幕間 夜刀VSミーハオ・トリニティ その②
「アハハハハッ!!!」
爆音の中で、少女は笑っていた。
跨るカラクリスーツには
巨大な砲塔や両腕のチェーンソーを始めとして、様々な火器が装備されていた。
そのどれもが、効率良く人を殺す事を想定して作られている。
「逃げないでよォ!! もっと遊ぼうよぉッ!!」
ドゴォン!!
砲撃が地面を吹き飛ばす。
「ちょ、マジで待って!? 火力おかしいってェ!!」
デビが爆風を蹴って飛ぶ。
その直後、彼女を掠めるようにチェーンソーが通過する。
ギャリギャリギャリ!!
まるで空気ごと削るような音。
「ちょっとー!?それ当たったら普通にミンチなんだけど!?」
デビの苦言も気にせずスーは笑う。
まるで遊園地ではしゃぐ子供のように、楽しそうに。
「お姉ちゃん強いねぇ!! スーは強い人好き!!」
再び突進。
デビは鉄球を振り回して迎撃する。
ガゴォッ!!
だが重い。
「ッッ……!」
「無駄だよぉ!スーの『姥鮫』ちゃんに生身で傷なんてつけれっこないんだから!」
持ち前の怪力を持ってしても、鉄球ごと押し込まれる。
(ヤバ。真正面じゃ負ける)
デビの目が細くなる。
(装甲厚い。火力高い。機動力もある)
(しかも躊躇ゼロ)
スーは本当に“遊んで”いる。
殺すことに罪悪感がない。
ーーだから強い。
「ほらほらほらァ!!」
砲塔展開し、一斉射撃。
爆炎が連続に立ち上がる。
デビは地面を蹴り、転がりながら回避する。
「うっわマジうざっ!! 何その弾幕!? アタシ今シューティングゲームやらされてる!?」
デビはスーの攻撃に対しておちゃらける。
だがその目は笑っていない。
その目は、スーの一挙手一投足を冷静に観察している。
絡繰の動き。
重心のクセ。
関節の数。
「……あ」
そして、気付く。
スーの絡繰は攻撃の時に、排熱の為少し背面が開くという事に。
「ほらほらァ、逃げないと死んじゃうよ!」
スーが次弾を装填し、狙いもつけずに乱射する。
砲撃が辺り一面を消し飛ばす中、デビの姿が消えた。
そして、次の瞬間にはスーの絡繰の側面。
鉄球を地を這うように低く走らせる。
ガゴン!!
「きゃっ!?」
スーの絡繰に衝撃が走る。
困惑し、動きが止まった
その隙をデビは逃さなかった。
「こっちはさァ!」
鉄球を引き戻す。
「遊びじゃなくて!」
ぐるりと体を捻ると、鉄球に回転を加える。
「殺し合いしてんの!!」
ドゴォォォン!!
再び鉄球が絡繰背面へ直撃。
排熱機関を破壊し、装甲がひしゃげる。
絡繰内部が露出すると、火花が散る。
「……えっ?」
その時、スーの顔から笑みが消えた。
彼女は初めて、“死”を感じた。
「ま、待って……」
後退る。
絡繰が火を吹く。
脱出を試みるが、先ほどの攻撃で絡繰の入り口はひしゃげているのか、降りる事が出来ない。
「そんな……アタシ……」
理解できなかった。
自分が破壊される未来なんて。
「サン姉ぇ……」
声が震える。
「ヴァン兄……トロワ兄……」
大好きな兄弟達に助けを求める。
だが誰も来ない。
「や、やだ…!」
戦闘不能となったスーの絡繰の前にデビが立つ。
そして、静かに鉄球を構えた。
「──ばいばい」
最後の一撃が動力炉を直撃。
ズガァァァァァン!!!
爆発が周囲を吹き飛ばす。
散らばる鉄。火。肉片。
無邪気な殺意は、そうして終わった。
デビは焦げた煙を見つめる。
「なかなか強かったじゃん⭐︎」
鉄球を肩に担ぐ。
「…でも、戦場って“楽しんだ方”が勝つ場所じゃねぇんだわ」
そして振り返らず歩き出した。
⸻
サンは静かに武器を構える。
背後に浮かぶのは高水圧を放つ複数のビット。
「排除する」
その一言と同時にビットから超高水圧の弾丸が射出。
高速回転する水刃が空間を切り裂いていく。
「うおッ!?」
エミが蛇腹剣を展開。
ガギィン!!
水と触れ合い起きる火花。
水流の刃が鋼を削る。
「チッ、速ェな!!」
サンは動かない。
ただビットだけで戦場を制圧する。
その攻撃は精密かつ、正確。
少しずつエミの動きに適応し、彼女へ傷を負わせていく。致命傷こそないものの、確実にこちらへとダメージを蓄積させるその攻撃にエミは苛立ちを隠せずにいた。
「…その程度?あなたも曲がりなりにもリーダーなのでしょう?」
ビットが増える。
そして、エミを包囲するように展開される。
「苛立ちも隠さない…感情は判断を鈍らせるだけよ」
「へぇ〜」
エミは笑うと蛇腹剣を大きく広げる。
刃が蛇のように空を這う。
「アタシはなァ、説教されんのは嫌いなんだよ」
蛇腹剣とビットが空中で絡み合う。
ビットは切断され、地上に残骸が散らばる。
思わぬ反撃だが、冷静にサンは演算を開始する。
蛇腹剣の軌道予測。ビットの制御修正。
そして、再びビットを射出し、包囲の形を取ろうとする。
だが──
「テメェみたいな人間のクズがなぁ!」
エミが突っ込む。
「アタシに説教垂れるなんてのは片腹いてェんだよ!!」
蛇腹剣が予測不能の軌道を描く。
サンの反応が一瞬遅れる。
それと同時にビットの展開がエミの突撃に対応から遅れる。
「…演算に誤差?」
「お、青ざめたな?それが“感情”だ。覚えときな」
エミが懐へと潜り込む。
サンが咄嗟にナイフを抜く。
ガギィッ!!
互いの刃がぶつかる。
「合理的に考えれば、我々がここで争う意味はない。世界を変える力を持つ者達に逆らう事に何の意味があるというんだ?」
「…あン?なんだって?アタシさ、“合理的”って言葉使う奴嫌いなんだよね」
エミが蛇腹剣を展開し、刃が弾ける。
広がった刃は死角からサンの肩を貫く。
「ッ……!」
初めてサンが顔を歪める。
ビットを周りに集め、再展開する。
だが、サンはビットを収めると後退した。
「……これ以上は割に合わない」
「ンだと?」
「撤退する。我々はこの戦いから身を引く」
そう言ってサンがユニットを展開し、空中へ飛び立つ。
そして、戦場を見渡すとその足が止まった。
ヴァン。
トロワ。
スー。
煙の中に転がる兄弟達。
「…………」
長い沈黙。
その顔から初めて、“仮面”が剥がれる。
「……こんなはずじゃ、なかったのに」
小さい声。
感情を殺してきた女の、本音。
エミは何も言わない。
サンは目を閉じる。
そして。再び、傭兵の顔に戻る。
「……夜刀」
冷たい視線。
「覚えてなさい」
サンは再び飛び立ち、煙の中へ消える。
エミは追わない。
蛇腹剣を巻き戻しながら呟く。
「…そうかよ、来るなら来な」
戦場には、夜刀だけが立っていた。




