第53話「加入試験」
試験……。
3教科で出されたそれは、結論からいうと超簡単だった。
語学はもちろんのこと(半分、ズルだしね)、計算もアホみたいに簡単だった。
というか、小学校レベルじゃねーかよ……。
いや、まぁ、そんだけあったら簡単な商売には困らないけどさー。
もっと、こう……簿記的なものが出てくるかと身構えたけど、あんがい拍子抜けだわ。
そして、論文については、とりあえず、適当に書いといた。
『お客様は神様ですー』的なこととか、『売り手良し、買い手よし、世間よし』の近江商人的な思想とか、『信用第一、時には損して得取れ──』的なことをつらつらと、時間があまりまくったのでとりあえず知ってる商売チックなことをびっしりと書いてやったわ、けけけ。
しかし、それでも時間あまりまくり──。
質の悪い紙だけど、羊皮紙と違って鉛筆の乗りがよかったこともあるが、それでも一時間かかっていない。
(えー……。これでいいのぉ?)
まだ、二時間くらいあるけど、どうしよう。
なんか他にやることあったり?
ちなみに、見直しは3回した。
「あ、あのー」
「はい? どうしました?……まだ一時間ですよ?」
あ、や。
「え~っと、終わったんですけど、どうしたら」
「……はい?」
いや、「はい?」じゃなくて──。
「これ時間いっぱいまでいなきゃダメな奴です?」
「い、いえ、そういうわけではありませんが──……アナタ、初試験ですよね?」
「……ですね」
「なら、え……あ、全部埋まってる」
「はい」
そして、多分全問正解だぞ?
論文のほうは知らん。
「ま、まさか──! しょ、少々お待ちを」
だだだだ、バターン!
「え?」
いや、え?
いいのか、試験受けてる人放置して──カンニングし放題だぞ?……やらんが。
そうして、呆気に取られているとしばらくして足音が響き、扉が開きメルエムさんが顔を出す。
「──と、トウドウ殿でしたね?」
「は、はぁ」
ツカツカツカ──ぱっ!
「いくら何でも、こんな短時間でできるはずが──……合ってる」
「そりゃ、まぁ」
「ば、バカな……! 普通、一度は落ちる試験ですぞ?」
どんな無能だよ……。
「し、しかも全問正解ですと?!」
「あ、よかった──」
「ま、まだです! こ、これから論文を精査させてもらいますから、少々お待ちを──」
そうして、別室に通されたトウドウは、ゴーズさんと顔を合わせることになった。
「おや、もう終わりましたか?」
「はぁ、まぁ」
どさり。
ゴーズさんの正面に腰掛けると、間髪いれず出されたお茶をひとすすり。
あ、おいしい。
「簡単だったのでは──?」
「まぁ、楽勝でしたね。……論文はちょっと自信ありませんが」
「はは、トウドウどのなら問題ありませんよ。あの論文は常識的な考え方ができるかどうかを測るためのものですし──……それより見ました?」
へ?
なにを?
「ギルドマスターの鉛筆を見る目」
「あ、あー……。そこに食いつくかーと思いましたね」
「当然ですよ! あれほど便利なものを持っていらっしゃるとは──私にも教えてくださいよ」
「やー。俺の発明ってわけじゃありませんし……」
むしろ、鉛筆なんて久しぶりにもったわ。
普通はシャーペンだし。
「それに消しゴムですか? 面白い商品ですね」
「そうですか? 俺の故郷じゃあり触れてますがね」
ありふれ過ぎて、面白グッズまで出とるし──。
「ふふふ。やはり、トウドウ殿は商人になるべきですよ。冒険者だなんてとんでもない」
「──なんだか、ゴーズさんが狙った通りになっちゃいましたね」
あはははは。
「なんのなんの──私は最初からわかってましたよ」
わっはっはっは。
「……まぁ、身分証がわりになるなら、冒険者でも商人でもいいんですけどね──ただ、ほら」
「あぁ、例の仕事ですか?」
そうそう。
やはり、ゴーズさんの耳にも入っていたか。
「そう。あの仕事を引き受ける上で冒険者のほうが都合がいいかな──と思ったんですけどね」
どうせ、山賊とか妙な連中を退治することになるんだし。
それならついでに金が稼げそうな冒険者はちょっと魅力……。
「それなら心配いりませんよ。ギルド間でのクエストの都合もしておりますし、間接的にうけることもできます」
「おぉ、そうなんですね! いいことをききました──」
「しかし、都合よく仕事を押し付けられましたね」
「まぁ、それは──ただ、思うところがあるので、できるところまではやろうと思います」
「いいと思いますよ。トウドウ殿なら安心ですし、なにより貴族経由の仕事だ──懲罰的なものだとしても、完遂すれば覚えがよくなりますし、なによりギルドの評価があがります。それも商人と冒険者両方のね」
ふーん。
そういうもんか。
正直名声はどうでもいいんだけど、商人ギルドの評価が高くなれば色々と都合がよさそうだ。
商人ギルドは、商売の度に一部上納の義務があるが、ランクが上がるにつれその上納額が減るシステムなのだ。
弱者ほど搾取されるシステムにも見えるが、新人が商人ギルドの名を借りて商売できるだけで、野良の商人よりも遥かに信用があるのだから、その代金と思えば決して高くはないんだとか。
そんなことをゴーズさんと話ていると、コンコンッ。
「お、お待たせしました」
額に汗をしたメルエムさんが入ってきた。
そして、開口一番──トウドウの手を取ると言った。
「いやー! 驚いた! 試験は全問正解。そして論文は斬新な考えが記載されており感銘をうけました!」
「あ、はぁ……」
適当書いただけだけどね。
「はい! それではこれをもって、商人ギルドに加入と相成りました! どうぞ、これが認識票です」
ちゃり。
木製の小さな認識票は、冒険者ギルドのそれに酷似していた。
ただし、記載されている情報はずっと多いし、なにより、作りが精巧だ。
「ふふふ。そう見えて、魔道処理が施されておりましてな──簡単には偽造できない仕組みです」
「へー」
確かに安っぽい感じはしない。
なんというか、工芸品みたい。
「さて、早速ですが、商売の話といきませんか?」
「え? いきなり?」
ズイ!
そう言って身をのりだすメルエムさん。なぜか、ゴーズさんも一緒にズイイ……!
「それなら私も一枚かませてもらいますぞ。……実はこの瞬間を何より待っていたのは私ですからな──はっはっは」
「ほほ。ゴーズ氏の推薦されるだけのことはあります。……まずは先ほどの鉛筆ですが、」
「まぁまぁ、まずは私からですぞ──! 私はコーラと、そう、あの金属の食品を!」
ずい!
ずいいい!
「金属の食品?! なんですかそれは! ちょ、ちょっと詳しく話を!」
「いやいや、あれは私が先に目をつけましてね、ふふふ。まぁ、ギルドマスターが私を優先してくれれば、お話を通すことも吝かではありませんぞぉ」
ふっふっふ。
ほっほっほ。
「主もわるよのぉ、ゴーズ屋」
「ふっふっふ。おギルドマスター様ほどではございませんよぉ」
ふっふっふ。
ほっほっほ。
「…………いや。俺なんもいってないけど──」
こうして、虎視眈々と商売の機会を狙っていたゴーズさんと、さっそく目をつけたメルエムさんに小一時間は問い詰められることになったのであった。




