03
可愛がって
可愛がって
いたぶり
遊ぶ
‐アヤトリ‐
「べ、別にあんたくらいならすぐ逃げれるもん」
そう言ってからすぐに後悔した。
男と女の力の差や体格の差から私が逃げられるわけなんて無い。
今、走って逃げたならまだ助かるかもしれないけど
足がうまく動きそうになかった。
何で素直になれないんだ。と心の中で自分を叱りながらも私は相手を睨むのをやめなかった。
男は距離をゆっくりつめてくる。
私が強がっていることなんて男にはわかりきった事らしく
私との距離を二、三歩でつめられるほど近くなったとき
男は少し呆れたように
それでも笑顔のまま言った。
「あんたって馬鹿だよね。こんなときは誰かに助けを求めなきゃ、すぐに食べられちゃうよ?」
そんな風に言われてから私はふと思った。
さっきから男の言葉が私を心配しているようにしか聞こえないののは気のせいだろうか、と。
そう思って考え込んでいたせいか、私は男に何も言わなかった。
男は何も答えない私を不思議がったが、そこにはふれずに続けて言う。
「この頃、蛇をよく見かけるだろ?あれはあんたを見るためだったけど気づいてなかったろ」
まるで、男がその蛇に命令していたかのような言葉に私は眉をひそめる。
男は気にせず、笑っていた。
「馬鹿らしい。あなたの話には付き合いきれません」
出来る限り冷たく聞こえるように私は男に言ったが
男は私がそう言うのをわかっていたかのように
すぐに言葉を返してきた。
「駄目だ。あんたは俺の花嫁になるんだから俺の忠告は聞け」
子供に言い聞かせるような声音でそう言った彼を
私は信じられない思いで見た。
誰が、誰の花嫁だって?
聞き間違いかと思ったが男は言い直すこともせずに笑ったまま。
私は本当に厄介な人に関わったらしい。これは詐欺か何かだろうな。とそう決めつけて
私は心の中でため息をついていた。
その出会いが私の平凡だった毎日を変えるなんて
誰が想像できるだろうか。