間章「その頃の3人」
その頃──。
「ねーねー。みてみて、レン! これって、グリフォンだよ、グリフォン!! 討伐推奨SSだって」
「SS……? それって、僕らよりもはるかに格上じゃないか──そんなの見たって無駄だよ」
王国の城下町。
そのおひざ元の冒険者ギルド内──その掲示板の前に、藤堂と一緒に召喚されたあの3人がいた。
「むー! レンってば、真面目ぇ。いいじゃんー、将来的な目標にしたってー」
そういってむくれる少女の名は、真鍋ミカ──レンと同じく、神器である「杖」に選ばれた「聖女」のジョブにつく高校生だ。
その無邪気な言葉に、同じく神器「槍」に選ばれた『ドラゴンマスター』の三島レンは、小さく嘆息する。
「わかったわかった。わかったから、もう少し静かにしなよ……。これでもお忍びだよ?」
「むー。ホント真面目ぇ、せ~っかく町に来たんだしもっと楽しもーよー」
「……はぁ」
全く言葉が通じない同世代に真面目なレンは、再びため息。
いくら神器に選ばれたとはいえ、まだまだレン達は修行中の身なのだ。
それを遥かに上回る実力者であふれるギルドで騒いでもいいことはない。それどころか目立てば冒険者ギルドあるあるの「おうおう、新入りが──」的なイベントが起こる可能性だってある。
だから、レンがセーブ役になるしかないのだが……。
「──そーそー。真面目すぎるとつらまねーぞ、レン君よー」
ガシィ!!
そういって、むりやりレンとミカの肩を組むのは、ややチャラい雰囲気の男──荒木誠であった。
レン達と同じ神器「剣」に選ばれし者で、『勇者』のジョブにつく青年(※注:藤堂曰く、ホスト君)だった。
「荒木さん……。目立ちすぎです」
けっ。
「だいたいよぉ……。こんなのにビビってんじゃねーよ。──たかがSSだぜ? グリフォンだか、グリコだか知らねーけど、んなのレベルさえ上げちまえば雑魚だよ、ざーこ」
まーったくレンの話を聞かずに、不躾に顔を寄せるとゲラゲラと笑う荒木に、ウンザリ顔のレン。
……あれ以来──すっかり有頂天になった荒木は、もはや誰の話も真面目に聞かない。
まさに力におぼれ、「剣」におぼれた人間の典型だ。
「なー、ミカちゃん」と、慣れ慣れしくその肩に手を回す荒木に、二人は眉を顰める。
正直この距離間がもう不快でたまらない。
それでも、数少ない同郷のモノということで、波風を立てたくないレンとミカは、表情一つ変えずにさりげなくその手をふり払っていた。
「いや、グリフォンなんて絶対無理ですよ。どうみても僕らより格上ですよ?」
「そーそー。それにグリフォンはRPGじゃ、大ボスだよ」
──ふんっ。
「なーに、言ってんだよ。ほら見ろよ、こっちのがスゲーじゃん。──レートSSSだぜ、SSS」
ぎゃはははは!
そういって、無遠慮にちぎり取ったギルドのレート表をヒラヒラして見せる荒木。
「あー……災害指定種のエルダードラゴンですか。やっぱりこの世界でも、ドラゴンは最強クラスみたいですね」
受け取ったレート表を戻しながら、
グリフォンと違って、シルエットだけが表示されたドラゴンをみつめるレン。
なるほど……。
彼の言う通り、討伐レートSSSと認定されたモンスターの名がそこに刻まれていた。
どうやら、それがこのギルドで確認されている最強格のモンスターらしい。
姿かたちがシルエットだけしかないのは、おそらく誰もはっきりと姿を見たことがないのだろう。
「そーそー。最強はドラゴンだよなーやっぱ!……んで、コイツを倒せるくらいに、つぇーってのが、俺たちだ。──実際、お前なんか『ドラゴンマスター』様じゃないか」
そういってギルド中の冷たい視線が集まるのみ気にせず笑う荒木。
「い、いやぁ……。ど、どうかな。少なくとも、まだこんなのは扱えませんよ」
いかにも調子にのった発言に、周囲の様子を窺いつつあいまいに笑うレン。
「えー。でも、レンならいずれはこれだって扱えるんでしょ? 昨日だってお城の飛竜が懐いてたじゃん~」
「ど、どうかな。飛竜はともかくとして、エルダードラゴンだからね……。伝説では使役していたって言うけど──僕にはとても扱える気がしないよ」
そういって自信なさげなレン。
いくら神器を得て、伝説のジョブについたとはいえ、つい最近まで高校生だったのだ。そこまでの自信はもてない。
「へっ。こんなのにブルってんじゃねーよ。お前が扱えないって言うなら、俺が頂いちまうぜー」
──けっけっけ。
「いやだから……。はぁ、もういいです。それより、早く仕事を見つけましょう」
「あ、そうだったね!」
勇者という割には少々品が悪く笑う荒木に、レンとミカは顔を見合わせて苦笑い。
扱うのがドラゴンなんだが、ミカのことなんだか……。
そんなことより、今は姫より課されたクエストを優先しなければ。
「あーそういや、そういう話だったか。……たしか、まずは市井に紛れて腕を磨くんだっけ?」
「そうですよ。まずはランクをあげないと」
「私たち、Dランクだもんねー」
伝説のジョブについた「神器」持ちとはいえ、
召喚されたばかりの3人はまだまだ見習いレベルなのだ。そんな3人に王国は腕試しの任務を与えて今に至るというわけだが……。
「なら、さっさといこうぜー」
──お、これなんかいいんじゃないか?
ビリッ!
あっさり話題を放棄すると、相変わらずマイペースにことを進める荒木。
勝手に納得して勝手に決めていくその態度には、毎度のことながら肩をすくめるしかできない。
その流れで、適当な依頼を剥がすと、上機嫌で受け付けに持って行こうとする。
──……いやいや、待て待て待て!
「あ、荒木さん! それゴブリンの巣の討伐ですよ!? 推奨レートはBランクからだし、やめたほうがいいと思いますけど──」
「え? B?! そんなの無理無理! 死んじゃうって! ま、まずは地道にいこ?」
慌てて止めるレンとミカ。
荒木のやらんとしていることは正気の沙汰ではない!
「地道ぃ? けっ、な~に言ってんだよ。俺たちは、神器持ちだぜ? 楽勝だぜ、らくしょー」
「いやいや、無理ですって! まずは、同じランクから始めないと!」
「そーそー。五十歩百歩っていうじゃない!!」
ミカ。
それを言うなら、千里の道も一歩から──な?
「んだよ、つまんねーなー! なーにが、ランクあげだ……ったく。だいたい姫様もAランクくらいになれるように口利きしろってんだ。……まぁいいや。そんなに言うなら、お前らで好きなの選んどきな──俺ぁ、向こうで酒飲んでくるからよー」
後ろ手にヒラヒラ。
めんどくさそうに去っていく荒木を見てため息をつくレンとミカ。
「はー。……まったく、協調性がないねー」
「ホントだよ。この前だって、ゴブリン一匹に必死だったのにぃ」
ぷー。
頬を膨らませるミカ。
そして、
はぁ……やれやれ。と、同じタイミングでため息をつく二人は、思わず苦笑い。
3人の神器使いとして一緒に行動することを姫様に言われていたものの、前途は多難だ。
「……まぁ、今は堅実にいこう」
「……うん。死んじゃったら元も子もないしね」
高校生という割に、意外にもしっかりと現実を見つめる二人は、じっくりとギルドの依頼板を眺めるのであった。
召喚されたあの日から、数日──。
……神器を得たからっていきなり強くなるわけないじゃない。
それを自覚し、現実を見ている高校生二人と、一番いいジョブについたことで調子に乗っている荒木。
3人合わせて、伝説の勇者パーティとやららしいが……すでに不和の芽は生まれつつあった──。




