第44話「潜伏」
追跡自体はすぐに終わった。
どうやらかなり近くに住んでたらしく、昼休憩に寄っただけかもしれない。
奴の家はいくつも同じタイプ家が並ぶギルド関係者住宅街の中にあった。
その中でも、奴の家は長屋タイプの家が並ぶなか、一際豪華な家だ。
どうやら、冒険者を引退したときの金と、それ以降の裏金でたてたらしい。3階立ての豪華な屋敷だ。そこに例のBランクパーティを護衛がわりにして住んでいるという。
「ふんっ。羨ましくなんかねーぞ」
家なんかただの箱だよ、箱。
「そのわりにジト目ー」
「うっせぇ」
成功者はなんかむかつくの!
しかも汚い金で立てた家とか腹はつわー。
ちなみに、例のBランクとやらは日中は半数ほどしかいないらしい。まぁ連中も仕事があるだろうしね。
今は暇そうにしている奴らが庭に出したガーデンセットで優雅に酒をしばいてやがる。
「けっ、いい身分だぜ」
それを少し離れた位置で双眼鏡で確認しつつ、武装をたしかめておく。
いざ戦闘となったら矢面に出てくるのは連中だ。
あんまりじっくりと住宅街の中で確認できないので、触りだけね。
「戦士1……あれは魔法使いかな? が、ひとり。他は弓持ち1の盗賊っぽいのが1か」
全部で7人構成と聞いている。
たしか、『鉄の顎』といった中二病っぽい名前のパーティだ。
「のこりは3人だけど、リーダー含めていまはいないみたいだな」
ほかに屋敷の警備なんかはいない。
まぁ、ただのギルドマスターごときが警備なんか雇ってたら怪しいわな。そういう意味ではBランクパーティを囲っているのも怪しいけど、そのへんはなんとでも言い訳する自信があるのだろう。
「さて、こんなもんかな。……とりあえず奴の家を確認したところ──ミールちゃん」
「ん?」
「これ以上近づくとマズイから、適当な場所を探す──イイ感じの空屋をさがしてくれ」
「りょー」
ちょっと犯罪すれすれ(?)だけど、ここからは非正規戦だ。
まぁ大目に見てもらおう。
藤堂に指示に従ったミールは目をつぶって耳をぴくぴくさせていたが、ほどなくして、
「トードー」
「お。みつけたか!」
やっぱこういう時に頼りに成るのはミールちゃんの耳と勘だ。
あっと言う間に空き家を特定すると、藤堂を案内してくれた。
「いい家だ。距離もちょうどいい」
近すぎず遠すぎず。
周囲からも目立ちにくい位置だ。
それを確認した藤堂はそこを仮の拠点とすることにし──そのままそこに潜り込む。
鍵?
……マイナスドライバー一本あれば余裕よ余裕。開け方は聞くな。
(注:こじあけた)
「お邪魔しまーす」
しーん
がらんどうの空き家は埃の匂いがするだけで寒々とした光景だ。
当然、人影はない。
「よし──い感じだ」
「なんもないー」
あったら困るわ!
「いいから、しばらく待機するぞ」
「えー」
嫌そうなミールちゃん。
まぁ、正直藤堂も嫌だ。人の空き家に勝手に潜り込んで陽が落ちるまで過ごすなんて。
「ほら、食いもんやるからのんびりしてな」
「は~い……。あ、コーラ」
はいはい。
さっきの約束通りコーラを注文しつつ、藤堂もしばらく休もうと、床に直接寝ころんだ。毛布はあるし、それで充分だろう。
上機嫌でオヤツをバリバリ食べてるミールちゃんを横目で見つつ、マイクを準備していく藤堂。
そして、小さな野戦個人用スコップを手にすると、そのまま夜を待つ──。
マイクを仕掛けるのは人々が寝静まってからだ。
「さて、こっからが長丁場だ──」
生あくびをしながら無為な時間を二人で過ごす。ミールが暇そうだったので、あやとりを教えてやったら目をキラキラさせていたのがかわいかった。うん。娘がいたらこんな感じなのかね──。
とか思いつつも、飯の時間になったら「メキィ」を見せられて目が覚める。
「こんな娘いねーよ……」
そして、そんなこんなで半日が過ぎた──。
「すぴーすぴー」
「ん……?」
腕の重みに目が覚めると、周囲は真っ暗闇であった。
ようやう暗闇に目が慣れたころ、腕の重みの正体に気づく。
「なんかしびれると思ったら──」
「くかー、くかー」
涎をたっぷり零したミールちゃんが、藤堂の腕を思う存分枕にしていた。
……勘弁してくれ。これから作業だぞ。
「おい、起きろ」
「んー? おかわり?」
ねーよ!
寝る前に散々食っただろ!
いつも通り全種類のCレーションを食っていたミールちゃんに呆れつつも、これからの作業手順について打ち合わせる、
「──奴は家にいるか?」
「いると思うー」
まぁそりゃそうか。
「わかった、異常がないか確認しててくれ。その間にパパッっと終わらせる」
そっと潜伏先を出ると、昼間よりも人の気配が濃厚となっている住宅街。
おそらく務め人がいくらか帰ってきているんだろう。
まぁ、とっくに寝静まっているのか、外は静かだった。
「目が慣れててよかったぜ」
ずっと寝ていたせいで、暗闇にも違和感があまりない。
空の灯だけで十分作業はできそうだった。
「このひもみたいなの持っててくれ」
「はーい」
静かに!
「ちょっと、カラカラ音がするけど、奴の屋敷を注視しててくれ──マイクを仕掛けちまう」
「ん」
さて、これから工兵に転職だ。
スコップ片手に収音マイクを手にした藤堂は溝を掘りつつ、マイクから伸びるコードを埋設していく。
コードリールからするするとコードが伸びていくが、これがまた厄介だ。
かりに誰かが通りかかって足でもひっかけられたらことだからな。
そのため、一々薄く地面を掘ってうめていかないといけない。
隠蔽の意味もある。
なので、道路を渡るところだけ掘って埋め──残りは屋敷の壁に這わせておいた。幸いにも雑草やらなんやらでよほど注意しないと見つけられないだろう。
そして、ほどなくしてマイクを奴の屋敷の傍に設置することに成功した。
「……まだ起きてやがるのか?」
「んー。なんか、けっこー人がいるよー」
「マジか?」
結構て何人だ?
……例のBランクパーティかな?
総員7名と聞くし、
そこにギルドマスターが加われば8人だ。
夜は護衛もかねてこの屋敷に寝泊まりさせているとしたら確かに結構な数になるけど──ま、いいか。
「別に戦闘するわけじゃないし、ほっとけ──」
それより早速、機器の調整だ。
いくつかマイクを設置した藤堂はすべてのコードを埋設し終わり、潜伏場所に舞い戻ってきた。
「ほれ。双眼鏡貸すから屋敷の方見ててくれ」
「あーい」
すでに一応は双眼鏡の使い殻を覚えたミールが拙い手つきでピントを合わせてじっと屋敷を見張ってくれることになった。
その姿はわりと様になっているが、どこかコミカルだ。くくく、かわいいぜ。
「ん? なにー」
おっと、気づかれた。
「なんでもない。ほれ、飴なめながらでいいぞ」
こういう時は甘いモンで買収すべし、
「ありがとー」
「おう」
うん、子供は素直が一番だねっと──それよりも、機器をどうにかしないとな。
収音器の受信機の前に座ると、ダイヤルを調整し、感度を確かめていく。
最初は、チュイ~~ン♪ と雑音が入ったが徐々に明瞭になっていく。さらにスケルチを調整することで、音から雑音を取り除いていくのだ。
「…………よっし、1番はオーケー」
仕掛けたマイクは5つ。
東西南北の端と裏口付近にも一か所だ。
入口にも置きたかったがあまりにも目立ちすぎる。
「さて、2番、3番はどうかな──」
コードを抜き差しして、他のマイクの感度も確認。
そして、4番5番にさしかかったところで、
『──だから、言っただろ! 全部だよ全部! 得物がなけりゃ仕事はできねぇ!』
……ん?
レシーバーから聞こえてきたのはギルドマスターとは別の声だった。
しかし、なんだろう。
どこかで聞き覚えがるような……。
スケルチを調整して──。
カチカチ。
『馬鹿をいうな! あれだけの横流ししてやったんだ! 全部なくなるわけねーだろ!』
『だったら自分で見に来いよ! 残骸すらキレイサッパリねーんだよ!』
…………あ、この声。




