第27話「旅の目的」
「……ふーむ。同郷のものか」
チョコをもぐもぐしているルルに、さっそく質問をぶつけてみた。
「あ、あぁ。日本人だと思う──俺みたいな顔つきの奴を見たことがあるんだろ?」
「うむ。そのことな──さっきも言ったが、荒野で稀に見かけることがあった。じゃが──そのほとんどが躯じゃて。……息のある者もいるにはいたんじゃが、もうとっくに生きておらん──……おい、そう警戒するな。別にお主をどうこうしようという気はない」
「ほ、ほんとうかよ」
──生きてないって時点でドン引きですよ、藤堂さんは!!
それに正直、このところろくな人間にあっていないので半信半疑だ。
この世界の人間はす~ぐ殺そうとしてくるし……。
「じゃから、なんもしとらんっつーのに。──こう見えて我らは高潔なエルフぞ? 子供たちを助けてもらった恩は忘れんよ」
「いや、でも殴ったじゃん……」
つーか、自分らで高潔とかいうなし──。
ごんっ!
「い゛ッ?!」
「茶化すな! ったく。……それに、生きた異世界人をみたのも数百年も前の話よ」
……は?
「す、数百年?!」
え?
いつから召喚してたんだよ、あの国は!
数百年っていうと、えっと……室町時代? 平安だっけ? あ、江戸時代もワンチャン。
「つーか、お前何歳だよ……」
「──レディに年を聞くなバカもの。……とにかく、異世界人について知っているのはそのくらいじゃな。あとは、人族の町でならもっと詳しく聞けると思うが……」
レディって年じゃねーだろ。
つーか、役に立たねーなぁ、もー。
「あ、じゃ──。一番近くの町ってどこ? 俺、人里を探してたんだよ」
「ん? あぁ、近くというと……ビルボアの町というのがあるのー。人族でいうと辺境にあたるんじゃろうが、そこそこ発展しておる」
へー。
じゃ、そこにいこ。
「しかし、行ってどうするんじゃ? まぁ、人族が群れるのは今に始まったことではないが……」
「いや、俺、異世界人っていっただろ? できれば、元の世界に帰りたいんだよ」
あ、そーだ。
「帰る方法って知ってたりしない?」
ぶほっ!
「うわ! 茶ふっかけんなし!!」
「ゲホゲホッ、す、すまんすまん。──じゃ、じゃが、帰る方法って……お主、まさか、元の世界へ帰る方法か?!」
「そ、そうだけど?」
お茶を吹き出したルルの背中を思わずサスサスしながら、そんな驚かんでもと思う。
「む、無茶苦茶いいよるのー。お主の知りたいことは、それ──世の理を破壊するものじゃぞ?」
「はぁ?!」
そんな大げさな……。
「大げさなものか。お主ら異世界人の知識ならわかると思うが、物というのはゼロにはならん」
「……そうなのか?」
そうなのじゃ!
「あー……どう言ったらええかの。……例えば、木を燃やしたらどうなるかわかるか?」
「へ? そりゃ炭になるんじゃね?」
「そうじゃ。あるいは灰かの。……して、それは木が燃えてゼロになったといえるか?」
ん?
「……いや。それはないだろ」
燃えてゼロになるなら、地球はとっくに空っぽだ。
「その通りじゃ──それは、木としてのあり方が変わるだけで、決してゼロにはならん。……燃えた木は炭となり、灰となり、中の水分は湯気に代わったとしてもその本質は変わらん。……わかるか」
「あぁ、そういうことか。……うん、まぁ」
化学の時間だね。うん。
高校化学、超苦手だったけど──。
「それだけ分かれば十分よ。……ならば、逆にゼロから『物』を生み出すことはできるか?
は?
「そんなことできるわ──……いや、まさか」
「うむ。理解が早くて結構。……異世界からの『召喚』とはつまりそういうことじゃ」
え、えぇー……。
言いたいことはわかるんだけど……。
ゼロから物質を生み出すことはできないし、物質を完全にゼロにすることもできない。
木が燃えてなくなって見えても、水蒸気や炭化して形が変わっただけ。
それはわかる……わかるんだけど──。
「つ、つまり──」
「うむ。お主ら異世界人を召喚するということは、ゼロから物を生み出す行為よ。──かの国がどういった方法をとっているか知らんが、おそらくかなりの下法じゃ──ろくな方法ではなかろうて」
おいおい……。
とんでもねー話になってきたぞ。
「ってことは、元の世界に帰る方法は──」
「現時点ではないじゃろうな………」
んなッ──。
「お、おい、大丈夫か?」
「いや、だ、大丈夫……大丈夫だ」
思わず体の力が抜けて立ち上がることもできなくなった藤堂。
覚悟していたとはいえ、改めて言われると来るものがある。
「そ、そうか。力になれんで、すまんの……。あー気休めかもしれんが、」
「え?」
ルルが少し考えこむ仕草をする。
「かの国がどういった方法でお主らを異世界から呼び出したかは知らぬが、技術としては完成しておるのじゃろう。……つまり、ゼロから生み出す方法があるということじゃ」
それは……うん。
そうだろうな。
「……世の理は等価交換よ。必ずカラクリがあるはずじゃ──まずはそれを探ることじゃな」
「等価交換……からくり」
なるほど。
「そういや、俺を召喚した国もなんか言ってたな」
「……あぁ、王国か」
「知ってるのか?!」
「当然じゃ、いつから生きとると思うとる──……ババアではないぞ」
「なんも言ってねーよ」
ふんっ。
「……かつて、あの国が大陸を支配しとったときは、平和なもんじゃったが……──今となっては混乱を引き起こすだけの国になったようじゃなー」
「だろうな」
戦争のために勇者を召喚した国だ。
他国からすれば厄介な国だろうさ。
「ところで、婆さ──ルル。その国のこととか、他にも聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「おうおう。好きなだけ聞くがいい」
そりゃ助かる。
え~っと、
「──ここってどこ?」
「あ?……ルルブナの森じゃが?」
「いや、そうじゃなくて──……あ、これこれ」
一番大事なことを確認する藤堂。
その流れでガサガサっと、
山賊の城塞で見つけた地図を広げる。
「ほーう──このあたりの地図じゃの」
「やっぱりそうか。ここがどのへんかわかるか? その城塞とかの位置関係と──王国の位置が知りたいんだけど」
とりあえず、それだけでもわかればあのクソ王国に殴り込みをかけてやるぜ。
「なにやら物騒な顔をしておるが、森がここじゃの……。あ、一応、秘密じゃぞ?」
「わかってるよ」
エルフは希少種だって言ってたしな。
「で──」
「ふむ。例の山賊の根城は複数に分かれておるようじゃが、話を聞くにおそらくこのあたりじゃな」
そういって、森から指を滑らす長老。
その指が地図の中央付近をさす。……森から結構離れてるな。
ってことは、この地図は意外と狭い範囲しかないのか。
「で──王国じゃが、」
「お!」
それそれ!
期待を胸にルルの指先を見つめていると、
つつー……と、そのしなやかな指が滑っていき、地図の端を差し……さらにそこから外れる。
「……え?」
そして、そのままどんどん、どんどん下がっていき────……。
「お、おいおい。どこまで行く気だよ」
「その地図じゃと縮尺がのー」
いやいや縮尺とかのレベルじゃねーぞ。
「まぁ、だいたいこの辺かのー」
「…………遠っ!!」
え?
地図から離れて長老の家を出て、だいぶ先までテクテク歩いて行った先だぞ?!
驚く藤堂をよそに、部屋に戻ってドッカリ座りながら茶を啜る長老──。
「……そりゃー。大陸の端じゃからのー」
「はあああああ?!」
端?!
た、大陸の端?!
「……あ、橋か」
「いや、端」
へ、へー。
「きょ、距離的には?」
「さてのー。飛竜をつかって三日くらいか? 歩けば、半年はかかるんじゃないかのー?」
ずるぅ!!
「は、半年?!」
うぉーい!!
ど、どんだけ端に飛ばされたんだよ、俺はぁぁああ!
「ははーん。かの国からどうやって異世界人が来るのかと思っておったが──それはおそらく、王国が全盛のころに使っておった転移の術なのじゃろう」
──くっ!
そういや、転移の魔法陣とかいうのを何回も乗り継いでたっけ。
くっそー……あの装置は、そんな距離を一瞬で移動できるのかよ?!
……そりゃ、召喚者を捨てるのに、都合がいいわけだよ!
「まぁ……そう気落ちするな。あの王国も今や落ち目じゃ──放っておいても滅ぶんじゃないかのー」
「それじゃ困るんだよ」
ふむ?
「誰ぞ、思い人でもおるのか?」
思い人??
一瞬、一緒に召喚された3人を思い出すが、すぐにその隣で高説を垂れていた姫の顔に塗りつぶされる。
「あぁ、ある意味そうだな」
「ほう? では、そ奴に会いに──」
おうよ。
会って……再会して──。
「75mm砲弾ブチかましてやんねぇとな!!!」




