第2話「おれ、要らない子?」
イケメン、イケメン、美少女、中年。
イケメン、中年、イケメン、美少女。
……うん、何回順番をかえても違和感しかないわー。
そりゃ、召喚物で美男美女の中に、普通──というかオッサンが混じってたらそりゃ、浮くわ。
しかも、すでに周りから無視される形となってるし……。
あからさまに放置こそされないが、どうみても扱いがおかしい。
先頭を立って歩く集団に対して、最後尾は藤堂ひとり──。
「……いや、おかしくない?!」
勝手に召喚しといて、戸惑う人を最後尾に置くとかおかしくなーい!?
「ま、まぁまぁ……。まずは3つの神器と対面しましょう! そこでなら、ステータスの鑑定もできますので」
ひきつった笑いの美人が、間を取り持つように言うと、
「「「「──ステータス?」」」」
いかにもゲームっぽい単語に日本人4人が反応する。
それを目を細めて微笑するスケスケ美人さん。
ちなみにこの美人はローブの男たちの親玉で、この国の王妃なのだとか。
「やはり、気になりますか? 召喚された方は皆それを気にすると古代の記録にありました」
「そりゃねー」
「ステータスってゲームみたいだねー」
高校生二人と王妃様とのとりとめのない話を聞きながらも、案内された先は明るい空間。
部屋の中央には巨大な水晶。
そして、三方の壁際には例の三つの神器とかいう、剣、槍、杖のそれぞれがガラスケースのなかで浮いていた。
「さて、お待たせしました。──どうぞ皆様。こちらにきて、手をかざしてください」
──言われるままに、水晶に順番に手をかざしていく4人。
ぶぅぅん……。
すると、小さく空気の震える音とともに鏡に映し出される異界の言語。
これがステータスなのだろうか?
「お、おぉ……。見ろ、あの青年のステータスと職業を! それに何だあの膂力は……。や、やはり本物の『勇者』だ!」
「待て待て、あの少年もすごいぞ。職業は『ドラゴンマスター』……しかもステータスは歴代最高だぞ!」
「いやいや、それよりも見てくださいあの少女──。思った通り『聖女』の職業を得ています。それに……魔力が飛びぬけて高い!」
表示されたそれを見て、おののく人々。
どうやら、あの3人が望んでいた人材で間違いないらしい。
チラ見した感じ、確かに3人のステータスは凄い。
4桁オーバーがズラズラ並んでいるし、固有スキルなんかも多い。
【異性魅了】とか【神剣使い】とかあるし、なんなら【竜族魅了】なんてのもある。
……つーか、『勇者』に『聖女』って。
それ職業か? 勇者って何する人やねん。
無断で人の家に入ってタンスと壺を漁る人のことか?
それ「ぬらりひょん」ちゃうん?
「……こほんっ。心の声漏れてますよ」
「おっと……」
げふんげふん。
わりかし地獄耳な王妃様から静かな突っ込み。
「……でも、勇者って仕事なんです?」
「仕事というより、職業──ジョブですね」
ジョブねぇ……?
「ゲームで言うところの「白魔導士」とか「弓使い」とかあーいうのかですね?」
「えぇ、ゲームがよくわかりませんが、その認識で概ね間違っておりません──その証拠に、」
パリーン!!
「あつっ!!」「うわ!」「きゃ!」
突如、壁際に安置されていた3つの装備が彼等の手元に降り注いだ。
ホスト君には「剣」
イケメン高校生には「槍」
美少女JKには「杖」
──それぞれの神器が持ち主を選んだ瞬間であった。
「「「お、おぉー」」」
装備を出にしてキラキラと光に包まれる3人を見て感歎の声が上がる。
「ふふふっ。お判りいただけましたか? これがジョブの……選ばれし者のジョブの力です」
「な、なるほど……」
……ん?
「じゃあ、俺は?」
「え? あぁ……そういえば──」
「うぉーい! 忘れんなよ!!」
手ぇ翳せって言ったのアンタだろ!
「あ、あはは。も、もちろん忘れていませんよ──その証拠に、ほら。裏側に表示されていますねー」
……ほんとかよ。
「つーか裏側って……」
もうそれだけで嫌な予感しかしない。
言われるままに、半信半疑ながら水晶の裏側を覗き込む藤堂。
ぶぅぅん……。
「お、本当だ。俺のステータスもあるじゃん!」
どれどれ……。
※ ※ ※ ※
レベル:1
名 前:藤堂 東
ジョブ:【シャーマン】Lv0
固定スキル
【言語理解】
● 藤堂の能力値
体 力: 15
筋 力: 11
防御力: 8
魔 力: 3
敏 捷: 22
抵抗力: 2
残ステータスポイント「+0」
スロット1:言語理解
スロット2:な し
スロット3:な し
スロット4:な し
スロット5:な し
● 称号「召喚されし異世界人」
※ ※ ※ ※
…………ん、んんー?
「な、なんか、そのぉ……。ステータス低くないっすか?」
「え? そうですか?」
いや、「そうですか?」じゃねーよ!
明らかに桁がおかしいやん!
「いえ、こんなものですよ? アナタはほら、神器に選ばれておりませんし──」
「こ、こんなもんって……」
えー……。
それ、確実に要らない子じゃん。
しかも、ジョブの『シャーマン』ってなんだよ……。
たしか某ゲームの、踊ってMP吸い取ったり、混乱させたりするアイツか?
「ふむ……。そうですねぇ。神官長──これは何でしょう? 見たことのないジョブですが、わかりますか?」
隣に控える老人に視線を向ける王妃様。
「はて? 【シャーマン】と言えば、たしか異教の神職であったと記憶しておりますが……。たしか、呪術師や祈祷師の類であったかと」
えー。
やっぱりそっちー?
「──ん? おぉ、そうだ! たしか、こちらの古文書で見た覚えがありますな!」
お!
古文書とな?!
「さよう。……ほれ、こちらです」
そういって取り出した重厚な書物には、とぎれとぎれの文字が見える。
「おほん!……えー、この古文書によると【シャーマン】なる職業は、稀に現れることがあり、『しょうかん』などが使えるようですな。ほかにも『へんたい』と──」
「ふむふむ、なるほど! 『しょうかん』と『へんたい』か……!」
「ん?」
……んんー?
「え? へんたいで、しょうかん?」
「『しょうかん』と『へんたい』ですな──他は……記録が古すぎて残っておりませんなぁ」
「いや、順番とかどうでもええねん!」
なんやねん、へんたいでしょうかんって!──嫌味か!
授かったジョブに不満ありありな藤堂。
「ま、まぁまぁ、神官長。これはつまり──?」
王妃が割って入ると、神官長を振り返る。
「さよう。……この国ではレアではありますが、おそらく……異教の神官系の一種ですな」
「なるほど、神職ですか。……悪くはありませんね」
ニコリ。
そういってほほ笑む王妃様だが、その目の奥にある蔑みは隠しきれていなかった。
どうやら、ある意味予想通りではあるが、藤堂のジョブは大したものではなかった様子。
内心がっかりしていたのだが──。
「ぶ、ぶははははは! ちょ、おっさん! なんだよシャーマンって。能力ひくいし、す~ぐ死ぬんじゃね? しかも、『しょうかん』とか『へんたい』って、ぶははは!」
「や、やだー」
おもくそ笑うホスト君に、変態を見る目つきのJK。
……やかましいわ!
「ちょ、ちょっと失礼ですよ、二人とも! 同じ日本人じゃないですか……」
「あ! そ、そうだね。そ、それにシャーマンだったら──ほら! 踊ったり、MP吸ったり……」
……できねーよ!
だからそれ、某シャーマンじゃねーかよ!
腰蓑つけて踊れってか?!
不躾に笑うホスト君はもとより、落ち着いた雰囲気の高校生二人もフォローになってないフォローを入れてくれるが余計にみじめだ。
しかも、JKのほうは、さり気に失礼だからね!
「ったく、どいつもこいつも……」
……はぁ。
これが異世界の地でたった4人だけの日本人か。
そうして、なんとか全員のステータスが分かったところで、この場は解散となり、場所を移すことになった。
もちろん、次はこの世界に呼び出した理由の説明というわけだ。
ゾロゾロゾロゾロ。
王妃を先頭に周囲を神官に挟まれながら案内された先は豪華な一室──いわゆる謁見の間という奴だろう。
そしてそこには絵にかいたような国王様がいた──。
※ ※ ※
「──ぅぉっほーん! 以上である。わかったかなー」
首を垂れ片膝をついたまま、ざっくりとした説明を聞き終えた藤堂たち4人。
それだけで小一時間。もう、疲労困憊である。
──まぁ、要約するに、遥か果ての大地で魔王が復活したとかなんとか。
だから、古代の伝承に従い勇者召喚を行ったということらしい。
もっとも、すぐに危機が訪れるかというと、そういうわけではないそうだ。
なので、その危機が来るまでは国に滞在し──まずは周辺諸国との係争に力を貸してほしいとのことだけど…………。
え?
5分で済む説明を、小一時間もかけて。コイツ何言ってんの?
「え、えーと、それはつまり──侵略の片棒を担げと?」
我慢できずに口を挟む藤堂。
「ふむ。そうとも言うな」
そうとしか言わねーよ!
「いや、でも俺たちに関係のない話では?」
──そうだよね?
同意を求めるつもりで残る3人を振り返る藤堂。
しかし、
「なるほど! 任せてくださいッス!」
「え?」
軽く頷くホスト君。
何やらは神剣を肩に担いで自信満々だ!
「まー、受験より面白そうかな?」
「私も、レンがやるって言うなら付き合うよー」
「は、はぁ?!」
え?
今どきの子ってこんな感じなん?!
君ら、軽くね?!
「いや、でもいいのか? 戦争だぞ?」
しかも関係のない世界で。
「別に変じゃないですよ。地球だってどこかしらで戦争してるじゃないですか」
「いや、そーだけど……」
うーむ。藤堂がおかしいのだろうか。
それとも、授かった力に早速溺れてるとか?
「なんだよ。──おっさん、びびってんのかぁ? まー、イヤなら、家で大人しくしてりゃいーんじゃね? なぁ、王様、活躍したら褒美貰えんの?」
「当然じゃ。十分に報いようぞ」
「だってさ。やるっきゃないっしょ」
「……うむうむ! 期待しておるぞ!」
えー。そんなノリ?
そんで、王様はそんな会ったばかりの異世界の人間に期待しちゃうんだ……。
「──して、そなたはどうする?」
「…………?」
へ?
「……あ、俺?!」
視線が向いていることにようやく気付いた藤堂さん。自分を指さしキョロキョロすると、謁見の間の全視線が向く。
わ、わーお、居心地悪~い。
つーか俺いらない子なんでしょ?
「あ、あー。……その、王様。発言しても?」
「むぅ? なんじゃ?」
鋭い目を向ける王様。
しかし、その目に怯むわけにはいかない。言うべきチャンスはここだけなのだ。
「その……。ご存じの通り、私は一般人にも劣る能力です。しかも、神器にも選ばれなかった身。このままでは3人の足を引っ張りかねません。……もし、王様のお許しが頂けるなら、庇護を受けることなく市井の者として暮らしたいのですが……」
ホスト君も大人しくしとけって言ってたしね。
「なに? 城を出たいとな?」
「は、はいっ、勝手なことを言って申し訳ありません」
一気に言い切ると頭をあげずに、ドキドキしながらじっと次の言葉を待つ。
隣にいるであろう、ホスト君や高校生二人も成り行きを静かに見守っている。
「……ふーむ、なるほど。そうしてやりたいのはやまやまじゃが、お主も大事な召喚者の一人。援助もなしに放り出したとあっては王家の名折れ──うむ。こうしてはどうじゃ?」
野に下りたいという小さな願いを述べる藤堂。
しかし、王妃に耳打ちされた国王が発した提案は全く別の物であった。
「──実はのぉ。ここより遠く離れた地に、トウドウ殿と同じような境遇の者がたくさんおるのじゃ。……様々な理由でこの世界にきた彼らじゃが、同様に戦いを疎み、帰還を望んでおる。──しかし、説明したとおりすぐには無理じゃ。なので、帰還できるまで匿って居るのじゃよ」
え? それは初耳。
つーか、他に異世界の人がいるの?
なんか、たまたま召喚が成功したとか言ってなかった?
「なーに。隔離とはいえ、ちゃんと衣食住は保証する。しかし、このように世界が魔王の脅威にさらされておる中、おいそれと外に出すのは厳しいというわけじゃ。──どうじゃな? しばらくそこに身を寄せ、それから進退を考えるというのは──?」
「それはつまり……」
「うむ。そこにおる限り、安全は保証しよう!」
なるほど。
あっさりと放逐したのでは、王家の名折れ──いや、王国の内情が漏れる恐れがあるとそういうわけか……。
「……うーん。わかりました。あまり無理を言っても難しそうなので、そうさせていただきます」
──まぁ、そう簡単にはいかないわなー。
国王の言葉を信用した藤堂は、とりあえず新しい門出をいったん棚上げし、まずはここから離れることに同意したのであった──。
参考ステータスその1
※ ※ ※
レベル:1
名 前:荒木 誠(通称∶ホスト君)
ジョブ:【勇者】Lv0
固定スキル
【ステータス表示】【言語理解】【神剣使い】【異性魅了】
● 荒木の能力値
体 力: 67
筋 力: 45
防御力: 38
魔 力: 477
敏 捷: 59
抵抗力: 894
残ステータスポイント「+0」
スロット1:言語理解
スロット2:神剣使い
スロット3:異性魅了
スロット4:な し
スロット5:な し
スロット6:な し
スロット7:な し
スロット8:な し
● 称号「召喚されし選ばれた異世界人」
「勇者と呼ばれし者」
「神に愛されし剣士」
※ ※ ※