魔法使い
困惑を抱えながらも、部屋にあるもので唯一見慣れた制服に着替えると、匠は部屋を出た。
美緒「ほら、さっさと行くよ」
匠「あ、あぁ…」
慌てて靴を履くと、ドアノブに手を伸ばす。
美緒「あ、兄貴忘れ物」
そう言うと美緒は長細い包みを投げてよこした。剣道の竹刀のようだったが、にしてはかなり重かった。
匠「なんだこれ」
美緒「何って魔法剣じゃん。それがないと兄貴小学生にもカツアゲされんだから」
匠「は?魔法…剣?」
美緒「何?まだ寝ぼけてんの?」
匠の困惑はいよいよ理解の及ばない所まできていた。魔法などというものが存在するわけがないと。
その時、ふと夕べの手紙を思い出した
(パラレルワールドへようこそ)
匠(パラレルワールド…まさか…平行世界のことか…?まさか俺は異世界に…?)
美緒「寝ぼけ兄貴には付き合ってらんない、先行くから」
美緒は匠を置いてドアの外へと出て行った。慌てて匠は後を追う。
匠「ちょっと待てよ、美緒!魔法って…」
だがその声は別の大きな声に遮られた。
芳樹「神崎美緒!今日こそはお前を倒す」
美緒「柊、アンタまだ諦めてないわけ?アンタじゃあたしには勝てない」
芳樹「うるせえ!」
声の主は匠の唯一の友であり理解者の柊芳樹だった。
匠「芳樹じゃないか、どうしたんだこんな朝早くから。一緒に学校行くか?」
芳樹「あぁん?気安く話しかけてんじゃねぇよグズが!」
そう言うと芳樹は右手を掲げる。するとバスケットボール程の大きさの火球が出現し、それを匠に向かって投げつける。
芳樹「消し炭にしてやる!」
匠「うわぁぁぁぁ!?」
だが、火球が匠を襲うことはなかった。寸前で火球は跡形もなく消滅したのだ。
美緒「あんた私の兄貴になにしてんのよ」
芳樹「チッ、忌々しい魔法だぜ。あ~ぁ、そこのグズのせいで萎えちまった。じゃあな」
吐き捨てるように言うと、芳樹は去っていった。
匠「魔法…これが…。芳樹はどうしちまったんだ」