかし、その笑顔の彼女と今居る娘の顔は同じなれど、髪色は全く異なっていた。
そして、修造は静かに目を閉じ、遠く昔に聞いた彼女の声を思い出していた。
「・・・お父様、泣かないで・・・。」
そう話す娘の顔色は悪く、白い病院のベッドに横たわっている。
「心配なさらないで・・・私は大丈夫ですわ。簡単に死んだりしない。」
そう言って白く細い指先で、自分の頬に流れる熱いものを拭ってくれる。
あの切ない笑顔が今も蘇ってくるようだと修造は思った。
不意に目頭が熱くなる。そっと写真立てを机に戻した。
数年前、まだ幼い星羅にその写真の人物は誰だと聞かれた時は、内心焦った。
「お前の姉さんだ。」
と教えてやると、幼い星羅は首を傾けて
「ふぅ〜ん。」
と言っただけで更に質問をしてくる事はなかった。
両目頭に溜まった涙を左手で摘むように拭うと、慌ただしく自室のドアがノックされた。
「どうぞ。」
と返答し、入ってきたのは長年見知った顔だった。
「ん?娘は見つかったかね?アジュラーチ隊長。」
しかし、目の前の彼の顔は堅い。
「どうかしたのかね?君のそんな顔は何年ぶりか・・・。」
と言いかけた修造の声を遮ってアジュラート隊長は声を荒げた。
「暢気な事を言ってる場合じゃないぞ!修造!」
そんな彼を修造はふっと笑って
「また、娘に出し抜かれたのか?村瀬。」
ファーストネームを呼ばないのは、2人の親密性がわかる。
「そんな事ではないっ!お前の娘が何者かに連れ去られた!」
その言葉を聞いて修造は、吸っていた葉巻を床に落とした。
しかし、すぐに真顔になりいつもの穏和な顔より険しい顔で車椅子を大きな窓に向けて進ませた。
その後ろをアジュラーチ隊長は、修造の落とした葉巻を拾い灰皿に捻入れながら。
「連れ去った奴は、乗り物に乗って逃げたと聞いた。すぐに追尾班を向かわせた。」
と言うと修造に背を向け部屋を出ていった。
(*^-^)b 今回は、じぃさんの様子を書いてみる事にしました。これで全体的な描写がわかるようになるといいなぁ〜と思います♪