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Akeenohi -アケノヒ-  作者: 大化
第一部 『陽の欠片』
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第二十一話 曽是vsカエデ

空に機械の羽音がこだまする。


戦艦の甲板上――

カイザーソゼこと、曽是がその全貌を現した。


背からは巨大な海棲生物を模した尾。

関節ごとに刃を携えたそれは地を這い、うねり、躍動する。

さらに尾の側面からは複数の爪型ドローンが浮かび、意志ある生物のように周囲を浮遊する。

そして肩からは、蛇のような一対の触手がぶわりと広がっていた。


「さて、始めようか」


カエデが左腕を突き出す。

そこに装着された「アタラヨ」――

パーツが装甲から展開し、緑の光を刻む刃が解放される。

そして、瞬時にスラスターが青白く点灯する。


「アタラヨ。飛ぶよ」


《了解。推力70%、ブースト起動》


風のない空間を、爆音と共に切り裂く。


カエデが宙を走る。

まるでサーフボードのように、甲板上の空間を滑空しながら、ドローンの包囲網を強引に突破していく。


「囲め」


曽是が一言放った。


その声と同時に、爪型ドローンが光弾を発射。戦艦の甲板が抉れ、宙を舞うカエデの服が風圧で裂ける。


だが、彼女は止まらない。


アタラヨの主刀を両手で構え、一直線に曽是へ突っ込む。


「いける――!」


だが。

触手が、伸びた。

視界を塞ぐほど巨大なそれが空間をうねり、カエデの身体を弾き飛ばす。


「くっ……!」


宙に放り出されたカエデを、すぐさま尾が狙う。うねりながら地面を這い、角度を変えて飛び上がる幾つもの刃。

カエデは空中で体勢を立て直し、アタラヨを盾代わりに構える。


「迎撃お願い!!」


アタラヨが自律機能を起動。飛行形態から分離し、刃を振るって尾を受け止める――が。


尾の一部が装着されたカエデの左腕に巻き付き、そして、電気を帯びた衝撃とともに――


「――ッッ!!」


左目に、機械の杭が突き立てられた。


――その瞬間、世界は静止した。


視界に映る火花。金属片。


左目から流れるのは血ではない。

そして、血管の代わりに露出するのは、銀色の神経模倣体、制御コード、配線。

そのどれもが、人間のものではなかった。


「……あ……ぁ、あ、あ……!」


自分の叫びが、遠い。

世界が、白く霞んでいく。


《カエデ、カエデ!!しっかりしてください!》


アタラヨの呼びかけにもカエデは虚な瞳のまま答えることができない。

その様子を、曽是が静かに見下ろしていた。


「やはり、か。

“紛い物”が正義を説くなど、なんとも滑稽よな」


足に力が入らない。

存在理由が、瓦解していく。


「……あたしは……“東雲楓”じゃ……ない……」


膝が崩れ、カエデは曽是の前に崩れ落ちた。

曽是は何も言わない。

ただ、無感情のまま静かに彼女を見下ろしていた。


その時。


甲板上空――

空を切る音が、風を裂いた。

燃える空の中、白煙の尾を引きながら、

一機の飛行ユニットが急降下する。


先頭に立つ少女の髪が風に煽られ、機体の中で光る瞳が戦艦の甲板を捉えた。


見据えるは、倒れ伏す――カエデの姿。


「カエデ……!」


テルトラの声が、風を切って落ちてくる。


拳が震える。

十兵衛との死闘を終えたばかりの身体は悲鳴を上げていた。

だが、テルトラの動きに迷いはない。


「今、行くから……!」


戦場の空に、再び火の粉が散った――。


ーーーー


鉄と黒煙が空を覆う戦場。

鳴り響く砲声と呻きのような機械音の中、ひときわ異様な存在が、空を睨み据えていた。


曽是──。


その前に、損傷した絡繰──門天丸が立ちはだかる。

テルトラは、その中で歯を食いしばりながら操縦桿を握っていた。


「……来なさい、曽是」


だが、曽是は嘲笑うように肩を揺らす。


「来なさい……だと?頭でっかちのガキと、ガラクタ風情が…何の勝機があって、この私に抗う?」


「…勝てるなんて……思ってない。それでも、私は…!!」


門天丸が突進する。

損傷した脚部が火花を撒きながら滑り、テルトラはそのまま曽是の左腕に機体の腕部ブレードを叩き込んだ。


刃が曽是の機械外殻を削るが、致命傷には程遠い。

すぐさま曽是の尻尾がしなり、門天丸の胴体に叩きつけられる。


「っぐぅ……!」


機体がよろめく。


「自身の罪から目を背け、逃げ、隠れ…果てには自棄になっていた貴様が…随分と人情的になったと見える。では、尋ねるが……“アレ”は人間か?」


その言葉に、テルトラの顔がピクリと動く。


「…カエデは……カエデは……!」


声に力を込める。


「確かに、あの子は……人間じゃないかもしれない……でも!」


門天丸が旋回し、飛行ユニットで宙を滑る。

だがエネルギー供給はすでに不安定。機体は何度も姿勢を崩し、曽是の追撃を紙一重で避け続ける。


「確かに、あの子には心がある! 魂がある! それは、あの旅の中で私が何よりも感じた……!」


「……!」


「私は、そんな“あなた”に救われた!あなたが救ってくれたんだよ、カエデ!」


なけなしのエネルギーを振り絞り、門天丸が曽是に向けて突撃する。


「…だから……たとえカエデが、何者であろうと!」


そして、全身の砲門が一斉に閃光を吐いた。


「私は、私の親友を、守るんだ!!」


爆煙が戦場を覆う。

だがその中を突き破って現れたのは、無傷の曽是──


「戯言だ」


鋼の尻尾が門天丸の腹部を抉り、機体ごとテルトラを吹き飛ばす。


「ぐ……あああッ!!」


門天丸が地面に叩きつけられ、そこへ容赦なく触手が絡みつく。

機体が締め上げられ、悲鳴のような金属音と共にテルトラの苦痛に悶える絶叫が響いた。


「っく……まだ……カエデ……!」


その叫びに、戦艦の上で膝をついていたカエデの喉が、わずかに震えた。


「……やめろ……」


か細い声。

その声に反応する者はいない。


「……やめて……ッ……!」


這ってでも止めたいのに。

動かない。指一本、ぴくりとも。


――機械だから?

壊れたから?

でも、私は……


「……私が……人間だったら……!」


心が叫んでいた。

血が通っていれば、命があれば、力尽きようとも止めにいけるのに……!


「……う……」


赤いアラートが、テルトラの視界を埋める。

門天丸のコックピットに、曽是の触手の切先が狙いを定める。


そして。


「…や、めろォオォオ!!!!」


ガギィィィィンッ……!


カエデの絶叫虚しく

刃が装甲を貫いた――


その瞬間、カエデの視界は深い闇に沈んだ。


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