第58話「次の街へ」
「トウドウ殿ぉぉ!」
あ、思い出した。
「い、いやぁ! ゴーズさん、どーもどーも!」
「はっはっはっ。その様子だとお見送りにいくというのを忘れてましたね?」
ぎく。
「ま、まっさかー。お世話になったゴーズさんを忘れるわけないじゃないですか。はい、これ当面の納品」
あっぶね。
すっかり忘れてたわ。
宿を出るときも、支配人にゴーズさんによろしくって言われてたのになー。あはは。
とっさにアイテムBOX化していたステータスからDレーションなんかを取り出す藤堂。
もちろん、納品分ではなく、ミールちゃんのオヤツだ。
「おぉ! これはありがとうございます。しかと受け取りました──お支払いは……」
「あ、約束通り後日で結構です。手形だけください」
納品のチョコやらなんやらが結構な量になったので、商業ギルドで流通する手形を貰う手はずになっていたのだ。
実際、じゃらじゃらと金貨で貰っても困る。
「そうですか。それは助かります──では、こちらを」
蝋院つきに白紙の羊皮紙を貰い、サインを確かめる。
……ん。
問題なし。
「それで、こちらが新しいメンバーですな?」
「えぇ、俺も今日初めて聞きましたけどね──例のクエストが終わるまでの付き合いになりそうです」
「あぁ、それはそれは──」
この場で挨拶を済ませるゴーズさんと新メンバーを見つつ、
ちゃんとお別れできてほっとする。
危ないところであった……。
「それで、もう出発されますか?」
「はい。準備は終わりましたし──彼らへの説明は道々すませます」
「そうですか、それは残念です……。ですが、必ずまたお会いしましょう──私もこれから支店を視察がてら回らせてもらいますので、その際にお合いできればぜひ!」
「えぇ、それはもう! さっそく、次に町でも寄らせてもらいますね!」
ガシリ。
そうして、悪手をして、心ばかりの選別をいただく藤堂。
幅広く商売をしているだけあって、心尽くしは冒険者や旅に商人に合いそうな品ばかりだった。
「高級酒にお高い保存品……ありがとうございます!」
「なんのなんの! 私こそ、あの時トウドウ殿にお会いできなかったらどうなっていたことか!──では、また会い出来る機会を楽しみにしております」
ガシリ。
そうして、男の友情を確かめるように固く握手を交わした藤堂とゴーズさん。
うんうん、藤堂もこの人に出会えてよかった。
具体的にはいい宿を手配してもらえたことが一番良かった!
さて、これ以上は出発が遅れるな。
「トウドウ! こっちは準備いいよ」
「準備いーよー!」
砲塔上のカミラとミールが手を振っている。
オッケイオッケイ!
頃合いだな。
最後にもう一度ゴーズさんと握手を交わした藤堂は慣れた体裁きでヒラリとシャーマンにまたがると言った。
「総員、マイク装着!」
カチャ!
慣れた手つきにミールと、たどたどしい手つきにカミラたち。
彼女らの頭には、『補給』を購入した新品のヘッドセットがのっていた。
あーあー、テステス!
「マイク導通試験、送れ」
『こっちは聞こえるよー』
ミールのサムズアップ。
いいね。どうやら導通試験は問題なしだな。
それでは、いくか!
思いがけず長居してしまったけどビルボアの街から次の街へ────!
「総員、定位につけ!────」
あわわと座席に身を沈める新メンバーを眺めつつ、大きく息を吸う。
この瞬間が戦車乗りの醍醐味だ!
すぅぅ……。
「戦車、前へ!」
──戦車前進!!!
ドルンッ!
キュラキュラキュラキュラキュラキュラ!!
こうして色々あったビルボアの街を抜け、新たなクエストをこなすために藤堂率いるM4シャーマンは進路を街道上に向けるのであった。
※ ※ ※
キュラキュラキュラキュラキュラ!!
街道上を驀進するシャーマン。
今までの道と違って、やー! 走りやすいのなんのって。
「とーころでカミラ」
「なに?」
砲塔から上半身を出し、気持ちよさげに髪を風に流しているカミラが答える。
「いや。言われるまま走ってるけど、当てあんの?」
だいたい、
そもそもが攫われた人の行方が分からないのに、当てがあるとは思えない。
「あー。それな」
「うんそれ」
何がそれか知らんが、俺はマジでなんも知らんぞ。
「まぁ、お偉いさんの事情が色々あるみたいなんだが、当てはあるらしい」
「は?」
当てあんの?!
「そりゃあるさ。捕まえた山賊から聞いた情報も裏付けをとったみたいだし、そもそも色々情報が集まってたみたいだぞ?」
「マジか?」
聞けば、なんでもこのあたりは小国が多数ひしめき合ってる群雄割拠の状態だが、今のところどこも大きな戦争は起こっていなかったらしい。
覇を唱えんとする国もないではないが、戦力が拮抗しすぎていてどこもかしこも膠着状態だったとか──。
「それがここ最近勢力図が大きく変わってきたらしくてな」
ふーん。
そういえばエルフの村でも、なんか言ってたな。
元から人攫いは多かったそうだけど、最近は特にひどいとかなんとか──。
「それで?」
「どうやら、徐々に侵略の度合いを強めている国があるらしい──え~っとどこだったかな」
そういうなり、大きな胸の谷間から地図を出したカミラさん……つーか、どこにいれとんねん!
「あぁ、ここ、ここ!」
なんか、この地図しっとりしてるなー。
バタバタと風を浴びる地図を睨みつける藤堂は、カミラが指し示す地図をみた。
「んー? 縮尺が分からんけど、ここが今いる国?」
「あぁ、ラミーズ王国っていうんだよ」
知らん。
初めて聞いた。
「……ま、まぁ、それはいいんだけど、ほれ──ここ」
カミラが占めるのは遥か東だ。
「海?」
「──にある、列島国家だな」
ほーん。
「そこが急速に力をつけているらしい。……この辺以上に小国家に分裂していたんだけど、わりと最近統一成功したらしいね」
「……で?」
全然繋がらん。
「はぁ。私も詳しくはないよ。……ただ、この国が海路から近隣国家を侵略しているんだと。なんでも、見たこともない魔法兵器で次々に軍をうち破ってるんだとか」
「ふーん?? それと何の関係があるんだ?」
距離感的にはイギリスとドイツくらい離れてない?
いや、縮尺わからんから何とも言えんが……。
「その国が、この辺の国が連合しないように工作を仕掛けてる可能性があるみたいだね」
「……あー」
なんとなくわかった。
つまり、地球でいうようなNATOみたいに連合されると厄介だから、仲たがいしたままにして、徐々に侵略を成功させたいわけか。
「そういうこと。聞いた話じゃ、誘拐はあくまで現地で雇ってる山賊の仕事みたいだね──本当の目的はわけのわからない薬やら贋金なんかをばらまいて、経済をしっちゃかめっちゃにする手法なんじゃないかってさ」
うわ、えぐっ。
薬って絶対、違法なやつだよな……。
それに贋金かー。
しかし、なんとなくわかった。あの時の山賊もエラく装備がいいと思ったけど、野蛮な国家の支援を受けていたのか……。
「そりゃー、たまらんわな。この辺の国は仲良くないから、経済やらなんやらで倒れたら、連合どころか隣国にあっという間に食われちまうわけかー」
贋金なんかが出回ったら貨幣価値も落ちるし、
おちおち軍拡もできないってわけか。
「そういうことだろうね。離れた国だけど、面倒なことしてくれるよ」
うーん。
どっかの国を思い出すなー。
「事情は分かった。……ってことは、誘拐された人を救出にいくっていうのは?」
「その贋金を作ってる場所に、人が集められてる可能性大」
……マジかよ。
「めっちゃ嫌な話聞いたわ」
「多分だけどね。ギルドやらウチの国の見立てでは、誘拐した人々が強制的に贋金作りに関与させられてるとみているね──。貨幣の偽造には魔力がいるからさ」
あ、そうなん?
──なんでもこの世界の貨幣には偽造防止のために、魔法プロテクトが掛けられているらしい。
偽造自体は不可能ではないが、魔力をかなり消耗するため、一般人にはほぼ不可能なんだとか────……あぁ、そういうことか。
「それでエルフ……」
「だな。……あとは、多少なりとも魔法の使える冒険者が狙われたのも十中八九それ」
真っ黒やん。
「……で、目的地は?」
「ここ。エルストリ皇国のドワーフ鉱山だね」
地図の先にあったのは件の海洋国家と海を挟んだ隣国だ。そしてとっくに侵略されているんだそうだ。
「ドワーフ。エルフ……。あー、贋金工場か」
「そういうこと」
そりゃ、この国のお偉いさんも怒るわ。
そして、手を出そうにも国を跨いでいるから直接なにもできないと──。
「近隣の国も手をこまねいているわけじゃないだろうしね。情報を掴んでいる国だって他にあるだろうし」
「じゃーなんでほっとくんだ?」
場所まで分かってるならさっさと潰せばええやん。
「ドワーフは強いよ? もっとも、占領されている以上、どこまで協力しているかしらないけどね」
「いや、負けとるやん」
占領されとるやん。
「知らないよ。まぁ、近隣国家のことはともかく、ウチの国としてはさっさと贋金工場を潰してほしんだろうさ」
「そりゃわかるけど、できるかなー」
まぁ、やらないと前科つくらしいけど。
「はぁ、まぁわかった。できるだけやるさ」
「だな。アタシも協力するからさー」
うーん。
どう考えても冒険者の仕事の範疇を超えている気がする。
つーか、場所わかったならさっさと潰せや。




