第32話「異世界めし交流」
キュラキュラキュラキュラキュラ
ガラガラガラガラ……!
「い、いやー。助かりました。まさかこんなことまでお願いしちゃって」
「なに、気にしないでくれ──こっちも道に迷って大変だったんだ」
そういって振り返る藤堂の視線の先には馬車の御者台に座るゴーズさんがいた。
そして、その背後の馬車のなかには幌から顔をだしたCランク冒険者パーティ『鉄の乙女』の面々が興味深そうにシャーマンを見ていた。
そう。
現在はシャーマンが先頭、そしてゴーズさんの馬車が後ろという状況だ。
なぜそうなっているのかというと──。
ガラララララララララララ──!
今にも壊れそうな音を立てる馬車は、なんとシャーマン戦車に牽引されているのであった。
それというのも、ゴブリンに襲われた際に馬がやられてしまったのだという。
おかげで荷物を放棄するかどうか悩んでいるところ、こうして藤堂が助け船を出したというわけ。……もう、折れんばかりに勢いでゴーズさんにお礼を言われたのは言うまでもない。
「いやーそれにしてもすごい馬力だね!」
車長席の隣……。装填手席とは逆の、砲手用のハッチから顔を出したカミラが目を丸くしている。
「んふー!」
それをドヤ顔で見るのはウチの相棒ミールちゃん。
……いや、なんで君がドヤ顔やねん。
「まぁ、ざっと馬数百頭分のパワーはあるな」
マジで。
「数百頭?! と、とんでもないけど……納得だね」
こうして、納得してしまった案内人を兼ねるカミラさん。
どうやら、シャーマンの偉大さは伝わったらしい。
それよりも、こっちも色々聞きたいことがある。
「ところで、町までどのくらい? 向かってる先はビルボアでいいのか?」
「ん? それも知らないのかい?──町はその通り、ビルボアの街さ。辺境最後の街って言われてるね」
あぁ、ルルもそんな感じのこと言ってたな。
「辺境か。たしかにそうだ」
「ははっ、田舎だっていいたんだろ? だけど、おかげで私ら冒険者は仕事に困らないのさ:
……その仕事中に全滅しそうだったことはとりあえず言及しないでおこう。
「なるほどなー。そんじゃ、そこはデカいよな? ってことは、いきなり冒険者ギルドにいくとまずい?」
主にシャーマンが。
「そりゃなー。この車は、途中で置いてったほうがいいだろう。町がデカいとはいえ、こんな化け物にじみた車が走るとさすがにパニックだ。衛兵も黙っちゃいないだろう」
……ですよねー。
「だけど、冒険者ギルド自体はいつでもウェルカムだと思うぞ? 常に人手不足だからな」
あぁ、
あの体たらくじゃね。
ゴブリンの群れにせん滅されそうになっていた彼らを見て思う。
たまたま、藤堂がいなければ、彼女らもまた、人手不足の原因の一つになっていたことだろう。
「なもんで、むしろ歓迎されるぜ──アンタらなら特にな」
「んー。じゃあ、これも換金したいし、そこにも案内してもらおうかな」
「お安い御用さ──」
こうして、冒険者ギルドに所属するという問題はなんとかなりそうだ。
あとはルルがおススメしていた商人ギルドだが、そっちは後ろでおっかなびっくりついてきているゴーズさんを頼ろう。
恩をかさに着るわけじゃないけど、それくらいはしてくれると思う。
「さて、そろそろ日没が近いけど、どうする?」
「んー。無理すりゃ今日中につけるけど、陽が落ちたら街の門は閉められるからな、今日は野営にしよう」
はいよ。
どうやら、町は近いらしい。野営は面倒だけど、それでも、ようやく文明に近づいたと思えば一泊ぐらいどうってことはない。
こうして、昨日今日あったばかりの面々と野宿をすることになった藤堂一行。
──そして、夜。
「う、うめっぇぇえええ!」
「な、なんじゃこりゃぁぁあああ!」
野営地に響き渡る歓声に既視感を覚える藤堂。
その正体は、あの時城塞で見た光景に焼き増しであった。
もちろん、歓声のもとはあれ──お口の天敵Cレーションだ。
「こっち、トマトの味がする」
「見ろ、肉がゴロゴロだぞ!」
温めた缶詰に舌鼓を打つもの。
味に感動し、涙するもの。
持っていた自前の携帯食を投げ捨て、ビスケットをむさぼるものと様々だ。
もちろん、ウチのミールはいつも通り全種類ガツガツ食べている。
メキィも忘れずに。
そして、
「味もそうですが、この容器────すばらしい出来栄えですね」
ゴーズさんは上品食べながら、藤堂がせっかくなのでと、全員に配ったCレーションを矯めつ眇めつ見ている。
「あぁ、缶詰ですな。……ブリキ製で、封入しておけば開封しない限り数年は持ちます」
まぁ、一説では数年どことか数十年……数百年持つかもしれないそうだ。
「す、数年?! このまま?!」
うんうん。
異世界ではオーパーツだよね。
「はい。ただまぁ……連食するものじゃないですねー」
ちなみに藤堂さんは、冒険者が作った飯を頂戴している。
堅パンを薄いスープに浸しただけのものだが、濃い味付けのCレーションばかり耐えていた身としてはこっちのほうがマシと思えるくらいだ。
「いやいや。これは栄養価も高く、味も素晴らしい……売れますよ」
「売りませんよ」
なにをガッシリ手ぇつかんどんねん。
売るわけないでしょ。……多分。
「なんと惜しい。ならば私のほうで仕入れさせてもらうことも?」
「却下」
文明が壊れるわい。
まぁ、今更かもだけど。
シャーマンで異世界を走り回っている以上、文明もへったくれもないわな。
「うーむ、惜しいですが、仕方ありませんな。恩人に無茶も言えませんし──」
とはいえ、全然諦めてない顔。
まぁ、町についてからそのへんはおいおい考えよう。
「さて、それでは休むとしましょうか──皆さんよかったら使ってください」
そうして、大型テントを発注すると、軍用毛布を配る藤堂なのであった。
恩は売っておいて損はなし。
情けは人の為ならず──ってね。
「なんと上質な毛布に、見たこともない素材の天幕──うむむむむむむむ」
すっかり考え込んでしまったゴーズさんを尻目に、藤堂とミールは二人専用の天幕に入って眠るのであった。
もちろん、用心のため地雷を仕掛けておくのもわすれない。彼らに警告はしたが、助けたし恩人だからと言って裏切られないとは限らないのだ──。
こうして、異世界何日か目の夜は更けていく────。




