26
コロコロと転がり続ける透明な球体を眺めれば
そこに映る自分と目があう
当然のことなのに
それが無性に嬉しく感じた
まるで、自分を通して誰かを見ている気がしたんだろう
それが勘違いだとしても自分は満足だったんだ
‐アヤトリ‐
「おねえちゃん?」
大蛇は不思議そうに首を傾げた後、もう一度、かわいく笑って私を見た。
その笑みは何も知らない人達にとっては年相応の笑みだろうけど
私には空っぽの笑みに見えた気がする。
「何?」
手を胸元の近くで握りしめながら短く答えを返す。
短すぎた返事は不審に思われなかっただろうか。
そんな風に心配したが大蛇はまったく気にした様子もなく
「じゃがら……どこにいったの?」
そんな事を言った。
ああ、大蛇は蛇我羅のことは認識してても白梅さん達のことは認識してないんだ。
それとも、白梅さんが蛇我羅を連れて行ったことにも気づいてなかったのだろうか。
よくわからない感情を振り払うかのようにそんなことを思う。
その感情が同情なのか、慈愛なのか、悲しさなのか、怒りなのか、私は気づくことを恐れていたのだろう。
だからこそ、私は何でもないことのように振り払うんだ。
そんな風に自虐的なことを考えていると
一匹の蛇を手に巻き付けながらみずちが言う。
その蛇はどこから来たのかと言うことは聞いては行けない気がするので
おとなしく黙っておいた。
「当主様を鬼の頭領が担ぎ上げているのを見たって。それにもうすぐ門番の一人がこちらに来るらしいよ」
その言葉に白梅さんが
「帰り道はゼンに案内させます」
と、言っていたのを思い出す。
そうか。ゼンと言うのは門番だったのか。
きっと、その門番も鬼なのだろう。
鬼と言うのは蛟や大蛇のように情報が少ないわけではない。
だけれど、どれも信憑性があるわけでもなかった。
鬼
天つ神に対して、地上などの悪神。
伝説上の山男、巨人や異種族の者。
死者の霊魂。亡霊。
恐ろしい形をして人にたたりをする怪物。もののけ。
白梅さんと小鬼達を見ていて一番に思い出したのは
餓鬼、地獄の青鬼・赤鬼があり、美男・美女に化け、音楽・双六・詩歌などにすぐれたものとして人間世界に現れる。
後に陰陽道の影響で、人身に、牛の角や虎の牙を持ち、裸で虎の皮のふんどしをしめた形をとる。
怪力で性質は荒い。
と、いうもの。
美男・美女の話は白梅さんにぴったりだし、小鬼達は牛の角や虎の牙などの話にぴったりだ。
その門番はどちらなのか。
白梅さんのように人の姿を形どっているんだろうか。
私が逃げる方法を模索していると、みずちがある提案をだしてくれた。
「おねえさん、ここをとりあえず離れよう。黒狐殿ならかくまってくれると思うから」
黒狐?
それはいったい誰のことだろう。
そんな風に思っていると、顔にでていたのかみずちが不思議そうに言ってきた。
「琥珀 狐雲殿だよ。会っていたと思っていたんだけど違ったの?」
琥珀さんって黒狐だったんだ。
知らなかった。
新たなことを一つ、知ったことで、鬼、蛇、狐の妖怪と会っていたことを知る。
まあ、今さら過ぎるから気にしても意味はないけれど。
「ていうか、みずちが私を助けてくれるとは思わなかった」
「それはどういう意味なのかな?」
しまった。声にでていたらしい。
そう思って口を手で押さえても、もう遅い。
みずちはにっこりと笑っているが雰囲気が、はやく答えろと言っているような気がする。
「ほ、ほら、みずち、最初に会った時は私に冷たかったし」
急いで答えたことで、言い訳のように聞こえるだろうが本音だった。
みずちはそれに納得したように頷いた後、
「当主様の特別ではなかったら今でも嫌いでしたよ」
まるで当然のことだとでも言うかのように言った。
やっぱり、みずちと仲良くなれることはないみたいだ。
その言葉を聞いてそう思った時、みずちは横を向きながら小さな声でこう付け足した。
「みずちは虫偏に交わるだから。蛟、それ以外で呼ばないで」
少し、かわいいと思った私は悪いですか?