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泣いたら許されると誰が言ったのでしょうか


誰も言ってはいません


逆ギレの言葉をどうして自分に言うのでしょう


傷つかないとでも思いでしょうか


人の関係は曖昧で複雑すぎる


これはだめ?あれはいい?あっちは?こっちは?


わからないことが多すぎて嫌になる


それならいっそ


仲間だけで過ごしましょう


それならとても楽しい日々が過ごせるはずさ



‐アヤトリ‐





「みずちは虫偏に交わるだから。蛟、それ以外で呼ばないで」



そう言われてしまうと、何の違いがあるの?と、聞けなくなってしまう。


みずち……蛟の中では、きっとこだわりがあるんだと思う。


気にしないでおこう。


自分の中で結論付けてからこれからのことを聞いておく。



「琥珀さんにかくまってもらうのはいいとして、どこに行ったら会えるの?」



それは素朴な疑問だった。


私は彼の居場所を知らない。


そもそも、ここからまだ動いていないし、妖怪達の住みかに足を踏み入れることすらしていないのだから知らなくて当然だ。


そんな状態で探しに行けと言われたら確実に怒ってしまいそうだ。



そんな風に思っていたが返ってきた答えは予想の斜め上をいくものだった。


蛟は大蛇と蛟自身を指差しながら



「実は黒狐殿の居場所はどっちも知らないんだよね」



さして重要でもない事を言うかのようにそう答えたのだ。


その言葉に頭を抱えたくなったのは当たり前だろう。



「じゃあ、どうするの?居場所を知らない役立たずだけじゃあ会えもしないじゃない」



自分の事を棚にあげてそんなことを言うと蛟は大蛇の手を引っ張って立たせながら返事を返す。



「だいじょうぶ、だいじょうぶ。当てはあるから」



その声はどこか楽しそうに聞こえた。


私が蛟のその声に不安になっていることなんか知らずに、蛟は立ち上がった大蛇に微笑みながら言葉を続ける。


「狐のことは狐に聞いた方が一番でしょ?

ねぇ、おねえさんは

みけつかみの事は知ってるかな?」



みけつかみ?


一瞬、問われた意味がわからなくて、みけつかみって何だっけ?と考えてしまった。


蛟はそれに怒ることなく、黙って答えるのを待っていた。


微笑みを崩すことなく。

そんな蛟を見てから私が知っている答えを言ってみた。


「みけつかみ……漢字で書くと、尊敬する人に使う 御 に食事の 食 に三重県の市である 津 に神様の神で 御食津神 だよね」



言葉だけでは分かりにくいから地面に書きながらあっているか聞いておく。


一応、

間違ってないとわかっていても確認しとかないと違うこと説明して赤恥をかきたくないしね。


そんなことを思いながら蛟の答えを待っていると


私の書いたその漢字を見ながら蛟は



「うん。もう一つ、漢字あるらしいけど、それしか知らないよ」



と、答えてくれた。


間違ってなくてよかった、と心の中で安堵しながらその御食津神の説明を始めるために口を開く。



「御食津神は

食物を主宰する神のこと。大宜都比売神おおげつひめのかみ保食神うけもちのかみ、他にもいるみたいだけど私は覚えてないわ。


それか、


宇賀御魂神うかのみたまのかみ、すなわち稲荷いなりの神の一名。



みけつを三狐と当て字にされたから狐に付会されたとか」



これくらしか知らないよ、と付け足せば蛟はぱちぱちと拍手をしながら



「よくできました」



と、言ってきた。


上から目線なのは何故だろう。


怒った方がいいのか?


真剣にそんな事に悩んでも仕方ないのですぐに頭の隅の方に片付けておこう。


自己完結をしていると、蛟は拍手を止めて私の方に近寄りながら言った。



「狐は神様の使いだとか人の中でいろいろと言われてるでしょ。


そんな狐を妖怪達は敵視や嫉妬、特別視をしなかったでしょうか?


しないわけないよね。だからこそ、狐だけは違う場所にいるんだよ。



この山で御食津神を奉っていた跡地に狐だけで」



蛟が言い終わった時には私の左手は蛟に握られていた。


何も言わない私の手をぐいっと引っ張って歩き出しながら蛟は言葉を続ける。



「狐がたくさんいる場所なら黒狐殿がいる場所を知っている奴くらいいるはずだよ。

狐は他種族には厳しいけど人には優しいからあなたが聞いたら答えてくれるさ」



大蛇もおいていかれるのが嫌なのか私達の後を追いかけてきた。


近くまで来ると私の右手を握りながら



「きっと皆、おねえちゃんには優しいよ」



と、言った。


行きたくないって言えない雰囲気に負けてしまう。


仕方ない。仕方ないよ、自分。


今、帰らされたら蛇我羅に会えなくなるんだから。



そう、自分を説得しつつ、大蛇と蛟に挟まれながら足を動かすのだった。

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