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笑って泣いて怒ってまた笑う
どれほど沢山の人を集めたって
君のひとつ、ひとつの姿にはかなわない
それを独り占めできる自分はなんと幸福なんでしょうか
‐アヤトリ‐
幼い子供は顔に鱗のようなものがついていて
明らかに人以外のものだとわかる。
ああ、やっぱり。
そう思う自分が心の中にいた。
思えば、白梅さんも蛇我羅も明らかに人とは違うことを言ったり、していたものだ。
「この頃、蛇をよく見かけるだろ?あれはあんたを見るためだったけど気づいてなかったろ」
こんなことを言われたりもした。
決定的なのはやっぱり琥珀さんだろうか。
耳と尻尾あったし。
冷静でいるふりをして、ただ現実逃避をしているだけな私。
すぐに現実逃避するのを直さないとなっと心の中で呟いてみる。
直す気はあまりないけど。
私がぼーっとしているのに気づいたのか幼い子供は、くいっと袖を引っ張った。
その仕草に
「どうしたの?」
と、聞いてみる。
幼い子供は最初、戸惑ったように下を見ていたがすぐに、にこりと笑い
「いっしょにあそぼ?」
そう言った。
その言葉にもだけど、誰もこの子を見ようとしない。
認識しようとしないのに恐怖を覚える。
この子は一体何なんだろうか。
知識がないわけじゃない。
お婆ちゃん子だった私は多分、何も知らない人よりは妖怪の話を聞かされてきた。
だけど、実際どれくらいの事が役に立つかなんてわかるわけなんかない。
わかっていることはこの子が何かの妖怪だってことくらいで、他に何もわかりはしない。
「おねえちゃん?」
こてりと首をかしげる仕草に自分が悪いことをしている気になってしまう。
さっきから私はこの子を無視しているから、悪いといえば悪いんだけど。
「何でもないよ。……それよりあなたは誰?」
まずは知ることが大事な気がしてそう聞いてみた。
幼い子は内緒話をするかのように口元を手で隠して言った。
「おろち。おおきなへびでね、おろちだよ」
名前を聞いたわけじゃないんだけど。知らないよりはいいか。
「大蛇、か。強そうな名前ね」
思ったことを言ってみると、それまで白梅さんと言い合っていた蛇我羅がこちらを見た。
何度、言い争うんだ。と思ってしまった。
さっき、言い争い終わっていなかったっけ。
まだ、言い争っているってことは終わってなかったってことだけど。
「なんで、お前がここにいるんだよ。おいてきたはずだろ、大蛇」
蛇我羅は私というより、そばにいる大蛇……君?さん?を睨みながら言った。
中性的で性別わからないから、呼び捨てにしとこう。
白梅さんも黙って大蛇を見ている。二人が少し警戒心をむき出しにしている気がするのは私だけだろうか。
尋ねたいけど、さちはさっきから白梅さんの腕の中で、尋ねることはできない。
「名前を呼ばれないと認識できない、お前の特性だからこそ、逃げ出すことは簡単だっただろうけど」
「普通はあの場所を抜け出すことはできませんからね」
蛇我羅と白梅さんが同時にため息をつく。
それだけ、大蛇は厄介な相手なんだろうか。
「……あの場所って?」
私が疑問に思って聞いてみると蛇我羅と白梅さんは同時に言った。
「「牢獄」」
本当は仲良しじゃないんだろうか、この二人。
早速、牢獄って言葉から現実逃避する私は悪くない。