表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/37

31


はじめまして、こんにちは


そんな言葉もないままお互いに無言状態


向こうはこちらの様子を見ているし


こっちは向こうの様子を見ている


お互いが何も言わずに別れの時


本当は頼みたい事があったのに頼めないまま


次、会った時にはちゃんと言葉を伝えよう


そう思った



‐アヤトリ‐





「では、行きましょうか」



そう言って私に背を向ける狐の子。


一人で行くのは嫌だけど覚悟を決めて、私は狐の子の後ろに着いていった。


だんだんと遠ざかっていく大蛇や蛟を気にしながらも私は狐の子を見失わないように着いていく。


狐の子はゆったりとした歩き方ではなく、早足でしょと言いたくなるほど早く歩く。


本当に見失いそうになるかも、と思いながら途中から狐の子の背中ばかりを見ていた。


狐の子は一度もこちらを振り返らずに歩いている。


まるで、何かから逃げるように。


まるで、何かを逃がさないように。


前だけを見て必死に歩いている。

少しずつ回りの景色が変わり始めるのと同時に、重苦しくなっていく空気に気づいた。


そんな空気の中、歩いて進んでいく。


だけど、だんだんその場所に近づく事がいけない事のように思えてきた。


それでも、狐の子が進んでいくからその背を追いかけるのをやめるわけにはいかない。


歩いて、歩いて。

回りの景色から建物が見えなくなってきた辺りで、カタカタと体が何かを感じてか、震え始めた。


意味がわからなくて、自分の手で自分を抱き締めてみたり、手を両手で握ってみたりしたが効果はない。


近づきなくないと言うかのように震えはいまだにおさまらなかった。


そんな私を救うかのように声をかけられた。



「娘っこ、何でここにいるんだい」



聞き覚えのある声だ。


私は声が聞こえてきた方を向かずに誰だったか考え込んだ。


それが琥珀さんの声だと気づくのに二、三秒の時間がかかってしまった自分はすでにこの場所の空気に参っているのかもしれない。


一回、二回と深呼吸をしてから琥珀さんを見る。


琥珀さんはそんな私に首を傾げていた。


でも、目があった時に微笑んでくるのを忘れない所に実はタラシではないかと疑いました。


そんな風に考えながら、知り合いに会えたことにより安心する。


やっぱり、私は一人で知らない場所で行動できないんだよ。



「娘っこ?」




一人で納得していると琥珀さんが再度、そう言ってくれた。


ああ、そう言えば質問に答えてなかった……。


ごめんなさい、琥珀さん。無視してたわけじゃないんです。


そう思いながら口を開いて説明しようと考えていたのに



「……べ、別に私がどこにいようとあんたには関係ないでしょ」



そんな言葉が先に口からでてしまった。


別に私はツンデレたかったわけではないんですよ!!


お願いだから勘違いだけはやめてくださいね。


誰に向かって弁解しているのかわからないけど、言いたいことは言っておく。


一番、言わないといけない琥珀さんには言えないんですがね。


だって、私のその言葉を聞いた琥珀さんが孫を見守るお爺ちゃんのような微笑みを浮かべながら



「素直じゃない子だね」



そう言ったからですよ。


私に言い訳もさせてくれない雰囲気じゃないですか。


まあ、最初から言い訳なんかしない……嘘です。できないだけなんです。


そんな風に思いながら、琥珀さんの言葉に何て返そうか考えていると


私と琥珀さんの会話が途切れた事に気づいたのか、狐の子が琥珀さんの前に進み出る。



「お久しぶりです、琥珀様。お元気そうでなによりです」



まるで感情を込めてないように聞こえた声に首を傾げそうになったが、それは私の気のせいかもしれない。


それは狐の子も琥珀さんも笑みを浮かべているのが理由だけど。


「うん、久しぶりだね。貴様も元気そうでよかった」


貴様と狐の子に言った琥珀さん。


琥珀さんがその言葉を使うのに違和感をを覚えてしまった。


私の中では貴様と言う言葉を使う人を知らないからかもしれない。


貴様とは

近世中期までは目上の相手に対する敬称。


その時点から後は同輩または同輩以下に対して男子が用い、また相手をののしっていう語ともなる。


他にも貴公やお前、君もそうだった気がする。


詳しくはあんまり覚えてない。


狐の子は琥珀さんのその言葉に「ありがとうございます」とだけ言葉を返し、すぐに本題にはいった。



「琥珀様に会いに来たのはこの方が琥珀様にお願いがあったからです」



淡々と告げる声に琥珀さんは黙って頷く。


狐の子はそれを言い終わった後、私にさっさと言えという風な視線を私に向けてきた。


私は変なことを言わないように意識して口を開く。


「……蛇我羅が白梅さんに連れていかれたの。勿論、取り戻すのに協力してくれるよね?」



あれ?あれれ?

ただ匿って欲しいと言うはずだったんだけど。いや、本心は蛇我羅救出を手伝ってほしかったけど。

え?何で当たり前かのように言っちゃたの、私!


こんなつもりじゃなかったのに……。



「別に構わないよ。それくらいなら」



怒ると思っていたけど、予想に反して

琥珀さんはあっさり頷いてくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ