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Akeenohi -アケノヒ-  作者: 大化
第一部 『陽の欠片』
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第二十ニ話 可惜夜計画






(ここは――)






冷たい水の中にいるような感覚だった。

光の届かない深淵。音も、痛みも、記憶も、どこか曖昧なまま揺蕩う。


浮かびあがる無数の声と、誰かの影。


その中に――

一つ、確かに聞き覚えのある声があった。


「よくここまで来たね、カエデ」


その声は、どこか懐かしく、けれど思い出せない。

目を凝らすと、そこにいたのは――1人の女性だった。


「私は……アタラヨ。

真名は、雑賀孫一。貴方の、母親よ」


胸の奥に、何かが弾けるように波紋を広げた。


「え………?アタ、ラヨが雑賀孫一で……?私の、母親……?」


カエデはぶんぶんと首を振った。

全くもって、理解が追いつかない。


「お父さんが貴方を造った理由……それを伝える時が来たわね」


孫一の声は、柔らかくもどこか切なさを帯びていた。

彼女の語る内容は、まるで悪い夢のように現実離れしていた。





ーーーーー





かつて、孫一と忠勝その娘ーー「東雲楓」は不慮の事故により、植物状態となる。


そして、その事故により、楓の母である孫一は帰らぬ人となってしまった。


忠勝は、娘が目覚めないのは『孫一から 第13の陽の欠片「忘却」を受け継いだ為に「母の死」という辛い現実を忘れることが出来ず、その事実を拒否しているから』だと考えた。


忠勝は東雲楓から「母親の死」という記憶を消し去る為に、陽の欠片の解放を決意する。


そこで、娘そっくりの機械ーー

「カエデ」を作り出し、「忘却の欠片」を埋め込み、楓から引き離した。

この状態で世界をループさせれば、楓は悲しい記憶として「母親の存在」を忘れ、目を覚ます。





だが、それだけでは計画は不完全だった。





「貴方のお父さんーーー忠勝は、曽是の忠臣だった。けれど妻である私が、曽是の天下統一に反対していたから。『陽の光が見たい』…そんな私の夢を、あの人は尊重してくれていた」


アタラヨ、もとい雑賀孫一は語る。

その顔には時折自嘲気味な憂いが混じっているようにも見えた。


「曽是にとって私は、忠臣を誑かす邪魔者だったんでしょうね。…だから、あの事故が起きた」


忠勝は、妻の夢を叶える為、楓を守る為。陽の欠片を集め曽是を打倒することを決意した。

だが、自分が動けば楓本体の身に危険が及ぶかもしれない。


そこで、楓の記憶と人格をもとに、『カエデ』という機械を作った。

忘却の欠片を内蔵し、陽の欠片を集めるための存在とする為に。


「代わり……?」


カエデは、ようやく声を出した。

目を伏せる。震える手を見つめる。


「私は、楓の代わりに作られた……機械……」


「そうかもしれない。

……でも、貴方には貴方の魂がある」


孫一は、優しく手を差し伸べた。


「カエデ。貴方はね……確かに私が教えた記憶を持っていない。けれど、それでも。

泣いたり、笑ったり、怒ったり。

楓と同じように迷って、悩んで、誰かのために剣を抜いた。

それは、“心”があるからよ」


「でも……!」


カエデは叫ぶ。


「それは……それは本当に、私自身のものなの?

誰かのために、作られたプログラムなんじゃないの……!?」


沈黙が落ちた。


けれど、その静寂の中、孫一の声が静かに響く。


「貴方が誰かの言葉に笑ってくれた瞬間があった。

誰かを救いたいと願った瞬間があった。

それは“代替”なんかじゃない。

楓にも、カエデにも、同じように“生きる”理由があるの」


「……」


カエデは唇を噛む。

握った手に、震えが宿る。



忘却の欠片――自身の頭部に埋め込まれたそれが、鈍く疼いていた。




“悲しい記憶を消して、目を覚まさせる”



父が信じた方法。


でもそれは



母親の死を「無かったことにする」道だ。




「私は、たぶん……」


カエデはぽつりと言った。


「ずっと、誰かに愛された記憶が欲しかった。

私にはそれが無かった。

私は誰の娘でもなくて……ただ“陽の欠片を集める機械”だったから」


孫一は微笑む。


「いいえ。

カエデ、貴方も私の娘よ。

どちらが本物とか、代わりなんて関係ない。

私は、貴方を信じてる」



不意に、涙がカエデの頬を伝う。




……涙?



カエデは驚いた。機械であるはずの自分に、こんな反応が残っていることに。


だけど、確かに。

心が、泣いていた。


孫一の姿が、ゆっくりと光に溶けていく。


「さあ、もう行きなさい。

……“お父さんを、お願いね”」


「……っ、うん。ありがとう………お母さん」


カエデは、涙の滲む視界の奥で、彼女の姿が消えるのを見届けた。


そして、彼女は――


目を覚ました。

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