第56話「両替の仕方」
「らっしゃ、らっしゃーい!」
「お肉の串焼きだよー。色々あるよー!」
じゅわぁっぁああ!!
「「おおー」」
宿から離れて少し歩くと、露店街が立ち並んでいた。
それは昼間は見かけなかったものだが、どうやら朝や夕方の時間帯になって客を求めて、開店するらしい。
そして、それを目当てにするのは、衛兵隊やら、冒険者多数。
……辺境の街なので、冒険者が多いと聞いたが、独身者も多いのだろう。
そういった連中向けらしい。
そして、なぜか──時々、その冒険者連中からビミョーな視線を向けられつつも、完全に無視して露店をめぐる藤堂たち。
ちなみに、ミールちゃんは露店のメニューを片っ端から食べている。
「これー」
「はいはい」
次はなんか怪しい形の魚を挟んだパイのようなもの。
うまそうには見えないけど、食べるのミールちゃんだしね。
「いくら?」
「まいど、銅貨3枚にやりやす!」
安いのか高いのか知らんけど、今は懐がホクホクだ。
遠慮せずに買ってやると、ほぼ一口で食べて幸せそうなミールちゃん。
「つぎ、あれー」
「はいはい」
そうして、こうして、焼き菓子やら、得体のしれない肉串やら、焼き鳥やら──もう、どんだけ食うねんとばかりに食べる。
合計、金貨3枚くらい食べてる。……金貨換算やで?
「あー。ほら、お小遣いやるから自分で買いな」
そして、さすがに面倒になってきたので、自分で買わせることに。
「キラキラだー」
「金貨だ。それをその辺の両替商にみせて──」
んー。
あ、いたいた。
露店やらの傍には必ず両替商がいる。
金貨は鋳造率やら造幣時期によって金の含有率がまちまちなので、こうして専用の両替商がいるのだ。ちなみに、露店程度のみせに金貨で支払うと嫌な顔をされる。最悪、断られる──なので、両替商は必須なのだが、
「らっしゃい!」
「あー……」
どうしよっかな。
威勢はいいが、見るからに怪しそうな両替商だ。……ま、いいか、社会勉強も兼ねてやるとしますかね。
「ほら、ミール」
トンと背中を押して両替商の前に出す。
ちなみにミールにあげた分は金貨5枚。
子供にはすげー大金だ。もちろん、大人にも大金です。
「へへ、らっしゃい、お父さん!」
誰がお父さんか!
まぁ、そうなんだけどさー。……エルフと人間の親子がいるかよ! といった無粋なツッコミはさておき、その両替商を改めて見る。
う、うむ……。
頭にターバンのようなものをまいて、口元は汚い髭だらけ。
おまけに、お世辞にも似合っているとはいいがたい片眼鏡だ……うっさんくせー。
第一声が「へへ」だったしな。
「トードー?」
「……ん。そいつに『両替替えおねがいします』って言ってみな」
その言葉に、両替商は目を光らせる。
明らかに慣れてないカモだと言った感じだ。しかし、藤堂自身がこういった展開を当然予想しているし、くさってもブラック企業に勤めていた経験もある。そして、ちゃんと、こういった業種について、商業ギルドで軽くレクチャーをうけていた。
「りょ、りょーがえお願いします」
そういって、遠慮がちに金貨を一枚差し出すミールに、ニチャアと子供が逃げ出しような笑みを浮かべて、金貨を取る。
「えっへっへ。お任せを。ウチは最優良店でげすよ」
うそつけ。
「──ふむ、ふむふむ、ふむー」
そういうなり、片眼鏡にさらに眼鏡と取り出し、わざとらしく鑑定開始。
秤を取り出したり、もっともらしいことをしているが、……あれ、適当だろうな。
最後に金貨をガジリ──うわ、きたね! それ、もう絶対いらんからな。
「ふむー。お父さん」
「両替するのは、その子だ」
藤堂は見てるだけ。
「へへ、そうでげしたね──お嬢ちゃん。残念だったね」
「残念ー?」
ミールが首をかしげて藤堂を見る。
「……」
「これは、悪~~~い金貨だ。むかーしむかし、どこかの悪い王様が混ぜ物をした、質の悪~~~~~~い金貨なんだよ?」
「悪いのー?」
よくわかっていないミールちゃん。
ちなみに、この街の両替商の換金レートは、金貨1枚で銀貨8~9枚なんだそうだ。
普通は金貨1枚、銀貨10枚の価値があるが、それは信用のあるギルド等でのことで、こうした露店ではそうもいかないというわけ──……で、コイツはと言えば、
「あぁ、悪いね。悪すぎて、断ろうと思ったけど、お嬢ちゃんが可愛いからね。……うん、銀貨3枚プレゼントしてあげよう」
はい、ボッタくりー。
ちらりと、藤堂を窺うも何も言わないのを確信して「へへへ」と口が歪んでいる。
つーか、ぼりすぎ。せいぜい銀貨6枚程度かなーと思ったわ。
だいたい、それでもボッタくりだが、この金貨は商人ギルドで貰った正真正銘ギルドの認可を得ている金貨だ。
質が悪いわけがない。
「トードー、銀貨3枚だってー」
「へへ。どうしやす? ウチ以外だとこれ以上は──」
なわけねーだろ、ボケ。
「んー。ミールはどう思う? そのお金で、バールを買い換えられるかなー?」
「バールぅ? んー」
ひょい!
「ひっ!」
「んー…………銀貨3枚?」
護身用(?)に、背負わせていた大型バールをすらりと天にかかげるミールちゃん。首を傾げてクリクリ眼。
それを目の当たりにした両替商は、口の中で悲鳴を漏らす。
……ミールをただの可愛いエルフだと思っていたようだが、どっこいそうは問屋が卸さない。
この子は魔族らしいからな。
強いぞー。
「どうだ、ミール。 お気に入りのこの重~~~~~~くて堅~~~~~~~~~いバールを銀貨3枚で買い換えられるなら、それでいいと思うぞー」
「えー。でも、金貨悪~~~~~いって言われたし──銀貨3枚もあれば行けると思うー」
いけるかよ……!
「そうかそうか。じゃーそうするか? まぁ、ほら、これより悪いバールになったら、その時はね」
ちらり。
「あ、そっか──」
ニコリ!
「ひぇっ!」
「お金返してもらえばいいんだー」
ニコォ♪
それはそれは、屈託のない笑みを浮かべるミールちゃん。
もちろん、こんな露店の怪しい両替商に返金なんてみとめられるはずもないが、ミールは知らない。
そして、両替商も知らない。
ミールちゃんの真意が全然わからな──……。
「げ、げへ! げへへ! ちょ、ちょっと間違ったかな。うん! おやおや! よく見ればこの金貨、磨けばすっごい言い金貨かもしれないでげすね」
ぷっぷ!
唾を吐いて、キュッキュとわざとらしく磨く両替商。……いや、マジでその金貨、もういらんからな。
「お、おぉ! これはすごいぞ! 良く磨けばすごくいいいいいいいいい金貨だ! これなら、銀貨7……」
ニコォ♪
「いや、8,いや──9枚は! こ、これ以上は」
「うん! いいよぉ♪」
満面の笑みで金貨を銀貨9枚に換金するミールなのであった。




