第36話「Bランクダンジョン──嘆きの墓場」
「さて、アホな試験官の目もなくなったことだし、思う存分いくか」
「ん」
いつも通りのミールを頼もしく思いつつ、彼女に周辺警戒を頼む。
野性的な勘と耳の良さはこういう時に頼りになる。
「だれもいないよー。モンスター(?)はいっぱい」
「はいはい、見えてるよ」
なるほど。
アンデッド系が沸くとの情報通りだ。
ここはダンジョンでありながら開放的な空間であった。
どういう仕組みか知らないが、空は高く沈みかけている陽もみえる。
まるで逢魔が時のような黄昏の空のもとに、無数の墓場が並ぶ奇妙な空間だ。
そこにうろつく影は決して人ではないのは明白。
腐った死体に、動く白骨死体。
そして、それらを彩る巨大な蝙蝠が空には多数。
「アンデッドゲームだなー」
「あんでっどー?」
死体だよ死体。
動く死体な。
「にしても他の冒険者がいないのは助かるな」
それなら動くものはすべて敵だ。
ミールとの誤射さえ避ければ武器が使いたい放題というわけ。
「シャーマンはやめとくか」
「墓にひっかかるねー」
うむ。
それに、敵を粉々吹っ飛ばしてしまったら、イビルグールとやらはどこにいるかわからなくなってしまう。
「え~っと、青いオーラと黒い瘴気か……。見えるか?」
「いないよー」
だろうな。
どう見ても聞いても雑魚の特徴ではない。
なにかいやがらせの一環なんだろうなーと思いつつも、危機感はない。
最悪、シャーマンを召喚して逃げ込めばいいんだし、こっちにはそれ以上に大量の武器もある。
「ミール。希望の武器は?」
「んー。ばーる?」
うん。
バールね。
……いっとくがバールは武器じゃねーぞ? 工具だぞ、あれ。
「まぁシャーマンのバールは凶悪なまでにデカいから武器にしか見えんが、他のはないか?」
「じゃー、でっかくてつよいのー」
でっかくて強いのかー。
とりあえず補給画面を呼び出して、工具の欄からバールを購入し、ミールに渡す。
くっそ重いそれを軽々と受け取ったミールは、手触りを確かめるためにブンブン振り回している。
うん……。強そう。
「あとでっかい武器かー」
バズーカはちょっと違うな。
迫撃砲もちがうし──……あ、これはどうだろ?
「ミール持ってみてくれ」
「ん」
背中にスチャっとバールをしまうと、両手で受け取ったそれは木と鉄の混合武器。
BARだ。
「びーえーあーる?」
「おう、バーじゃねーぞ。BAR……つまり、ブローニング・オートマチック・ライフルだ」
この単語の響きは銃器としては最高じゃないかと個人的に思う。
そして、召喚したことで流れ込んでくる銃器の知識。これは第一次世界大戦末期に使用された銃器で、その後の第二次世界大戦でも活躍している。
名称こそ自動小銃と名がつくが、運用としてはほぼ軽機関銃として使われていた。
もっとも、軽機関銃としては中途半端な性能であり、そして、自動小銃としても巨大で取り回しが悪いというなんとも収まりが悪い兵器であったと評されることもある。
しかし、アメリカ軍は好んでこの銃を使うものも多かったというし、
これが国内でギャングに奪われた際には、銀行強盗などでも大活躍(?)したともいわれている。
とにかく、でかくて取り回しが悪い兵器なのだが──……。
「ん。ちょうどいい」
「あ、やっぱり?」
うん。ミールなら使いこなせそうだと思った。
「よっし、そんじゃ駆除対象のモンスターを探しがてら、試し打ちといこうか」
「はーい。……あ、トードーは?」
ん?
俺?
「そりゃー。これよ!」
補給画面起動!!
──銃器購入ッ!
ジャキンッ!
「おー! つよそう!」
「だろぉ!」
やっぱゾンビ退治ときたらこれだよな!
ポンプグリップと穴あきバレルが特徴的な、銃剣付きの散弾銃!
すなわち、ショットガンだ!!
第一次世界大戦ではトレンチガンと呼ばれ、そのあまりにも容赦のない攻撃力から、敵国ドイツに批判され、のちに人間に対して使うのを制限されたほどだ。
もっとも、アメリカ軍はそんなの知ったことかと、使いまくったのは言うまでもない。
「こいつは、ウィンチェスターM1897散弾銃。銃剣付きで、強力な12ゲージ弾を発射できるぜ」
「かっこいー!」
ふっふっふ!
だろう──そして、
「そっちはー?」
「よくぞ聞いてくれた!!」
これぞ、もう一つのゾンビガン!
「ギャング御用達の機関銃──トミーガンだ!」
そう。
かの有名な、「俺は許そう。だが、トミーガンが──」で勇名(?)をはせた機関銃と言えばこれだ。
正式名称はM1トンプソンだけどな。トミーガンのほうが通り名としてはいい。
「コイツも強力な弾丸45ACPを毎分6~800発でぶっぱなすことができる、ご機嫌な銃だ」
これとショットガンがあればゾンビなんて物の数でもないわ!
わーっははははは!
「トードーご機嫌~♪」
「あったりまぇよー」
男の子が銃をもって気分が悪いはずがない。
それも思いっきりぶっぱなせるとなればな!
「よーし、いくぞー」
「ぞんび狩りだー!」
わっしょい、わっしょい!
こうしてテンション高めでダンジョンの奥へ向かう二人なのであった。




