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第9話「君の名は?」


「もぐもぐもぐ」

「──いや、話を聞いて?」


 もぐもぐもぐ?


「いや、聞いてない聞いてない!」


 もぐもぐもぐしか言ってないからね?

 そんでさっきから、色々聞いてるからね?


 5W1Hで聞いてるからね?!


 あと、もぐもぐしてるのはいいけど(──いや、よくないけど!)それ藤堂さんの飯もあるからね──……って、


「おかわりー」

「ねーよ!!」


 それで最後だよ!

 そんでドンだけ食うねん!!


 初対面で、もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ!!

 干し肉から乾燥チーズに、ドラーフル~ツにナッツー♪……全部、食っとるがな!!


「あーあーあーあー……俺の分どーしてくれんだよ」


 スープしか飲んでないんですけどぉ!

 しかも、一口だけ!


「???」

「……いや、わかってやってるだろ?!」


 ないって言ってんの!!

 全部、YOUが食べたの!!……なけなしの食料をぉ──!


 はぁ……。


 ダメだ。腹減ってイライラしてきた──子供相手に大人げないな、我ながら。


「もういいから、とりあえず一回座れ」

「んー」


 んー。じゃねーよ、態度悪いなーもー。


 ペタンと女の子座りしたダークエルフの少女の正面に、どっかり座って見下ろす藤堂。


「おほん」

「……?」


 じー。


(うっ……)


 ん、なんか、めっちゃ気まずい。

 だって、この子まっすぐ見上げてくるんだもん。


 曇りなき眼でまっすぐと──。

 その澄んだ瞳には一遍の濁りもないせいで、なんか逆に藤堂さんが居心地悪く感じるくらいだ。


 ……で、でも、聞くべきところは聞かないとわからない。


「あ、あー……。君の名前は? あ、俺は藤堂。藤堂誠」

「ドードー?」


 ……藤堂な。

 ドードー言うたら絶命した鳥類になるやろがい!


「ドードー!」

「藤堂だっつってんだろ!」


「ト、トードー?」

「そーそー。若干発音が気になるけど、もうそれでいいわ」


 で、


「お前……君の名は?」

「???」


 ずるっ!


「知らんのかい!!」

「こくり」


 コクリは返事じゃねーよ!


「……え? まさか、名前知らんの? ほ、他に知ってることは──?」

「???」


 グー。


「つまり、なんも知らんのかーい!」


 ……どうやら、もしかしてとは思ったが、記憶喪失らしい。


「腹は減ったー」

「それはわかったから……!」


 あーもー。

 どうやら、藤堂は道連れを得たものの、結局この荒野で行く先を知らないのは変わらないようである──。




※ ※ ※




 ちゅんちゅん、ちゅん──。



「ん?」


 陽光が顔に当たり、意識が覚醒する藤堂。

 小さな鳥の声は、どうやら外から響いているらしい──…………外?


 ガンッ!


「いっだぁ……!」


 一瞬、自分がどこにいるか分からなかった藤堂であったが、鉄とオイルの匂いに一気に正気を取り戻す。

 どうやらここはシャーマン戦車の中らしい。


「あーそうか。昨日はあのまま寝たんだっけ」


 ぐー。


 名も知らぬ少女に飯を全部食われて、しょんぼりしたまま残ったワインをちびちび飲みながら眠りにおち──……。


「……ぐー?」


 近くでなる異音に目を向ければ、藤堂の腹の上で丸くなって「ぐーぐー」寝ているダークエルフの少女。


 見た目はチョコ色の肌一触。

 つまりは、なぜかボロが脱げてあられもない姿──……って、


「ちょっとぉぉぉおお!!」


 何してんのぉぉお?!

 いや、ナニしてんのぉぉ?!


「え? 俺?」


 俺なの?! ナニしちゃった?!

 俺がやったの?! ヤッた?!


 いやヤッテ……ないよね?!


 え? 男の人呼んだほうがいい案件──?!


「んー?」


 しょぼしょぼ、


「ごはん?」

「……ねーよ!!」


 全部、昨日君が食ったでしょうが!!


「つーか、服着ろ、服!」

「んー。暑い」


 暑くねーよ!

 つーか、こっちが暑いわ! 人を布団代わりにしてからにぃ!


 目をしょぼしょぼさせて、車内でグチャっとなったボロボロの服をスポンと羽織る少女。

 どうやら、寝るときは裸族らしいけど、マジでやめて──……心臓に悪いし、町中だと事案になるから。


「ごは──」

「だから、ないっての!」


 はー……もう!


 昨日の繰り返しに頭が痛くなる藤堂。

 つーか、マジでヤバい。

 わずかな食料も少女に食われて、今は戦車以外に何も残ってないのだ。


「くっそー」


 いっそこのガキんちょ食うか?

 ワインで煮れば、案外うまいかも──。


「……ん?」


 空腹が限界に来て、よからぬことを考えていた藤堂であったが、戦車の中を見渡して新たな発見をする。

 うすぼんやりとした明かりの中に浮かんだのは戦車の様々な備品。


 いくつかの木箱に、

 砲弾、銃弾、工具に赤十字のついた救急箱、そして乗員用らしき護身武器(・・・・)──さらには、


 ……ッ!


「こ、これってもしかして……」


 夜のウチは暗くて気づかなかったが、まさかあれは──!


「……ちょ! どいて!」

「ごはん!」

 

 ちげーよ!

 ……いや、ちがくないけど!


 天然ボケ少女を押しのけると、彼女が椅子替わりに座っていた木箱を持ちあげる藤堂。

 かなりの重量だが、それだけに大量の物資が詰まっているのが分かる。


「え~っとなになに、(アール)(エー)(ティ)……」



  ──RATION,TYPE C

    6MEAL(18Cans)

    PACKED BY Libby

    U.S.ARMY

    QUARTERMASTER CORPS

    NET WT.15LBS ──



 RATION……?

 レーション:タイプC……──あれ、どっかで聞いたような?


「ッ!」


 あああ!

 そうだ!!


「こ、これ、レーションじゃん!!」


 そう。

 その木箱に刻まれた刻印は、米軍の携帯食料であることを示す文字群であった。


 いわゆるRATION TYPE:C──つまり『Cレーション』だ。

 それは、不味いことで有名な「MRE(エムアールイー)(米軍レーション)」よりも以前に開発された軍用携帯食料のことである。


「れーしょん?」

「おうよ! レーションだよ、レーション! つまり飯だよ、飯!!」


「めしー!?」


 その単語に目をキラキラ輝かせる少女。

 って、なんかむかつくなー!


「なんでもらえる前提なんだよ……」


 そりゃやるけどさー。




 藤堂さんとダークエルフの少女──思いがけず大量の糧食GETだぜ!!




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