第3話「レベルアップ」
ガラガラガラ──。
王国が準備してくれた馬車に揺られること丸一日。
「ま~だかよー」
転送魔法陣を乗り継ぎながら、悠々自適な旅の空にいた藤堂であったが、さすがに暇を持て余していた。
幌をあけて見える景色は、人里を離れすぎてもはやどこにいるかすらわからない。
「なぁ、そろそろ尻が痛いんだけど──」
「……」
しかし、御者を務める騎士に問いかけても無言しか返ってこない。
はぁ……。
「おーい、見てくれー。俺のケツが割れちまったよー」
「……」
(ちぇ、愛想悪いなー)
出発してからずっとこんなあり様だ。
別に愛想よくしてほしいわけでもないけど、これじゃまるで囚人の護送じゃないか。
オマケに道は最悪。
2頭仕立ての馬車は乱暴な運転で激しく揺れているし、さらには荷物用か何かの小型のトレーラーを牽引しているせいで、速度もかなり遅い。
「ったく……。昨夜は、もうちょっと待遇がよかったんだけどなー」
昨日は客人ということで歓迎されていたのだが、今はこのありさまだ。
屈強な騎士3人だけの男くさい旅路。
もっとも、昨日だって例の3人と比べれば、あからさまな待遇の差があった。
一応は個室があてがわれたのだが、冷えた飯に藁布団というぞんざいな扱い。
一方であの3人は、一人一室でメイド付きという。
「……ったく、勝手に召喚しておいて──」
まぁ、無能認定された時点で、いずれ放逐されていたのだから、
こうして王家公認でニート生活を送れることを思えば、同じ扱いを求めるのも贅沢というものだろう。
「とはいえ、こんな扱いだと、向かう先の待遇も期待できないなー……」
チラッ。
幌をあけて、景色を見るふりをして護衛の騎士と御者の装備を確かめる。
「金属鎧に、剣……か」
ありゃ、護衛っつーか、なんつーか……。
(……まぁ監視だよな)
元々きな臭い国だとは思ったけど、ここまであからさまだとなー。
(う~ん……。このまま黙って従って行っても大丈夫かなー?)
いっそ隙を見て逃げるか?
幸いにも馬車には御者一人だ。
彼も重武装だが、無防備な背中を藤堂に見せている。
今なら、行けるかも。
そう考えつつ、藤堂が逡巡していると──。
「ここだ! ぜんたーい、停止!」
「うわ!」
──キキィ!
突然急停止する馬車。
どうやら、悩んでいるうちに目的地に到着したらしい。
例の、藤堂と同じ境遇の者がいるという場所に…………って、あれ?
さぁぁ……。
開け放たれた幌の先からは、冷たい空気が流れ込んでくる。
そして、
──それだけだった……。
「え? なんだここ?………………草原?」
そう。見渡す限りの草原……いや、荒野がそこに広がっている。
「え?……ここなの?」
どうみても村でも町でもない。
無人の野がただただ広がっているだけで──とても、同郷の者がいる街には見えない……。
「えーと……」
意味が分からず振り向くと、御者が告げる。
「降りろ」
「あ、あぁ」
言われるまま馬車から降りたものの、勝手が分からない。ここでどうしろというのか──。
「な、なぁ、本当にここで合ってるのか?」
どう見ても──……。
「あぁ、そうさ。仲間がたくさんいるところに帰りたかったんだろ?……ここがそうさ──」
「へ?…………うがっ」
言っていることの意味が分からず、藤堂が振り返ろうとした矢先、突如──頭部に打撃を受けた藤堂。──痛いと思ったときには、ふわりと体が浮遊感を覚えていた。
そして、次の瞬間、したたかに背中を打ち付け息がつまる。
「ぐぅ……!」
な、何が起こったのかわからない。
あまりの衝撃に目がチカチカとしたが、……どうやら突き落とされたらしいとだけ理解した。
「お、おい。ふ、ふざけんなよ……!」
ぼやける視界の中、ここはかなり大きな穴の底らしいと気づく。
そして、穴の縁からは護衛の騎士達が顔を見せていた。
「まったく、鈍いやつだなー。そこが、お前と同じ境遇の奴等の安住の地さ」
……………………は?
「こ、ここが、安住の地って……」
何の話だ────バキバキっ。
意味がわからず、身じろぎした藤堂の背中の下で何か、嫌~~~な音が響く。
それは一度たりとも聞いた事がないはずなのに、どこかで知っている嫌な音──そう、なにか枯れ木を踏み割ったような音で……。
「ひぃぃぃい!」
は、白骨?!
慌てて体を起こした藤堂の背中の下。
さっき、衝撃を受け止めてくれたものの正体に気づいて全身におぞけが走る!
なんとそこには白骨死体の山があったのだ!
それも、
一つや二つではない──数十……いや、数百にも上る白骨の山が!!
「……ひゃぁぁああ!」
「ぎゃーはは! 見ろ見ろ、いっつもそういう反応するんだよなー」
「そうそう。これが我が国流の帰還方法さ──!」
「それより、ほーら、そろそろ来るぞー! ひひひ、賭けの開始だぜ」
パニックに陥る藤堂を尻目に、穴の淵に陣取り金貨のやり取りを始める騎士達。
「俺は2体かな」
「いーや、0に決まってるさ!」
「ばーか、ここは大穴狙いで5は固いぜ!」
ぎゃははははは!!
なにやら楽しそうな騎士達に助けを求める藤堂であったが、縁に手をかけてもボロボロと崩れるし、底は深く容易には登れそうにない。
しかも、穴底には──無数の白骨に交じって何かが蠢いている……。
『ギギィ……?』
「ひっ!」
そこにいたのは、果たして緑色の肌をした醜悪なモンスターだった。
腰蓑一つ。骨のこん棒を手にした──いわゆるゴブリンだ。
『ゲギャァァア!』
「ひぃぃぃい!」
こちらを見つけたらしいゴブリンがニヤリと顔を歪める。
そしてジリジリと近づいてきた。
「な、なんでこんなところにゴブリンがいるんだよ!」
それにこの骨の山は一体……?!
他の召喚者はどこだよ!
「おいおい。何寝ぼけんてんだよ」
「そうそう。そこに皆いるじゃねーか」
「そうさ。お前のお仲間がなー!」
──ぎゃはははは!
お、お仲間?
皆ここにいるって──。
ジャージ、
どこか中学の制服、
警官のユニフォームを着た、白骨死体……。
藤堂は、骨達が着ている服の残骸を見て気付く。
……ようやく気付く!
「ま。まさ、か……」
『ギィィイイ!!』
しかし、藤堂が何かに気付いたのも束の間、突如飛びかかって来たゴブリンに思わず腰を抜かしてしまう。
「おっしぃ~! 今ので決まるかと思ったのによー」
「へへ。そう簡単にはやられねーよなー」
「そうそう、俺は大穴に掛けてんだから、いきなりやられてもらっちゃ困るぜ」
好き勝手なことを言う連中は、どうもこれが日常茶飯事らしい。
つまり……。
「お、おまえら、まさか! いままでもこうやって?!」
「お、気づいたか? まさに安住の地だろ? 誰にも邪魔されずに静かに過ごせる地さ! まー、最近はゴブリンが餌につられて住みついちまったがなぁぁ!」
「ありがたく思えよー。勇者様方に気づかれないように、こんな遠くまで連れてきてやったんだからよー」
「そうそう、それにうまくすりゃ、元の世界に帰れるんじゃね? 知らんけど──」
「「「ぎゃーっはっはっは!」」」
な、なんてことだ!
これが安住の地?! これが仲間の居場所だって?!
(こ、こいつ等……!)
まさか、これまでもこうやって巻き込まれただけの召喚者を処分してやがったのか!
「はは! あたり~!」
「まぁ、今更気づいたところで遅いけどなー」
ゲラゲラと笑う騎士どもを見て頭に血が上る。
どうやら、続々と現れるゴブリンに藤堂がどれくらいもつかを賭けているらしい。
「く、くそぉッ! やられてたまるか!」
ドカッ!!
無防備に近づいてきた一匹を蹴り飛ばす藤堂。
予想通り雑魚は雑魚だ──。
だけど、素手ではどうにもならない……!
『ゲギャァッァアアア!』
「ひぃ!」
逆に、余計に怒らせたのか、涎をまき散らしながら飛びかかってくるゴブリン!
「くそっ! ど、どこかに武器は──」
しかし都合よく武器なんてあるはずもなく、
そこには死体の山があるだけ──あとは無数の白骨…………あ!
「これだ!」
振り向いた藤堂の目には、警官のそれが目についた。
(警官の死体なら、アレをもっているかも……!)
そして、その死体をまさぐると、果たしてそれはあった!
彼のその手に握りしめられた黒い鉄の塊が!
メリメリメリ……!
「借りるぞ!」
それを骨から引きはがし、狙いたがわず発射した。
パンッ!
『ゲ……ゲゲ?』
ドサリ。
突然の轟音とともに倒れるゴブリンが一体。
……そう。それは銃だ。
日本の警官が腰に差している武器。
ミネベア製M66ニューナンブ!
9mm口径の一昔前の警官の正式装備!
「お! 何だあの武器? やりやがるぞ、あいつ!」
「げー、マジかよ、倒しやがった! くっそ、ハズレかよ~」
「ひゃは! いいぞいいぞ、もっとくるぞー。がんばれー」
驚く騎士たちであったが、それほど以外ではなかったのかすぐに気を取り直し、囃し立てる声をあげる。
すると穴底にある横穴から……ゾロゾロとゴブリンが湧き出てくるではないか!
「な、なろぉ!」
パンッ、パン、パン!!
「舐めんなぁ!」
パぁンッ!
そうして、たちどころに5体のゴブリンの死体を量産した藤堂。
だが、その快進撃は一瞬で終わる。
……カチ、カチ、カチ!
「あ、あれ?」
突然、快調に出ていた拳銃から弾が出なくなったのだ。
「た、弾切れ?!」
慌てて、警官の死体を漁る藤堂であったが、今度こそ逆上したゴブリンにイイ一撃貰い──あえなく反撃に倒れる。
「うがぁ!」
激しい痛みに脳震盪をおこす。
……た、立てない!
「よっしゃー! 5体!! やったぜ!」
「くっそー。なんだよあれ、反則だろー」
「あーあーあー、さっさと死ねよー。あと一体は倒してから死ねー」
ぎゃははは!
僅かな金で人の生死を楽しむ騎士連中。
ろくでもない連中だとは思っていたが……。
「う、うぅ……」
顔面を伝う血に、朦朧とする意識。
「みろー、決まったぜ! 5体でおわりー! さぁ俺の勝ちだぜ、さっさと金貨を寄越しな」
「ちぃ! 運のいいやつだぜ、夜道に気を付けなー」
「おいおい、静かにしろって、今が一番面白いところだぜ──これから喉笛を切り裂かれてドバァァっと、」
奴らが言うや否や、ゴブリンが藤堂に馬乗りになるなり、人骨のナイフを喉にあてて……ドバァ! っと──。
し、死ぬ……!
(殺される──!)
「い、いやだ。死にたくない──…………!!」
藤堂が死を覚悟した、まさのその瞬間、
ぶぅん……!
※ ※ ※ ※ ※
藤堂 東のレベルが上昇しました
※ ※ ※ ※ ※
「……は?」
突如目の前に、レベルアップを告げるステータス画面が出現したのであった──。




