第60話「皆と野営」
ゴンゴンゴンッ!!
「ッカー! 気持ちよかったー!」
「いやー、まさか野営で湯浴びができるとはね」
あれこと、野戦用シャワーユニットを使った女子二人は上機嫌だ。
「ホントホント! 最初、こんなクエスト受けるの嫌だったけど、これならいいかなー。あ、覗いてないでしょうね!」
上機嫌になったかと思えば、キッ! と男二人を睨みつけるアマンダちゃん。
「ははっ、これでも聖職者なんですけどねー」
「つーか、見るほどねーだろうがおめーはよー」
カミラならともかく──……いだ!
「だれが絶壁か!」
「いや、言ってないわ! ったく──ほれ、ミールこっちゃこい」
雑に髪を拭いただけのミールちゃんを呼び寄せタオルで拭いてやる。
……女の子なんだから、もうちょい気ぃつかえよな──ったく。
「うわー。お父さんみたい」
「だれがお父さんか」
アマンダのドン引きした目を睨み返す藤堂。
お父さんじゃなくて、保護者!!
……まぁ、保護いらないくらいこの子強いけど。
「ほい。終わり──そんじゃ俺らも入るか」
「あ、そうですね。いただきます」
そのあとは、ロベルトとさっさとシャワーを浴びて、ささっと服を着替える。
冒険者3人組は、着替えがほぼないのか来たきり雀のようだが、藤堂さんとミールちゃんはちゃっかり軍用シャツに着替えてサッパリした。
「そんじゃ、そろそろ飯にすっか」
「はーい。あー……誰かさんのせいで町でに入れないのが痛いなー」
携行食を取り出し不満顔のアマンダちゃん。
……誰かって誰だ?
「アンタだ。アンタ──だけど、アマンダ我慢しな。その分、金払いはいいんだから」
「わかってますぅ。……あ、ロベルト、ワインとって」
不味そうに携行食を頬ばるアマンダちゃん。
それをワインで一気に流し込んでいくんだけど……お酒のんでいい年齢なん? 知らんけど──。
「ぷはっ。まっず──……アンタらは食べないの?」
「ん? 食うけど?」
初日だし、思ったより暗くなってきて疲れたから今日は調理の手間がかからないCレーションだ。
飽きてきたとはいえ、しばらく街生活をいていたので、なんとか食えそうだ。
「Cレーション?」
「それがご飯ですか?」
アマンダちゃんとロベルトは興味深そうにみてくる。
……そういえば、カミラ以外は知らなかったっけ?
「これがウチの携行食」
「へ、へー」
グツグツグツ。
「い、いい匂いですね」
早速開けた缶を火に充てていた藤堂とミールちゃん。
もちろん、いつも通り、全種コンプのミールちゃんで、藤堂は逆に一種類だけ。
それでもカロリーは十分だし、まぁ、一食なら食えなくもない。
「うまくはないぞ?」
グツグツグツ。
「「ごくっ」」
藤堂のセリフなど聞いてやしないのか、つばを飲み込む二人。
ふむ………………さて、食うか。
「え~っとこれはなんだけ?」
缶の文字を透かし見る藤堂。
これはえっと……。
「……『ミート&ベジタブルシチュ』かー。うげぇ、ハズレだな」
米軍が採用した10種のメニューのミートシリーズのうち一種だ。
中身はビスケットのはいったBユニットのほか、
牛肉、じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、エンドウ豆、少しのセロリと野菜を濃いめのグレイビーソースで味付けしたものがぎっしり入っている。
一見おいしそうに聞こえるメニューである。
だが、実際の所米軍がもっとも忌み嫌ったメニューの一つであり、
別名『ハーク&ベジタブルシチュー』英語表記で『Hawk&Vegetable Stew』なんて呼ばれたりもしている。ちなみにHawkとは『吐く』という意味。つまり吐くほどマズイということだ。
「はぁ……まぁ捨てるわけにもいかないしね」
「ん?」
ため息をつく藤堂を尻目に、まさにハーク&……ミート&ベジタブルシチュ―をもぐもぐ食べるミールちゃん。──実に美味そうに食うなー。
この子の味覚どうなってんだろ。
「しゃーねぇ……」
覚悟をきめて口にすると、うぐ……! しょっぱい!
強烈なしょっぱさが口を襲い、表面に浮いたドロドロの油がこれでもかと吐き気を誘発する。……見た目も最悪。犬の餌にしか見えない。おまけに味はずっと単調──。
「これを開発した奴に食わせてやりてーな」
でも、まぁ……ないよりマシか。
慣れれば多少は食えるし──。
「ん?」
味変として、Bユニットのハードビスケットを砕いて入れていると、じーっと視線を感じる藤堂。
「なんだよ?」
「いや別にぃ」「そ、そうですね。特に何も──」
いや、なんかあるやろが。
「……食いたいみたいだぜ」
「これをか?」
……正気か?
「ちなみにあたしも食いたい」
「……止めはせんぞ」
そうして、じっと視線を感じることに辟易した藤堂は、ため息をつきながらCレーションの余りを取り出した。
え~っと、あまりとはいってもどうせなら同じのを食わせてやろう。
どれだどれだー。
ガラガラガラと、木箱の中のCレーションを漁ると、同じミート&ベジタブルシチュ―を探し出し、くれてやる。
くくく。
食らうがいい、お口の天敵を!!
「わ! いいの?!」
「よ、よろしいのですか?」
「悪いねー」
いいともいいとも。
くっくっく。
「あ、あっためたほうがいいぞ。そのままでも食えるけど──」
さすがに冷えたままだと油で腹を壊しかねんのでさすがにアドバイス。
「おう。悪いな──火ぃ、かりるぜ」
どーぞどーぞ。
火おこししたのは、藤堂だけど、薪を集めたのはカミラたちだ。
ちなみに、ライターで点火したら、腰を抜かさんばかりにアマンダに驚かれた。
「僕も僕もー。あれ、これどうやって開けるの?」
「かち割りましょうか?」
わー!
待て待て待て!
ロベルト君はメイスを置け!
今にも缶詰めがけてメイスを振り下ろさんとしたロベルト君を止める藤堂。
ここは、いいのあるから!
缶切りあるから────メキィ!
「はい」
「あ、どうも」
……いや、ミールちゃんや。
缶切り使ってあげてよ。それ君しかできんからな?
あと、今度食べるとき、みんなでメキィ! をして、指骨折する未来しか見えんわ。
「ま、いいや──そっちのシチューは温めて食ってくれ。こっちはお好みで──」
Bユニットのほうがビスケットとかだし、まぁ、わかるだろ。
それよりも、くっくっく! シチューを食ってのけぞるがいいわ──。
「「「了解~! じゃ、いただっきまーす!」」」
いい感じに煮えた缶を、あちちと掴んで、食べる三人。
スプーンで一匙。それをパクリと────くっくっく!
「「「…………もぐもぐ」」」
……そろそろかな?
反応が楽しみで顔を順繰りに眺める藤堂さん。
そして、三人が三人とも、目をくわっ! と見開いた!──くくく!!
「「「…………んーーーーーーーーーーー!」」」
うまい!!
「「「うまーーーーーーい!!!」」」
「え、ええー……」
予想と違った反応。
こぶしを突き上げ、美味いと叫ぶ三人にドンびく藤堂がそこにいた。
……いや、これがうまいとか、この世界の携行食、どんだけなんだよ────。




