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すがることは悪いことじゃない
弱音を吐くことは悪いことじゃない
なのに、この口は強がりばかり吐いて
心は誰にもすがらないと高いプライドを作る
本当は助けてほしいのに
本当は救ってほしいのに
何も言えず、何も言われず心の中で泣き叫んでいるのに表にはださないで
平気なふりして自分は今日も生きている
‐アヤトリ‐
私は意を受けて、ゆっくりとその門を潜った。
中に入ってみれば、昔の平安時代のようなお屋敷が建ち並び、神聖な雰囲気を醸し出している。
私には場違いではないかと思うほどだ。
ふと、その建物を一つ、一つ見ていると
どの建物にも門の近くにいた者と同じような狐の耳と尻尾を生やした人の姿をしている者たちがいる事に気づいた。
その者たちも一様にこちらに向かってお辞儀をしている。
それに私が気づいたと同時に蛟が私にしか聞こえないように呟く。
「ここでは人間と言うものは随分と歓迎されるみたいだね」
それは独り言のようにも、私や大蛇に言っているようにも聞こえた。
だが、私も大蛇もその言葉に返事を返そうとは思わなかったのか
蛟の言葉に何も言わずにいる。
蛟も返事を期待していた、何て事はなく、特に気にしたようすはない。
蛟は狐の住みかに一応、興味はあるみたいだが
大蛇は全くと言っていいほど興味なさそうだった。
たまに、欠伸をしているのを見る。
私はばれないように回りを観察し続けていると幼い狐の子がこちらに近寄って来るのに気づいた。
狐の子はきつね色の耳と尻尾でなく、白に近い色をしている。
それをじっと見ていると、その狐の子は私達の前まで来てお辞儀をしながら言った。
「お初にお目にかかります。私、陽気 曲と申します」
その言葉の中に何年も生きてきた年長者の威厳を感じる。
見た目が子供でも中身は違うとわかっていても信じられない。
私はいまだに、人の考え方にとらえられているのだろう。
何故か、すごく蛇我羅に会いたくなった。
彼は今、どうしているのだろうか。
会いたいな。
そんな風に他の事を考えている私を気にせず、狐の子は言う。
「あなた方が探している琥珀 狐雲は、ちょうど北の屋敷を訪れているところです。ですが、他種族の方々にその屋敷を見られたくも、触れられたくもありません。案内するのは人間様だけです」
突き放すような感じで、言葉を紡ぐ狐の子。
その言葉に大蛇と蛟は顔を見合わせてから、後ろに一歩下がった。
「まあ、仕方ないよね。ここに入った時も脅しのようなものだったしね」
蛟はそう言いながら、大蛇は無言で私から離れていく。
逆にその行動が怪しく思える。
狐の子は大蛇と蛟を一瞬だけ軽蔑したような眼差しで見てから
「では、行きましょうか」
そう言って私に背を向ける。
一人で行くのは嫌だけど覚悟を決めて、私は狐の子の後ろに着いていった。