第15話「戦利品と軍用品」
シュゥゥゥゥ……!
バチバチバチ──!
山賊どもを追い払ったあと、無人になった城塞は硝煙と黒煙が立ち上る廃墟と化していた。
だが、一見してすっかり無人になったようだが、まだ油断はできない。
これだけ大きな城塞だ。まだどこかに隠れている奴がいるとも知れないので、最後の最後まで気は抜けなかった。
もっとも、シャーマン戦車が鎮座する中──居座るほど度胸のある奴がいるとは、もはや思えないけどね。
とはいえ、一応……。
「──で、こうしてこう」
「こ、こう?」
ガチャガチャ──ガシャン!
藤堂の説明を聞きながら。たどたどしい手つきで鉄の塊を操作するミール。
「いいぞ。……あとは、このレバーを押せば弾が出る」
「わ、わかった!」
ジャキンッ!
最後に装填を終えると「むふー!」と鼻息荒くやる気満々のミール。
たった今、彼女にに武器の使い方を手ほどきしたのだが──これ大丈夫かね?
「いいか? 絶対近くで撃つなよ? 掠っただけで体がバラバラになるからな」
「わかったー」
むふー!
「……ホント、わかってる」
「こくり」
……し、心配だ。
城塞の安全化のためとはいえ、彼女が手にしているのは、M2ブローニング重機関銃──12.7mm機銃弾を打ち出す強力なマシンガンだ。
M4シャーマンの副武装で、主に対空対地任務に用いるのだが、その威力は押して図るべし。
さっきもチラッと言ったが、掠っただけで体がバラバラになる威力といえばわかるだろうか?
それを彼女に預けたのだ。
これは、やむを得ない処置。
藤堂がクリアリングをしている間──砲塔後部に銃座を移したその機関銃で、彼女自身の身を守らせるのだ。
──だけど、これマジで大丈夫か?
「ほんと大丈夫か?」
「うん!」
「絶対俺に撃つなよ?」
「うん!」
「敵がいたらどうする?」
「うん!」
いや「うん!」じゃなくて──……。
「はぁ……。とにかく、危ないとき以外は絶対撃つなよ」
「うん!」
……返事だけはいいんだよなー。
一抹の不安を抱えながら、乗員用の武器を装備した藤堂が戦車から降りて城塞内のクリアリングを開始した。
※ ※ ※
──ぎー。
ばたん……。
「ふー……。これで最後か」
最後の部屋を油断なくクリアリングし終えた藤堂。
幸いにして城塞内は本当に無人だった。
いくつかある建物は大半が朽ちかけており、どうやら元々廃墟だった物を山賊が再利用したらしかった。
そのせいか、かなり古い軍旗が掲げられていたが、それ以外は敵の影も形もなかった。
「……だけど、収穫は上々」
仕事を終えてほっとした藤堂は、上機嫌で笑う。
その手には大量の物資があった。
さすがは山賊のアジトなだけあって金銀財宝──……とまではいかないが、それなりの戦利品がため込まれていたのだ。
掘肝、武器に防具などの鹵獲品多数。
さらには攻城兵器群。
これらはMP獲得のため、さっさと全部換金しておいた、総計650ポイントくらいになってホクホクだ。
そして、手には、金貨が少々に銀貨たくさん詰まった皮袋を持っている。これはPXや街についたときに役立つだろう。
ちなみに、PXのレートはマジでボッタくり。
銀貨1枚でコーラ一本、ハンバーガー一個の計算だ。
銀貨10枚で金貨1枚換算らしいから、恐ろしくボッタくられている気がする。
あと、レート表によれば銅貨は100枚で銀貨1枚になるみたい。
1000円でコーラ一本だと考えると、銀貨1枚がそのくらいなのだろう。……いや、高いわ!
「ま、一番の収穫はこれかな?」
それは羊皮紙のロール。
親分の部屋らしき所で見つけた地図だった。
「まぁ、見方はよくわからないんだけどね」
……コンパスとかもないし。
それでも、ないよりはましだろうと、一応荷物に入れておく。
「さーて、そろそろ戻るか──」
あんましミールを一人にしておくのもマズイかと思い、足早に建物をあとにする。
「おーい。そっちはどうだー」
そして、少し離れた位置にいるミールに話しかけると、ぐりん! とM2ブローニングをむけて手を振ってくる……って、やめんか!
「だいじょうぶー」
「だいじょうばねーよ!!」
銃をむけんな!
掠っただけでバラバラなるっていったでしょ!
「はーい!」
ぶんぶんぶん!
いや、手を振るだけで聞いちゃいないし。
「はぁ、わかったから銃から離れろ。それと手伝ってくれー」
金貨と銀貨の袋が結構重いのだ。
「わかったー」
ててててて。
「ほい。少し持ってくれ」
「はーい」
ひょい。
「せんきゅ…………って、」
そっち?
「え? 銀貨の袋──それ、重くない?」
「んー??」
涼しい顔のミールちゃん。
いや、「んー??」じゃなくて、それ──20キロくらいあるよ?
「軽いよー」
「あ、はい」
……どうやら、ダークエルフは力持ちの様子。
※ ※ ※
「もぐもぐもぐもぐ♪」
「もぐもぐ……」
山のように積みあがったハンバーガーをモリモリ食べているミールちゃん。
他にもベーコンサンドやらフランクフルトなんかもあるんだが、彼女はハンバーガーが今のところお気に入りらしい。
「……コーラ飲むか?」
「飲むー!」
一本購入してやると、それもペロリと平らげてしまう。
まさに一口だ。
「いや。ほんと、どこに入ってんだか──」
「みる?」
見ねぇよ!
あと、すぐ脱ごうとすんな、女の子でしょ!
「えへへ」
「ほめてねぇよ」
あと、ちょっとは遠慮しろ。
「……お前さ、もしかして食いすぎで捨てられたんじゃねーの?」
そういえば王国の連中が藤堂と一緒に彼女と他に獣人たちをなぜ捨てようとしたのか分からなかったが、もしかするとこれが原因かも入れない。
端的にいって、コイツひとりいるだけでエンゲル係数(※食費みたいなものです)が跳ね上がるのだ。
「そんなに食べてないもん」
「いやいや、食べてる食べてる」
めっちゃ食べてるからね?
そのハンバーガー一個銀貨1枚だからね?
それを50個。
つまり、YOUは一食金貨5枚分食ってるからね?
「……って、金貨五枚分って聞くと凄いな!」
貴族かよ!
「きぞくー?」
「はー……まぁいいよ。当分はここで稼いだ金でなんとかなるし、MPも上手く稼げたしな」
「にー♪」
うん。可愛ければ許されると思うなよ──……可愛いけど。
なでりこなでりこ。
この旅路唯一の道連れの頭を撫でつつ、藤堂も遅めの昼食としゃれこむ。
メニューは、ランチョンミート入りのサンドイッチ。
「……あ。そういえば、城塞攻撃で少しレベルが上がってたな」
食事をしながらふと思い出す。
戦闘に夢中になっていたが、最後の最後──親分あたりに煙幕焼夷弾をぶち込んだあたりでレベルアップの表示が出ていた。
それでいくと、必ずしも殺す必要はないということだろうか?
……あるいは、バリスタを潰したのが原因──??
まぁいいか。
「検証は食事のあとにして、とりあえず今日はここで一泊だな」
「はーい」
山積みのハンバーガーを幸せそうにパクパク食べるミールをしり目に、サンドイッチを平らげた藤堂はステータスを確認。
うまくすれば新しいスキルが手に入っているかもしれない。
ぶぅぅん……。
※ ※ ※ ※
レベル:12(UP!)
名 前:藤堂 東
ジョブ:【シャーマン】Lv3(UP!)
Lv1→召喚
Lv2→PX
Lv3→補給(NEW!)
● 藤堂の能力値
体 力: 47(UP!)
筋 力: 56(UP!)
防御力: 109(UP!)
魔 力: 103(UP!)
敏 捷: 100(UP!)
抵抗力: 114(UP!)
残ステータスポイント「+44」(UP!)
固定スキル
【ステータス表示】【言語理解】
スロット1:言語理解
スロット2:召喚
スロット3:PX
スロット4:な し
スロット5:な し
スロット6:な し(NEW!)
● 称号「召喚されし異世界人」
● 称号「戦車乗り」
● 称号「山賊狩り」
※ ※ ※ ※
〇臨時称号「城塞キラー」
→(攻城戦能力が100%上昇)
〇
※ ※ ※
お!
……やっぱりレベルアップしてる。
しかも、ジョブレベルも上がっているとは……! これは僥倖だな。
「え~っと、ジョブLv3は……『補給』??」
補給とな?
でも、補給ならLv1のころからできていたような?
燃料も装甲もMPを使用すれば回復するんだから、今更という気もする。
まぁ、こういう時はヘルプだな。
ぽちー
※ ※
※『補給』……MPを消費して、戦力を回復できる。
ただし完全に破壊された場合は補給不可。
※ ※
「へー……」
燃料や弾薬以外にも補給を受けられるとな?
それもMPを使用して、か。
しかし、他の『補給』ねぇ……?
「ま、試しに一回やってみるか。え~っとこうかな」
『PX』のときも使うだけなら特に支障はなかった。
なら補給も同じようなものだろう。
というわけで──補給。発動!!
ぶわっ!!
「うわ!」
……びっくりしたー。
PX同様、ステータス画面が輝き、突如サブウィンドウが出現する。
そして、同じく項目がずらりと──。
※ ※ ※ ※
『補給』→『火器』
『弾薬』
『被服』
『糧秣』
『燃料』
『需品』
『衛生』
.
.
.
※ ※ ※ ※
「お、おぉ?!」
火器に弾薬、被服に糧秣──?
こ、これはまさか……。
「糧秣ー?」
「うぉ! ビックリしたー……」
なんだよ、ミールかよ。
藤堂の心の声に反応しないでくんないかなー。
ハンバーガー片手に藤堂の顔を覗き込んできた。
「つーか、飯に反応すんなよ──だいたい、お前まだ食ってるだろ!」
どんだけ食い意地張ってるんだよ。
「きになるー」
はいはい……。
「ほら、お前のお望みの飯がたくさん食えるスキルっぽいぞ」
ステータス画面を見せてやると、「おー!」と目を輝かせるミール。
「食べ物一杯……」
「いや、これ食べ物だけじゃないからね?」
他にも火器に被服、築城機材と山盛りだ。
歩兵用の武器だけで山のようにある。
みろっ。
M1911ガバメントにM1ガーランド小銃。
それに、マシンガンにバズーカー砲……いや、バズーカ砲!?
「あー、レーションだー」
「あ、おい、勝手に触るなって!」
バズーカ砲に気を取られた好きにステータスを弄ろうとするミール。
……つーか、他人もステータス触れんのかよ──って、あ。
「わ、わ」
「あっぶな!」
コローン!
乗り出した姿勢のまま転がるミールちゃん。
それを思わず体を支えてやる藤堂であったが、体勢を崩したミールはハンバーガーを落としてしまった。
「あー!」
コロコロと転がっていくハンバーガー。
「まてまてー」
「お、おいおい! そんなん食うな!──また買ってやるからー」
「買ってもらって、これも食べるーー!」
ずるぅ!
追いかけながら叫ぶてミールに思わずずっこける藤堂。
「ど、どんだけ食い意地張ってんだよ、アイツ……」
はぁ、やれやれ。
「ほら、そんな食うなよ──って、どうした?」
しゃがみ込むミールの首根っこを掴んだ藤堂。
しかし、その手にハンバーガーはない。代わりに……、
「おちたー」
「へ?」
落ちた……あ。
「なんだこの穴?」
「ここー」
ここー? あ、ここに落ちたのか。
いや、しかし、こういう昔ばなしあったな──あれはなんだっけ? オムスビを落としたらネズミの巣があったんだっけ。
そんで、巣穴から──。
「よいしょー」
「いや、よいしょーって……君ぃ!」
開けんな開けんな!
「おい、ばっちからやめ──……!」
城塞の地下なんて、絶対に下水とか用水路────うわ、くっさ!
むわっ! と強烈な匂いが噴き上げてくる。
どうやら、御多分に漏れず排水関係の何からしいが──凄い匂いだ。
少なくても、お宝を隠すような場所ではなさそう……。
「トードー。なんか一杯いたー」
……は?
「なんか、いっぱいって……ぶほっ!」
ちょ、おま……!
「な、なんつーもん発見してんだよ……」
ミールが地下から手を引いて連れてきたのは、ハンバーガーをガツガツと食べているたくさんの子供たちであった……。




