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第5話「その名はシャーマン」

 M4シャーマン中戦車──。


 これは第二次世界大戦中に開発された、アメリカ合衆国が開発・生産した中戦車で、当時の連合国で広く使われた主力の戦車である。

 そのコンセプトはシンプルかつ信頼せいの高い設計と、大量生産に向いた構造を主としており、のちに派生型を含め大戦の全期間を通して数万両が生産された。


 その装備は先に述べた通り、絶大な威力をもつ75mm戦車砲と、7,62mm機関銃を二挺。

 そして、対空対地用途に使用可能な12.7mmM2ブローニング重機関銃を装備している。

 またその速度は最大40km/hに達しており、非常に優秀な戦車であったとされる。


 ちなみに、シャーマンの由来は、南北戦争時の北軍の将軍円ウィリアム・T・シャーマンからきており、決して祈祷師のシャーマンではない…………。


「……いやいや──」

 ナ、ナレーションで説明してくれたのはありがたいんだけどさー……。

「シャーマンはシャーマンでも、」


 そっち(・・・)のシャーマンかよ!!!


 ……いや、ダジャレやん?!


 誰にともなくツッコミを入れざるを得ない藤堂の目の前に出現したのは、まぎれもなくM4シャーマン中戦車であった。


 ……しかも完全武装で、エンジン全開!

 アイドリング状態で準備万端の戦車だった!!


「いや、戦車やん!」

 まごうことなき戦車やん!!

「『祈祷師』関係ねーじゃん!──あのアホ神官長が!」


 なーにがハズレジョブだ!

 なーにが異教の神職だ!


 ちゃんと記録しとけ!!

 こんなん無敵やん!!


 憤り、驚愕する藤堂であったが、冷静になって考えれば、これは千載一遇のチャンスだった。

 否。……すでに、満身創痍の藤堂にとって、このシャーマンは、まさに神器──神の器だ!


 だったら、(すが)るしかない。

 でたらめな状況でも、これはまぎれもなく藤堂自身のジョブなのだから──!


「……ッ!」


 四の五の考えるな!

 今は生き残ることだけど────小難しいことはあとだ!!


 その一心で、一気に戦車の腹の下に潜り込む藤堂。

 そこには果たして、あった(・・・)


(底面ハッチ……! これだ!)


 ガコンッ!

 重々しい音とともに、ハッチを押し上げれば、そこは鉄とオイルが香る近代兵器の腹の中であった。

 しかし、不思議なことに内部に入ればなぜか手に取るように構造が分かる。初めて入ったはずなのに、まるで、勝手知ったる部屋のように、手に取るようにわかるのだ。


  戦車の装備、

  戦車の性能、

  戦車の気分すら──!


 スキルLv1『召喚』がもたらす、シャーマンの性能(・・・・・・・・)が頭に流れ込んでくるのだ。


「は、はは……。なるほど。これがジョブの力なのか……!」


 ……つまり、これは兵器であって兵器ではない。

 まぎれもなく、藤堂にとっての「神器」。


  『神剣』

  『竜槍』

  『聖杖』


 それらがあるなら、

 4つ目の神器、


「『戦車(M4シャーマン)』だってあるわな!」


 そのまま車長席に腰掛けると、スキルの知識に従い目の前にステータス画面を呼び出した。


戦車ステータス(・・・・・・・)、オープン!」


  ……ブゥゥン!


 すると、

 そこには通常ステータスとは別のウィンドウが現れた。


 武装の装弾数。

 ガソリンメーターらしき残量。

 そして、戦車各部位ごとの耐久値を示した戦車の断面図!


「やっぱりそうか」


 これは戦車ゲームでいうところの『車両ステータス』って奴だろう。


「ってことは、(よう)は戦車ゲームと同じって思えばいいんだな」


 もちろん戦車の操縦は初めてだ。

 だけど、ゲームだと考えれば、意識し、イメージすれば脳裏に浮かんでくるのはゲームのコントローラーだった。


 それを手に掴み、馴染ませる。

 ……すると、自然と戦車の操作方法が分かる気がした。


「なるほど。こりゃいい」


 王城でホスト君が初めて握ったであろう、剣を軽々と掴んでいたシーンを思いだす藤堂。

 つまり、神器とはそういうものなのだろう。


「……だからわかる。動かせる──そして、倒せる!」


 そうだ、倒す。


「──倒してやるぞ、テメェらぁぁ!!」


  ウィィィィイイイイン!!


 イメージしたコントローラーで操作すると、重々しい音とともに動く砲塔!


 そして、画面越しに、はっきりと外を視認する。


 ……そこか!


「くたばれ、ゴブリン」


 コントローラー越しに発射ボタンを押すと、ズダダダダッ! と、戦車の前方機銃(M1919A4機関銃)が火を噴くと、その強烈なまでの連射がゴブリンどもを掃き清めていく!


『『『ギギャァァア?!』』』


 うおおお!

 ま、マジで出た!


「はは! す、すげー威力!」

 戦車の副砲でこの威力だ。

「ふ、ふくくく……」


 この力があれば勝てる。

 そして、あの王国をぶん殴ることだってできる!


「はははは! よくもやってくれたなてめーらぁ!」


 血だらけの顔で藤堂は笑う。

 そして、それを皮切りに藤堂の反撃が始まった──。


※ ※ ※


「うぉおお!!」

 死ね死ね死ねぇ!

『『『ぎぃぃい?!』』』


 穴の中でゴブリンを追い回し、機銃で仕留めていく藤堂。


『ぎ! ぎっ!』

『ぎぎゅぁあ!』


 ……命乞いらしき仕草など関係ない。

 これまで散々、ここに落とされてきた人たちもいてきたのだろう。

 それを受け入れたわけもない連中に耳など貸すものか!


「死んでしまえーー!!!」


  ズダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!

   ズダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!


 だから、情けも容赦もなく藤堂は、ゴブリンの群れを血肉に変えていく!


 そして、これでとどめだ!


 主砲用意!

 ──弾種、榴弾装填!


  ガコンッ!


 まるで自動装填のように、75mm戦車砲に爆発する弾──榴弾(・・)が込められる。


 あとは、しっかりと奴等が逃げ込んだ巣穴を照準するだけ──。


「はは! 戦車っていえば、やっぱりコイツだよなー!」


 同軸機関銃も前方機関銃も強力には違いないが、戦車を戦車たらしめるのはやはり主砲だ!


「さー! 吹っ飛べゴブリンども!」


 これでクソ新記録だろ、クソ騎士ども!


「FIREッ!」


 ──バクンッ!


 腹に響く爆音とともに、75mm榴弾がゴブリンの巣穴に飛び込み猛烈に爆発!

 ズドン……ズドドドドン! と、内部を焼き尽くし、大量のゴブリンを撃破したようだ。


    ※ ※ ※ ※ ※

 藤堂 東のレベルが上昇しました(レベルアップ)

   藤堂 東のレベルが上昇しました(レベルアップ)

    藤堂 東のレベルが上昇しました(レベルアップ)

     ・

      ・

    ※ ※ ※ ※ ※


「どうだ! くそゴブリンを、くそ撃破っ」


 相当数のゴブリンを倒したためか、

 またレベルアップしたようだが、それはあとだ!


「そして次は──お前らだ!」


  ギロリッ!


「ひぃっ!」

「な、なんだよ、あれ!」

「ゴ、ゴブリンどもが全滅?! 馬鹿な!」


 穴の上を睨めば騎士どもが茫然としていやがった。

 どうやら、まだわかっていないらしい。この戦車の恐ろしさを!


 ガコン!


「よぉ、聞こえるか?──5体以上倒した時のオッズはいくつだ?」


「ひ!」

「「ひぃぃい!」」


 砲塔のハッチを開けて声を掛けると、今更になって腰を抜かす三人。


「ははっ。散々遊んでくれたなぁー。だから、お礼をしないとなー」


 だから、そこで首を洗って待っていろよ──!

 テメェらにはまだまだ聞きたいことがあるんでな!


 ──主砲(メインガン)装填ローディング


「や、やばい! 逃げろ!」

「ひぃぃい!!」

「ぎゃぁぁああ!」


 主砲の威力を見ていた騎士たちは、その砲口がむいたところで慌てて逃げ出すが、そう簡単に逃がすものか!


「──FIRE!」


 バクンッ!


 次の瞬間、奴等がいた位置に向けて発射すると、大爆発!

「「「ひぎゃあああ!」」」

 ただ、ギリギリでかわすことができたのか、爆炎の向こうでまだ声が聞こえる。

「あ、あわわわ……」

「ば、爆発が爆発した……」

「うぐぐぐ、あ、足が──」


 ……ちっ。外したか。


 まぁ、いい。

 今、穴の縁を狙ったのは、わざとだ。

 本当の狙いはこっち(•••)だ。


 ガラガラガラ……。


「よーし。これでスロープ(・・・・)ができたぞ」


 シャーマン戦車の登坂能力60度まで、つまりだいたい31%勾配なら登れるのだ。

 そして、穴の縁を砲撃すればその勾配を作り出せるというわけだ。


「さぁ! いくぞ! シャーマン!」


 エンジン全開!

 ギアチェンジ、ロー!!


「一気に登れぇぇええ!」


  グォォオオン!!


「ひ、ひぃぃい! の、上ってきたぞぉぉ!」

「う、うっそだろぉぉお!!」

「いったいどうやって──」


 どうやってだぁ……?


「フルパワーで、強引に決まってんだろがッ!!」


  ──グォオオオオオオオオオオン……!!

  ズシンッ!


 ついに、土砂をかきわけるようにして、大馬力エンジンにものを言わせて強引に乗り上げるシャーマン!


「ぎゃぁぁああああ! 来たぁぁぁ!」

「「に、逃げろぉおおお!」」


「よぉ。墓場から帰ってきたぜ……!」


 まさか上ってくるとは思っていなかったのか、驚いて馬に飛び乗る騎士たち。


 騎馬の一人はすぐに逃走開始!

 もちろん馬車の御者も、鈍重な馬車をは必死に走らせる!


 しかし、最後の一人は運悪く戦車の出現に驚いた馬が逃走してしまい、その場に残される。


 ヒヒーン! 


「ひぃぃ! そんな! 待ってくれー!」 

 

 だが、怯えた馬がもどってくるはずもない。


「はは! おいていかれちまったな!」

 仲間にも、馬にも。

「ひぇぇえ!」


 キャラキャラキュラ!


 そいつの横に戦車を横付けすると、一人取り残された騎士は、腰を抜かして失禁する。


「た、たたた、たのむ! 俺は命令されただけなんだ!」


 はっ!

 今更……。


「安心しな──お前はあとだ」

「へ?」


 なーに。

 先に逃げた連中もすぐに追いついてやるからよ。


 だから、

「まずはてめぇらだ!」


 戦車(タンク)前へ(マーチ)!!


 グォオオン!

  ──ギュラギュラギュラ!!


 エンジンから黒煙を噴き上げると、そのまま脱兎のごとく逃げ出す騎士を追撃開始!


 すでにかなりの距離をあけて逃げていくが関係あるか!


「戦車相手に、スピード勝負ってか!」


 ──望むところだぜ!


 グンッ!

 ステータス画面越しに全速前進に切り替えるっ!


  戦車(タンク)、|

    前へ《チャージ》!!


最大戦速(マッスクパワー)ッ!」


 ──キュラキュラキュラキュラ!!


 草原とは言え、凹凸の激しい道。

 激しくバウンドする馬車と、その凹凸をもものともしない中戦車!


 もちろん、最初に追いつかれたのは馬車のほうだ──。


「きた! な、なんて速度だ?!」

「……はッ! 当ったり前だ」


 こっちは戦車だぞ!


 駆け足程度の速度しか出せない馬車で逃げ切れるものかよ! しかも重いトレーラーを引いて逃げ切れるわけないだろうが!


「ぎ、ぎゃぁぁああああ!!」


 絶望的な声を上げる御者であったが、それを無視して横から体当たりをかます!


「うぎゃぁぁああ!」


 どっかーん!


 30トン級の戦車に体当たりされて馬車が無事でいられるはずもなく、車体ごとぺちゃんこになり、御者は残った馬に引きずらてて、パンツ一枚になって気絶する。


「よーっし!」


 それを綺麗な笑顔で見送りつつ、最後の一人を追う藤堂。


 さすがに騎馬は少し手を焼くかもしれないが、まぁ、なんとかなるだろう。


「なにせこっちは戦車だからな!」


 エンジン始動!

 最大戦速────突撃(チャージ)! 


 一気呵成に加速すると、先をゆく騎馬にグングン近づいていく!


「ん、んなぁぁあ! なんであんな鉄の塊が早いんだよ?!」

 驚く騎士を見て、背後にピタリとつけるとニヤリと笑う。

「はっ! 残念だったな──シャーマン戦車の最大速力は……」


 ──時速40Kmじゃぁっぁあああああ!


「うぎゃぁっぁああああああああ────あべしっ!」

 そうして、一気に肉薄すると、すれ違い様に騎士にラリアットをブチかまして吹っ飛ばしてやった。


 その時の顔といったら、あははははははは!


「あー……すっきりした」


 こうして、逃げた騎士を全員を捕えることに成功した。






 ──そんじゃ、あとは残り一人か……。

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