第23話「エルフの森」
クァークァークァー!
こかかかかかかか──!
グリフォンの群れから逃れて、小一時間。
エルフの少年少女と時々ダークエルフを載せたシャーマ戦車一行は、森の奥地に向かっていた。
先導はエルフの少年たち。
彼の言うままに、道なりに奥へ進むめば、木々はますます萌え──極色彩の翼をもった鳥が舞う豊かな自然がそこかしこに現れた。
さらには、気味の悪い叫び声を上げる獣がそこかしこに潜み、毒々しい色の羽虫が蔓延る森は想像以上に騒がしい雰囲気であふれていた。
そして、それにも負けず劣らず騒々しい音を立てるシャーマン戦車!
キュラキュラキュラキュラキュラキュラ!
バキバキバキッ、メキィ──!
頼もしい履帯の音とともに木々の破砕音が響き渡る中、
下生や低木は、シャーマン戦車の400馬力のパワーと総重量約30tの鉄に負けて次々にへし折られていく。
──もちろん、それ以上に頑丈な樹もたくさんあるのだが、それらは当然避けて通る。
幸いにも、
子供たちが言っていたように、なんとな~く通れる道があったので、迷うことはなさそうだ。
……ただし、道といってもせいぜいちょっと太めの獣道といった程度。
うーん。
「おーい、ホントにここでいいのか? 結構走ってるぞー?」
「まだー」
はいはい……。
相変わらず戦車の上で思い思いに過ごす少年少女たち。
まぁ、数人はさすがに疲れ切って戦車の座席に座ってスヤスヤと寝てしまったが、一番元気な少年は何が面白いのか、いつもの砲身の上に器用に座って先導していた。
そして、隣の装填手用のハッチにはすっかり定位置になったダークエルフの少女が、「むふー!」といつものどや顔……。
いや。なんやねん、その表情は──……。
「つーか、さっきも「まだー」って言ってたぞ」
「でも、まだー」
はいはい。
わかりましたよっと……。
「戦車、微速前進」
戦車ステータス画面で、シャーマンの速度を落とした藤堂。
まったく、いつまで走ればいいんだか。
……しかも泥濘にはまらないように速度は出せないから、眠たくなるなー。
ふわぁぁぁ……。
誰は憚ることなく大きなアクビ。
最初は圧倒された森の中も、見慣れてしまえば代わり映えのしない景色だ。
グリフォンから見つからないのはいいが、この薄暗さといい、獣の鳴き声といい……シャーマンの単調な戦車のエンジン音と振動といい、
自然と眠気に誘われる……。
──ぐー。
「はっ!」
い、いかんいかん!
一瞬、眠ってたー。
事故ったらどーすんだよ……。
「──って、うぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
戦車、停止ぃぃぃいいいい!!
──ギキィィィイ!!
ほんの一瞬、寝落ちしかけた藤堂であったが、再び目をあけると──なんと、目の前に巨大な倒木があるではないか!
それも、道を完全に覆う形で倒れていたので、あのまま直進していたら正面衝突は免れなかっただろう。
「……あっぶねー」
ドッドッド……!
今更ながら心臓が早鐘をうつ。一気に冷や汗が出て、眠気が吹っ飛んでしまった。
「お、お前らは大丈夫か?」
「うん! 大丈夫ー」
「平気ー」
「寝てたー」
「むふー♪」
うん。
凄いな君ら。
あと、ミールちゃんや。
「むふー♪」は返事じゃねーからな。……なんでドヤ顔しとんねん君は。
「はぁ、それならいい……。しかし、まいったな」
なんだよこの木は──迂回しようにも、どんだけでけーんだこれ。
戦車を完全に停止させると、
地上に降りて、邪魔な倒木を見分する藤堂。
……かなりデカイ。
縄文杉もびっくりな太さの木が、ドデーンと道を塞いでおり、鬱蒼とした森の端から端を覆わんほど。
「くそっ。これじゃ迂回しようにも、これを躱して進むには相当な遠回りになりそうだな」
むー。
めんどくさい。
「んー……。いっそ、ぶっとばすか? 主砲の榴弾でやれば、数発で破壊できそうだしなー」
いや、まてよ。
さすがに至近距離での砲撃は危険か……。
信管が作動しなかったら不発で危険だしなー。う~む。
どうしたものかと思案する藤堂であったが、
「……あ、そーだ!」
ポンッ!
ふと思いついたことがあって、ステータスを呼び出すことに。
「え~っと、たしかここにいいのがあったはず──」
あれでもない。
これでもない──。
たしか、こんな事態にぴったりのものが……。
「──あったあった、これこれ!!」
そう言って『補給』画面を開いて取り出したモノを高らかに掲げる藤堂。
じゃ~ん!
見て驚け、聞いて驚け──これぞまさに!!
「ティーエヌティー爆薬~!」
パ~パラ~パララッパッパー~♪
……ポカーンとした子供たちを置き去りに、
どや顔のまま、ひとりテンション高めに取り出したりますは──補給画面の『工兵機材』の中から購入した、オリーブドラブ色の四角い紙ケースであった。
ちなみに、なかには石鹸のような固形物がつまっている。
「それなにー?」
「チョコー?」
「ほしいー」
うん。チョコじゃねーからな。
食ったら死ぬからな?
昔、似たような話でC4爆弾が食えるという与太話を信じた兵隊が、マジで食って腹壊した話があったくらいだ。
爆薬は食い物じゃありません!
「……つーか、爆薬なの、これは!」
しっしっ!
手ぇ伸ばすな──まったくもー。
「ぶーぶー」
「トードーだけずるいー」
「たーべーるー!」
あーもー!
「ガキは、飴でも舐めとけ!」
……ったく。
ポケットに入っていたCレーションの余りのキャンディをくれてやると「「わ~♪」」と群がった後、たちまち静かになる子供たち。
ミールもちゃっかり3個もゲットして「むふ~♪」と言ったきり、顔をとろけさせている。
「むふー♪ じゃねーよ、ありがとうだろ!」
「「「ありがとー!」」」
はいはい。
いいから、中に入ってろ。
ひとしきり子供たちを追いやった後、脳内に浮かんだ説明を反芻する藤堂。
そう。これは見ての通りの爆薬だ。
ここに来る道中、暇つぶしにステータスを確認していた時に発見したものだった。
「え~っと、何々。……信管と導火線をセットして──ライターで引火」
なるほど。
簡単だ。
同時に補給した工兵セットに入っていたペンチのような器具を使って信管と導火線をセットすると、ソケットを使ってTNTに挿入する。
あとは、導火線を必要分引き延ばせば時限爆弾の完成だ。
(……長さは100センチくらいでいいか?)
10センチで30秒くらいらしい。
なら、5分もあれば、なにかあっても十分に安全距離に退避できるだろう。
「しかしまぁ、こんなのどこで使うんだよと思っていたが……まさかこんなに早く出番があるとはなー」
MPを2ポイント使用してTNTを2個。
さらに2ポイントで、導火線と工兵用の工具セットを購入した藤堂。
それらを使って、たどたどしい手つきながら──都合2個の爆薬を作っていく。
……もちろん爆薬を作るなんて初めての経験だ。
だが、なぜか知らないが、シャーマンを召喚して以来、軍事知識が徐々に頭に入ってくるのだ。
おまけに多少なら英語も理解できるようになってきた。
「……これも神器の影響って奴かね?──召喚したアイテムに魂が引っ張られる的な?」
まぁ、知らんけど──。
「──よっし、これでセットオーケイ」
独り言をつぶやきつつも、手際よくTNT爆薬を倒木の下にセットした藤堂。
あとは引火してっと──……。
シュボッ。
ジジジジジジジ……。
「……ん?」
点火したところをじっくり確認していた藤堂であったが、硝煙の香りが漂い始めたところで、ふと違和感に気づく。
火薬の香りに交じって、なにか知っているような香り──。
クンクン。
(あれ?──これって、新木の香りか?)
鼻腔をくすぐる香りに記憶を手繰り寄せる。
……うん。間違いない。
ヒノキ風呂や、ウッドハウスのような伐りたての木のような香りだ。
しかし、そんな香りが倒木からするはずが────……はっ!
「ま、まさか──これ、新木か!」
それに気づいた瞬間、
藤堂の全身が総毛だつ。
よく見れば、新木の香りだけじゃない!
倒木の周辺には無数の足跡があり、地面が踏み固められた痕跡がありありと残っていた。
……真新しい倒木
……道を塞ぐような倒れ方──。
──おまけに人の足跡多数ッ?!
(つ、つまりこれって、誰かがわざと切ったってことじゃ…………)
ざわっ。
いやな予感が脳裏をよぎり、
ギギギギと油の切れた人形のように戦車を振り仰ぐ藤堂。
「あ、あー……ボーイズ?」
「「「なにー?」」」
シャーマン戦車からひょこっと顔をだした子供たち。
その顔は屈託なくて一切の悪びれがない。
「い、一応聞きたいんだけど…………。む、村って、かなり近かったりする?」
「「「うんー? ううん、そこ《・・》だよー」」」
あ、あー!
そこか──────…………って、
「──ここかよッ?!」




