第10話「お口の天敵」
「ひーふーみー」
「ひーふーみー」
外に出したレーションの箱から、中身を取り出し仲良く一緒に数える藤堂と少女。
……いや、別に一緒に数える必要もないんだけどね。
あと、ちゃんと服着て。
そのボロでしゃがまれたら目のやり場に困る。
「47の……48っと」
……おぉ! 全部で48食分か!
「48~!」
わっしょいわっしょい♪
木箱の中にあったのはレーション入りの缶詰で、主食缶と副食缶で、2個ずつ。
それぞれ48食分もあったのだ。
「いやー助かった。誰かさんおかげでいきなりピンチだったぜ」
「だねー」
いや、お前のせいな。
……つーか、名前ないと不便だな。
「なぁ、ホントなんも覚えていないのか?」
「ん?……こくり」
だから、コクリは返事じゃねーよ。
昨日も少し彼女と話したが、マジモンのアホの子──……じゃなくて、本当に何も覚えていないらしい。
わずかに覚えているのは、「なんか暗いとこにいたー」とのこと。
「ふーむ。奴隷商人にでも攫われたのかね?」
そーいや、あの馬車には獣人の子とか、普通(?)のエルフもいたな。
ろくでもない国のことだ、なにかやましいことがあるに違いない。
……ふむ。
「これも覚えてないか?」
「まるー?」
……うん、覚えてないな。
少女曰く「まるー」らしいが、『これ』とはあの馬車に残されていた水晶のことだ。
馬車に死体と一緒に残されていた淡い青色の水晶は、ソフトボール大とかなり大きいものだった。だが、見た目よりもずっと軽い。
そして、恐ろしいくらいに透き通っており、見るものを魅了する不思議な水晶だった。
「ふーむ。おそらく魔道具ってやつなんだろうけど……まぁいいか」
よくわからんが、売れば高値になりそうだし、持っておこう。
この先どうなるかわからないけど、お金があって困ることはないだろう。それに、生活するにしても騎士連中から奪った金貨や貨幣だけではいずれ窮するのは目に見えている。
そうして、適当にその水晶を戦車に積んでおくと、さっそく食事開始。
誰かのせいで昨日は食べ損ねたからねー。
「え~っと、なになに」
「なになにー?」
ぐいぐい。
近い近い。
ちょっと近いよー。……あと匂うよ君ぃ。
「あとで、水場を探そうな?」
「すーぷ作る?」
ちゃうわ!
匂うの!!……女の子だから気を使ってるの!
「はぁ。わかったからちょっと離れて──」
グイっと少女を押しのけると、レーションを手に取り、説明を読む。
箱には48個──それぞれ種類があるらしい。
「え~っと、PORK……あぁ、『PORK AND BEANS』か」
知ってる知ってる!
なんか、輸入系食材の店でみたわ。
あと、ゾンビもの映画で出てくる定番の缶詰だ。
「いいね」
「いいー!」
んで、こっちは何かなっと──。
「ふむ。文字からすると、ビスケット缶かな? それと──他にも入ってるな」
いわゆるBユニットと呼ばれる副食缶だ。
ビスケットのほかシュガーの文字が読み取れる。また、振るとカラカラと音がした。
「ん。じゃ、一個食べるか──」
「たべゆ!!」
はいはい……。
ほんと食い物に目がないねー。
もういっそ、名前はCレーションとかでいいんじゃねか。
いや、さすがにレーションはないな──。
でも名前がないとさすがに、お前とか君じゃなー。
「んー……なんかいいのないかな」
──RATION,TYPE C
6MEAL……
お!
6MEAL……『ミール』か!
ふと目についたレーションの木箱のん表示。
さすがにCレーションのCとか『レーション』は呼びにくいしな。
うん、ミールいいじゃん。
「……それでいいか? ミール」
「ミール?」
うむ。
「お前の名前だ。それと缶から好きなの選べー」
どーせ全部レーションだし!
「わかったー!」
にー♪
「お、おう」
女の子らしく可愛く笑うミールに思わず顔を赤くする藤堂。
……ちょっと可愛いじゃねーか、と。
──つーか、どっちがわかったんだ?
「……まぁいいか。ほれ、もってけー」
さて、腹ペコガールには適当に選ばせて、
そろそろ俺も食うかなー。
鼻歌を歌いつつ缶詰入りのレーションを積み上げて上機嫌の『ミール』をしり目に、藤堂もメニューを選ぶ。
見た感じ、おおよそ10種類程度あるようだ。
ふむふむ。
ミート・アンド・ビーンズ、
ミート・アンド・ベジタブルシチュー、
ミート・アンド・スパゲッティ、
ミート・アンド・ヌードル、
ポーク・アンド・ビーンズ、
ポーク・アンド・ライス、
ハムと卵とイモ、
ハム・アンド・リマビーンズ、
フランクフルト・アンド・ビーンズ、
チキン・アンド・ベジタブル
全10種類。
そして、そこにビスケット缶がつく……と。
な~んか、似たようなメニューが目につくけど、このクソ異世界で洋食が食べれるのはありがたいことだ。
「ミール、お前はどれを──……って、」
「んー?」
全種類抱えて満面の笑みのミールちゃん。
「いや、一種にしとけよ!!」
「んふー♪」
いや、んふー♪ じゃなくて……。
※ ※ ※
「はぁ、わかったわかった。とりあえず、全部は食えんだろうから、腹いっぱいになったらもとに戻しとけよ」
さすがはアホの子だ。
まぁ、いくら何でも全部は食えないだろう。
一つ二つ食えば満足するはず。
いくら食べ盛りでもね。
「さて、俺も食べよっかな」
ここはオーソドックスに『ポーク&ビーンズ』で。
(注: オーソドックスとは)
「いやー缶切りがあってよかったぜ」
墓で回収した小物の中に十徳ナイフがあったのだ。
もちろん回収。そして今それが役に立っている。
「んで、こうして──こう」
キコキコ、
メリメリメリ──っと。
「よし」
缶を開封すると、中には真っ赤なトマトスープにひたひたになった豆がギッシリ!
う~ん、オイリィ香りが溜まらない!
「っと、ミール。缶かしな、開けてや──」
メキィ!
「……ん?」
……いや、メキィって君ぃ──。
「え? 素手?」
今、それ素手で開けた??
「すでー」
いや、素手って……え?
か、缶詰やで? しかも軍用の……。
「これ、おいしー♪」
にこー。
「あ、はい」
ダークエルフは怪力、藤堂おぼえた。
……そして、絶対怒らせないようにしようと固く決意。
「ゆ、ゆっくり食べような」
「はーい」
にっちゃにっちゃと、フランクフルトを指で引っ張り出すミールにすこ~しだけ丁寧に受け答えをする藤堂なのであった。
そして、しばらくのち。
「げぷー。食った食ったー」
あー。もう食えん。
だけど、アメリカの飯もなかなかうまいな。
ちょっとばかしポーク&ビーンズの味がしつこく、独特の缶詰臭がしたが、空腹のせいかすっかり平らげてしまった藤堂。
副食のビスケットもシンプルな味で飽きが来ない。それに、キャンディやら角砂糖が入っていて味辺になってよかった。
「あと、昨日騎士連中から岩塩パクっといてよかったぜ」
あれでかなり食べやすくなった。
「さて、俺は食後のコーヒーを」
……そう。
なんとコーヒーがあるのだ。
このCレーションは、フルコースだと言ったが、まさかまさかの粉末のコーヒー付き!
砂糖の塊の使い方が分からなかったがこういうことだったのか──と一人納得。
「ミールは──」
「んー」
メリメリィ……!
あ、はい。お代わりですね。
「……一応、それで10個めな」
「おいしい!」
味、聞いてんじゃないよ!
数を考えろって言ってんの!!
……怖くて言えないけどさー。
素手で缶詰開けるアホの子って、怖いからね!
割と、目の前でメリメリと缶詰開けられるとマジ恐怖。
「はー。せっかく数日は持つと思ったのに、こりゃ、明日には枯渇しそうだ」
ミールの一食当たり10個。
そして、藤堂さんが1個。
つまり、
48食分の缶詰は、なんと1日半しか持たない計算だ! ひゃほう!
「…………あーコーヒーおいしいなー」
そして、藤堂は現実逃避した。




