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異世界で暇してたら ――令嬢は俺をパートナーにした――

作者: 甘い秋空
掲載日:2026/05/27


 異世界の学園、手入れの行き届いた庭園は、青空とそよ風を伴い、今日も居心地が良い。

「ふあぁ……退屈は、異世界のオアシスだ」

 昼下がりのベンチで、俺――クロガネは盛大にあくびをした。

 王立騎士学園中等部。普段は真面目に授業を受けているが、午後の予定だけはどうにも気が乗らない。元の世界――日本には無かった授業だ。

「筋肉ゴリラのクロガネ君は、ダンス大会に興味ないのですか?」

 頭上から、氷みたいに涼しい声が降ってきた。


 そこには……輝くような金髪縦ロール、貴族の教科書にそのまま載りそうな完璧な姿勢、見た者をとりこにする完璧な微笑――上級貴族のご令嬢、フランソワーズが立っていた。

「ああ……午後はダンス大会だったな」

「サボったらダメですよ」

(いや、見てるだけって退屈なんだよな……)

 ダンスは踊ってナンボ。だが俺にはパートナーがいない。


 それにしても、忙しい彼女が、用もないのに、わざわざ中庭に来るわけがない。そっと表情をうかがうと……曇っていた。

「ん? どうしたんだ?」

「……私のパートナーがケガをして、治療所に運ばれました」

「え?」

 彼女のダンスパートナーは、午後の大会で、優勝するのは間違いないと言われている。

「誰かに襲われたのです」

 空気が一瞬で凍り付き、フランソワーズの指先が、わずかに震えている。


 彼女の表情が硬い。

「俺への依頼は、犯人逮捕か? それとも治癒魔法か?」

「いいえ、それは既に動かしています」

 さすが上級貴族。騎士団も治癒術士も自由に動かせるらしい。

「じゃあ、俺に何を?」

 フランソワーズは一歩近づき、真剣な瞳で言った。


「クロガネ君、私のダンスパートナーになりなさい」

「は?」

 変な声が出た。いやいや、無理だろ。

「俺は平民だぞ? 周りが許さないだろ」

「クロガネ君。ダンス大会の裏で賭け事があること、知っていますか?」

「一般人には縁のない話……って、あれ? 賭けって違法じゃないのか?」

「無届けの賭け事は違法です」

 フランソワーズの声が低くなる。


「優勝する男性選手を賭けの対象にしていて……私のパートナーが一番人気だったようです」

「つまり、犯人は賭けで儲けるために襲ったってことか」

「しかし、物的証拠がありません」

「俺がパートナーになっても証拠にはならないぞ?」

「賭け事そのものを潰します」

「え?」


「クロガネ君に賭ける人など、いないでしょう?」

「……つまり俺が優勝すれば、賭けが成立しないってことか」

 フランソワーズは静かにうなずいた。

(……断れるわけないだろ)


 ◆


 結果から言うと――大会は無事に終わった。

 俺の激しめのステップに、完璧に合わせてくるフランソワーズ。その動きは、もはや人間離れしていた。上級貴族の身体能力ってどうなってんだ?

「優勝、フランソワーズ様!」

 会場が歓喜に沸く。

 ……いや、俺の名前は? 平民はつらい。


 ◆


 中庭で、俺は、巨大な優勝トロフィーを抱え、ぼんやり立ち尽くしていた。

「重っ……これ、銅か? 俺の六畳一間に置けるか?」

 そこへ、フランソワーズが駆け寄ってきた。

 彼女が走るなんて、今日はいろいろ珍しい。


「クロガネ君、犯人を捕まえました」

「よかったな」

「ですが……犯人は、爆弾の魔道具を仕掛けていました」

「それは大変だな、場所は白状したのか?」

「その優勝トロフィーです」

「は?」


 反射的に、俺はトロフィーを空へ放り投げた。

「空間ゴムゴム魔法!」

 空間を伸ばし、縮め、トロフィーを一気に上空へと跳ばす。

「ファイヤー・アロー!」

 フランソワーズの魔法がトロフィーを撃ち抜いた。

『ドンッ!』

 青緑色の大輪の花火が、夕空に咲き乱れた……


「綺麗ですね」

 フランソワーズが微笑む。

(いやいや! 俺の腕の中で爆発してたら、タダではすまなかったぞ!)

 そんな俺の動揺をよそに、彼女はそっと肩を寄せてきた。

「クロガネ君の世界では……花火は、こうやって見るのがマナーなのですよね?」

 ああ……今、確かに何かが俺の胸の中で爆発した。


  ―― またね ――


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