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第6話「尋問」


 キュラキュラキュラ……!

   ズルズルズルズル…………。


「ひ、ひぃ! 戻ってきた」


 ぶっ倒した騎士を戦車牽引用のワイヤーで引きずりながら戻ってきた藤堂。

 穴の所まで到着すると、腰を抜かした騎士がまだそこにいた。


 どうやら、腰が抜けただけではないようだ。藤堂が斜面を爆破した時に、破片か何かで足をやられたらしく、身動きできなかったらしい。


 今は応急処置で済ませているようだが、走って逃げることもできない様子。


「……よーう、無事で何よりだな」

「ひっ!」


 ガコンッ!


 ハッチを押し開けがてら、固定していたワイヤーを切り離すと、ボロボロになった騎士を二人、眼前に放り投げてやる。


 どさどさっ!


「な、な、な……こ、殺したのか?!」


 は!

 誰が殺すかよ。


「……殺す価値もねぇわ」


 勢いのままブッ殺してもよかったのだが、

 一端落ち着くとさすがに無抵抗の奴をふっ飛ばすのは、少しばかり抵抗がないでもない。まぁ、今更だけどね。


「んなことより、賭けは残念だったなー」


 生き残るのほうのオッズは、いくらだっつーの。


「ぐ……、き、貴様ぁ!」


 ふっ。コイツ、口の利き方を知らんな。


 気安く話しかける藤堂を睨み上げる騎士。

 その恐怖と怒りに染まった顔には見覚えがある。……たしか、「ゴブリン5体と刺し違える」を賭けた奴だ。

 ってことは、この賭けが初めてじゃないはず。

 つまり、ある程度事情を知っている奴に違いない。


「おい……。生意気な口を利いてんじゃねーぞ」

 ブォォォオン!!

「ひっ!」


 まだ立場が分かっていないらしい騎士に向かってエンジンを空ぶかしして見せる、

 それはまるでドラゴンの咆哮並みの効果があったようで、一瞬にして縮み上がる騎士。


 ……さっきの威勢はどこへやら。


 だが、動かない足でありながら、その目の奥には未だ戦意は失せていないようだ。──まぁ、元気で何より。


「ふんっ。……見ての通り、俺の勝ちだ。賭けなら俺の総取り──ってとこだが、ま、大人しく喋れば見逃してやる。だから素直に喋れ」

「な、なにを──!」


 ドカーン!


「……勝手に口を利けとはいってないぞ」


  しーん。


 何が起こったのか一瞬理解できなかったようだが、

 至近距離に空いた大穴に、何か攻撃されたと気づき唖然とする騎士。


 もちろん、攻撃したのは藤堂だ。

 未だに闘志を隠せていない奴だ、そんな奴相手に油断するはずもなく──ジャキンッ! と重機関銃をしっかり指向するのは忘れていない。


 ちなみに、こいつの名はM2ブローニング重機関銃。

 砲塔上部に備えられた、対空対地に使う大型の機関銃でその口径は50口径──12.7mmだ。


 シャーマンは、車長席からこの凶悪な重機関銃を操作できるので、こういう時には便利だ。


「いいか。こっちの聞きたいことは2つ」


 ・元の世界への帰り方

 ・この穴のこと


「さぁ、知ってることをさっさと──」

「は! いくら脅しても──き、貴様のようなハズレものに」



  ズドドドドドドンッ!!



 しゅうぅぅぅ……。


「ひ、ひぃぃ……」

「いい加減学習しろ。無駄な発言は認めていないぞ」


 今度こそ、至近距離にM2重機関銃を半円状にぶちこんでやると顔面蒼白の騎士。

 連射できるとわかれば、その威力は押して図るべし。もはや小型の大砲と言っていい威力と連射だ。

 銃そのものは知らなくても、魔法がある世界だ。遠距離攻撃の恐ろしさは十分にわかるはず。


 ……実際、騎士は今度こそコクコクと無言で頷いている。


 そうして素直になったところで、確認事項を質問すれば、今度は舌にワックスでも塗ったかのようにペラペラと喋ってくれた。


 なんでも、元の世界への帰り方は誰も知らないということ。


 詳細を知っているのは王族くらいだろうが、聞いた話では過去に勇者として召喚された者も、役目を(まっと)うした後は、王国で平和に暮らしたとかなんとか。


「はっ!! (なぁに)が平和だよ……」


 よくもまぁ言えたもんだ。


(この分だと、本当に帰る方法はないかもな……)


 結局、わかったことは、騎士程度の知識では何もわからないということ。

 帰る手段はおろか、召喚の方法すらよくわからないらしい。


(……まぁ来ることができたんだから、その逆の手段もありそうだけどな)


 とはいえ、それを教えてやる必要はない。

 ここは騎士の口から出る内容は話半分に聞いておこう。……もともと期待はしていないかったしな。


 ……それよりも、この穴の死体についてのほうが重要だ。


「──で、ここの(仏さん)は?」

「そ、それは──」



  かくかくしかじか



 なるほど。

 ……こっちは(なか)ば予想通りだった。


 どうやら、これまでにも召喚した勇者たちのなかでも、異物やハズレものと言われる者はここで処分していたそうだ。

 それも見ての通り、一人二人の話ではない。


 一応、召喚した異物の中には素直に従う者も一定数いたそうだが、

 そういったものも含めて最終的には知識だけ吸い上げたあとはここで処分していたとのこと。


 理由はもちろん情報漏洩の防止だ。

 だから、国内で事態が発覚する可能性を考えて、王国よりはるかかなたの地であるここまで──わざわざ転移魔法陣で連れてくるという念の入れようだ。


 もちろん、他の召喚者たちには内緒で……。


「……つーことは、よほど国内でバレるとまずいってことか」


 すると、王族相手になんらかの脅しには使えるかもしれない。

 だとすると、あとは……。


「──で、ここはどこだ?」

「は?……し、知らねぇよ! う、嘘じゃねぇ! 本当だ! いつもは捨てて帰るだけだったんだ!」


「そんなこと信じるわけねーだろ。どうせ何回もここに来てんだろうが!」

「だ、だから、知らないんだ! アンタも見ただろ? ここに来るときに使った転移につかう魔道具を!」


 ……転移の魔道具?


「あー。そういや、なんか魔法陣みたいなのがあったな?」

「そ、そうだ、。それだ! て、転移魔法は古代魔法の一つで簡単には使えないんだよ!」


 ──なるほど。


 どうやら嘘ではないらしい。

 騎士曰く、転移の魔法陣は、(つい)となる水晶がなければ起動しないとかなんとか。


(そりゃ、情報秘匿にはうってつけなわけだ)


 魔法陣と水晶とやら──。

 その二つがないとここには来れないということか。

 そこまでして、徹底的に処分するかねー……。


「ろくでもない国だとは思っていたが、ここまでやるか──」


 チラリ。


 実際、視線を向けた先──穴の底に散らばる無数の骨の中には、年端も行かない子供のものまで混ざっている。

 ……ランドセルや園児服なんかも見えて気分が悪くなる藤堂。


「子供まで容赦なしかよ……。お前ら、ろくな死に方しねぇぞ」

「へ、へへ……」


 ちっ。


 連中の外道っぷりがなおさら強調された気分だ。

 もはや、王国には嫌悪感しかわいてこない。


 ハズレ召喚者はゴミで、

 当たりの召喚者でも、せいぜい安上がりな人間兵器扱いか。


「おい、クソ野郎ども……」

「ちょ!──こ、これで全部だ! お、俺は下っ端なんだぞ、詳しいことは王様か王妃様に聞いてくれ!」


 ……ふん。


 まぁ、そうだろうさ。そこは本当の話だろう。

 しかし、参ったな……。


 ぶっ殺しに……もとい、直接聞きただし(・・・・・・・)に行きたいのはやまやまだが、転移魔法陣の使い方なんて知らないしな。……こいつらに使わせるのも危険だし──。


「まぁ、いいか。意趣返しはそのうちに──今は、」



 ジロリ。



「な、なんだよ! 話したら、生かして帰してくれんだろ!」

「あぁ、嘘はつかねーよ」


 嘘はな。


「だけど──」


 ……ジャキンッ!!


「ひっ!」


 M2重機関銃を向けると、殺気を込めて睨む藤堂。

 そして、冷たく言い放った──。


「……有り金は全部おいていきな」


 ※ ※ ※


「んなぁ?!」


 ──んなぁ! じゃねーよ、アホ。

 目を丸くしている騎士に容赦なく言い放った藤堂。

 つーか、命があるだけありがたいと思えよ。

 それにこっちはこれから逃亡旅すんだから、金も物資も必要だっつの。

 そういって、ギャーギャーわめく、騎士の身ぐるみを剥ぐと、山積みにさせた。


 ボロボロの鎧に折れた剣。

 あとは、金貨少々に──皮の水筒やら携帯食料程度。


 ……まぁ、量はお察しだ。こいつ等自身、日帰りのつもりだったみたいだしな。


 そうしてこうして、なんとか武装解除し、有り金を巻き上げた今──気が付いた二人を含めすべて、3人で穴を掘らせている。

 もちろん、アッチの意味ではなく、物理的に地面に穴を掘らせているのだ。


 ……理由?

 決まってるだろ・


「ほら。さっさと、埋葬するんだ。全員分だぞ!」

「む、無茶だ! 道具もないんだぞ!」


 知るか!

 母ちゃんに貰った両手があんだろうが! あと折れた剣──!


「そんな殺生な!」

「ひーひー!」

「み、水をくれぇ!」


「いいから、さっさとやれ!」


 泣き言しか言わない3人をドヤして、なんとか作業をさせること数時間。

 ……夕日から夜に代わるギリギリの時間帯──ようやく埋葬が終わった時には、あたりは薄暗くなり始めてた。


 死体の数は多く、負傷した騎士3人だけでは埋葬するのは大変そうだったが、それでも睨みを利かせる藤堂がよほど恐ろしかったのか、黙々と埋葬を続けた奴を最後に蹴りだし、解放してやった。


 もっとも、「こ、こんなところで放置されてどうしろってんだよー!」とか騒いでいたが、知るか。

 未だにギャーギャー騒いでいる騎士たちに向け、重機関銃を威嚇射撃して追い散らしてやった。


「ったく……。そんなところ(・・・・・・)で処刑しようとした連中に言われる筋合いはねーよ」


 ……見逃してやっただけでも、感謝してほしいくらいだ。

 まぁ、殺そうとしてきた相手を生かして帰すなんて『甘い』と言われそうだが──これでも藤堂はつい最近まで日本で平和に暮らしていたのだ。


 無抵抗の者を殺すのはさすがに気が引ける。


 もっとも武器はボロボロ。

 一応折れた剣とか鎧は使い道がなさそうなので返してやったが、転移もできないあんな荒れ地に放置しておいて、どうやって帰るのかまでは知らん。そこまでは責任をとる気もないしな。


「それにしても……」


 ──総計129体……か。


 あの穴のあった場所にむけ手を合わせる藤堂。


 殺しも殺したり。

 ほんと、ろくでもない国だ。


 ゴブリンの巣穴に連れ去られたものを入れれば、実際の犠牲者の数はもっとかもしれないが、今はこれで勘弁してほしい。

 せめてもの慰めとして墓石代わりに、木の十字を立て、回収した遺品を飾る。


 ……まぁ、ついでと言っては何だが、使えそうなものは少しだけ回収させてもらった。


 警官の拳銃とか特殊警棒なんかだな。

 他にも色々。


 物入れがなかったので、騎士から召し上げら道具袋に小物をいれていく。


 ライター、鉛筆、その他もろもろだ。

 ほとんどが朽ちていたし、ガラクタばかりだったうえ、すべてに遺体が絡まっていたので、気持ちのいいものではない。


 だが──ないよりはましだ。

 なにせ、藤堂はほぼ着のみ着のままでこの世界に召喚されたのだから。


「しかし、参ったな……」


 一人になって途方に暮れる藤堂。


 騎士どもを追い散らしたはいいが、連中も、ここの詳しい場所は知らないと言っていた。


 その言葉を信用するかどうかは別にして、

「いや、どうしたもんか……あいつらのセリフじゃないけど、こんなところでどうしろってんだよ」


 ガシガシ。


 なろう小説なら、すぐに町なり人なり見つかるんだろうけど、ここは荒野だ。……うーむ。


「これっぽっちじゃすぐに干上がるな……」


 騎士から奪ったのは、皮の水筒に、この世界の携帯食料だ。

 これでは戦車があっても、いずれ限界がくる。……なにより見るからに不味そうだ……。


「……ん? あれは──」


 途方に暮れていた藤堂。

 しかし、その視線の先にポツンと小さな馬車が目についた。


「あー。そういえば一台残ってたな」


 あれは、藤堂の乗ってきた馬車に牽引されていたトレーラーだ。

 あれだけでは馬がいないので動かしようもないけど。


「もしかして、こっちに物資があるのかも?」


 そういえば、名目上は藤堂を隔離された村に送るとかいう名目だったな。

 誤魔化すためにもなにか物を積んでいる可能性は十分に──。



 ガチャ。


「うっ!」


 むわっ……。

 無造作に開けた瞬間漂う悪臭に、思わず口元を抑える藤堂。


「こ、これは──!」


 薄暗い中を覗き込むと、藤堂は硬直した──。

 ……そして、後悔した。


「お、おいおい……マジかよ」


 そこにあった(・・・)──いや、いた(・・)のは、無数の小さな躯と大きな水晶が一つだけだった。

 食料は……なにもない。


「ア、アイツ等なんのつもりだ……」


 小さなトレーラーには4体の子供の死体が無造作に転がっていた。


「これって──エルフか? それに獣人??」

 どれもこれも襤褸(ボロ)を纏っており、この世界の子供のようだ。


「……うぅっ」


 ッ!


「い、生きてる?!」


 横たわる死体──いや、浅黒い肌をした笹耳の少女がピクリと動いたように見えた。

 ……どうやらまだ息があるらしい!


「お、おい! おい、大丈夫か?!」


 思わず駆け寄る藤堂。

 垢と糞尿の匂いが鼻を衝くが、構わず抱き起して頬を軽くたたく。


「……」


 しかし、最初に呻いたきり一言も発しない少女。

 念のため、他の3人の脈をみるも……既にこと切れていた。どうやら生き残りはこの子だけらしい。


「くそ! アイツ等、なんて真似を!」


 何が知ってることは全部話しただ。

 これのこと黙っていやがったな!!


 逃げた騎士を思い出し地団駄を踏む藤堂。

 なぜ彼女らが死体となってここにいるのか知らないが、その答えを知っている騎士はとっくに地平の彼方だ。


 くっそー。

 追いかけて、もう一度、捕まえるか?


「でも、この子をこのままおいておくわけにはいかないしな……」

 それに……。


 じゃらりと鳴る金属音。


「鎖付き……? これって、奴隷とか囚人とか──そーいうのか?」


 子供たちの(むくろ)には、鎖が結ばれており、水晶を置いた台座に繋がっていた。

 もちろん、息のある少女も同様だ。


 ……なんだか知らんが、ろくでもないことに巻き込まれたことだけは間違いないらしい。


「くそっ。ほんとうにろくでもない国だな!」


 何のために死体だか検討もつかないが、あの国が最低の場所だとという確信だけはより深まったのであった。


 そうして、なんとか彼女を開放した藤堂であったが、

 このわけもわからぬ世界で、今度は見知らぬ少女を一人抱え込むことになり──さらに途方に暮れるのであった……。

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