愚者は、痛い目をみないと気づかない
「ノービ、悪いがビッグ音楽団を辞めてくれ。これは他の幹部全員と多数決で決めたことだ。」
リーダーであるドゥラメンテにそう言われて動揺した僕は、後ろにふらついて椅子に躓き、後ろにひっくり返ってあたまを打った衝撃で前世の記憶を部分的に思い出した。
ああ、この世界って異世界ざまあ系なんだ。
異世界ざまあ系
それは主人公を理不尽な理由で解雇したギルドやパーティーが、後に主人公が自分達が活動していく上で必要不可欠な能力を持つ人材だったと思い知り、主人公に復帰を求めるも断られてしまうというやつだ。ざまぁ。
前世、転生するならこんな世界観がいいなぁなんて思っていたジャンルでもある。
「おい!大丈夫かノービ」
「大丈夫だよ。それよりも一つだけ教えてほしい。ぼくをクビにする話は、全員一致できまったのかい?」
「・・・・・・」
言葉に詰まったドゥラメンテの代わりに、脇を固めるゴーダとスネルが答える。
「いや、3対1だ」
「一人だけ反対した奴がいたな」
やっぱりね。
反対したのは、暗い顔をして俯いている紅一点のシズだろう。
僕達ビッグ音楽団は幼馴染5人で結成したんだ。
指揮者のドゥラメンテ
オーボエのゴーダ
チューバのスネル
バイオリンのシズ
そして僕、シンバルのノービ
皆んなで頑張って、メンバーも増えて、どんどん大きくなっていったんだけど……シズ以外は最近僕への風当たりが強い。
大方、『シンバルは一曲で一回しか叩かないのにギャラは5人で山分けになっているのが気に食わない』とか、そんな幼稚な理由だろう。
ちっちっち、分かってないなぁ。
シンバルって曲の締めを飾るから凄く大事なんだよ。ベースボールのクローザーだって試合の終盤にちょっとしか投げないのに年俸高いでしょ?あれと一緒。
「理由くらい教えてくれるかい?」
「俺たちの目標は世界一の音楽団だったよな。それを目指して活動を続けるために、ノービはいない方がいい……という判断だ」
渋い顔をしながら言うドゥラメンテ。
一応、罪悪感はあるらしいね。
でも、わかってないなあ。
この音楽団の経理担当は僕だし、広報担当も僕なんだよ。広報ってチラシを配るとかじゃないんだよ、偉い人の元に行って仕事をとってくるの、接待とかもして。
そんな要職を兼任している僕が抜けたらどうなるかわかってないのかな?わかってないんだろうなぁ。そういえばドゥラメンテ、最近目が血走ってることが多かったけど欲をかきすぎてバランスを崩してたんだね。
指摘してあげようかと思ったけど……やっぱりいいや。だって愚か者って、痛い目見ないと自分が愚かだと気づかないんだろうから。
「うん、わかった。今までありがとね。これからの皆の活躍を祈っているよ」
僕がそう言うと、皆あっけに取られた顔をした。僕が泣いてすがるとでも思った?ないよ、この後新天地で僕を追ってきたシズと活躍するんだから。
あとたぶん、他の女の子とも仲良くなって、ハーレムになっちゃったりするやつだぞこれは。むふふ。
◇◇◇
お、おかしいな。
ドゥラメンテ達と別れて一週間たったのに、シズが追って来ない。あと、ノービ音楽団を作ったのに入団希望が未だゼロだ。
「もしかしてドゥラメンテ達が影から手を回しているのか……?」
幼馴染たちは思ったより非道だったようだ。
仕方ない、少し遠回りになるけど臨時で団員を募集している弱小楽団で活動して、頭角を現すパターンでいこう。
ジャーン!!
よしよし、今のは会心の一発だった。ビッグ音楽団よりも大分レベルが低い演奏の締めには勿体無いくらいの音。
これは演奏後、大騒ぎになるぞ。『あれ、僕何かやっちゃいましたか』って言う準備しておかないと。むふふ。
「ありがとう、今日は助かったよ。」
おっと。早速、団長が挨拶にきたよ。スカウトだね。ギャラはどのくらいになるのかな。前と同じくらいは欲しいけど、弱者楽団だからなぁ。
「いえいえお役に立てて良かったです」
「また欠員が出た時は来てくれると嬉しいな」
「えっ!?僕を正規メンバーに勧誘する気は無いってこと?」
「あ、ああ。産休に入っているシンバル担当が来月には復帰する予定だしね。」
三顧の礼で勧誘されると思っていたら、全然そんなことなかった。まあ、確かに拍手はまばらだったけどさ、それは君たちの演奏が低レベルだったからだよ?
不愉快な気分でホールを後にしようとしていたら、今日の団員の話声が聞こえてきた。
「なあ、今日代理で入ったシンバルさ」
お、僕の噂か。
どんな風に称賛するんだろう、むふふ。
「元ビッグ楽団って聞いて期待してたんだけど、なんか、イマイチだったよな。」
「確かに、アレならミドラの方がずっといいな。」
「なんだ、お前ら知らないのかよ。ビッグ楽団って、締めのシンバルだけはイマイチだって、この間まで有名だったんだぜ」
え、そうなの……
「そうなのか?」
「なんでも、才能に乏しい上に余り練習もしない奴らしくてさ。最近クビになったんだと。」
違うよ!
練習しなかったのは会計や広報が忙しかったからなの。今頃僕が抜けてみんな大変なはずだから!
なんか最近、ビッグ音楽団は勢いが増したとか言われてるけど絶対まぐれだから。一時的なものだから。
と言うか、アイツらもっと不幸になれ!
◇◇◇
酒場で二人の男が話していた。
一人はゴーダ、もう一人はスネルだ。
「やっとドゥラメンテに笑顔が戻ってきたな」
「良かったよ、アイツは優しすぎるから」
「ノービをクビにするのをアイツだけは最後まで反対してたもんな。でも、これでアイツの苦労も減るだろ」
「ああ、以前は散々ノービの尻拭いして、他の団員達からの苦情も受けてたからな。」
二人が話題にしているのは、人格者の我らがリーダーのことだった。
「まあ、ドゥラメンテの気持ちもわからんでも無いがノービはやり過ぎだったよ。」
「シンバルはやる事少ないからって本人が言うから任せてみたら、経費は計算間違いだらけ。しかも一部は私的利用して、広報でも自分好みの下品な店で接待して貴族をキレさせてだもんなぁ。しかも、その仕事が忙しいって全然練習にも参加しないとなれば……なぁ」
それが、ノービがクビになった理由だった。
完全な自業自得である。
「ま、誰にでも優しいシズが『ノービを切って代わりをスカウトしましょう』と言い出した時は俺も流石にビビったけど。」
「女はこえーよな。情に厚いようで一番ドライっつーか。でも、シズみたいな奴がいてくれないとこの先も困るだろうしな。」
恩は小出しに、加害は一気にと言うやつだ。
「ま、おかげでその後会計は俺たち、接待はドゥラメンテとシズがやる事で上手くいってるし。」
「団員からの苦情も無くなったみたいだしな。新しいシンバルのディキスも最高だし」
二人としても幼馴染のノービをクビにすることに思うところが無かった訳ではない。しかし、他の団員の生活もあるしこのままではドゥラメンテの方が潰れてしまいそうだったから、決断した。
ちなみにドゥラメンテ、ノービが脱退する前はストレスからくる不眠で目も充血するくらいだったが、今はよく眠れている様だ。
「それな。……ノービも、新天地で上手くいくといいな」
「ああ、まあアイツの事だから心を入れ替えるのに何度か痛い目見ないといけないかもしれないが……きっといつか上手くいくさ」
そうして二人は店員が持ってきた酒杯を持ち上げ、
「ビッグ楽団の未来に」
「それと幼馴染5人の未来に」
「「乾杯」」
締めのシンバルの様に打ち合わせたのだった。




