表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/11

第1話「異世界転移」

新作です!

 俺の名は、藤堂とうどう あずま

 都会で二年ほど会社勤めていたが、仕事のストレスで退職──今は地元の役場で働く30代のしがない公務員だ。


 実家は神社で将来は跡を継げと言われているが、実はよくしらない。

 地方のほぼ無名の小さな神社なんてそんなもんだ。


 そんなわけで、安定志向を選んだ藤堂趣味のプラモと漫画鑑賞、そしてアウトドアを両方楽しむため、週末を利用して、ちょっと離れた山にある河原に向かった。


 軽自動車を走らせ、到着したのは昼前。

 最高の時間帯だ。


「うーし、いっぺんこれやってみたかったんだよなー」


 手にしていたのはテーブル付のキャンピングチェアに小さなコンロ。

 そして、ミネラルウォーターとコーヒー。


 さらには、買ったばかりのプラモがひとつ!


 なんと、贅沢。

 野外でインドアな楽しみを甘受するのだ。

 冬場にアイスを楽しむような背徳的な喜び。


 動画サイト『ようつべ』を流しつつ、プラモを作り、時々漫画をよむ。


 ボンドと塗料の匂いが室内に籠もるのを気にしないでいいので気楽だ。

 気をつけるのは雨と強風だけだが、今日は晴天。風もほぼ無風だ。


 ボンドの匂いと、沸いたばかりのコーヒーからたまらない苦み香りが漂い出す──。


「うん……。思った通り最高だな」


 休日とは言え、キャンプ場でもない河原には人気がなく、独占できるため静かでとても気分がいい。


 遠くの方で数名の渓流釣りの釣り人がいるだけで、やかましい家族釣れなんかもいない穴場中の穴場だ。


 いや、たまらんねこれは。

 正直どうかと思ったけど、来週もやろうかな。


 静かな河原で、コーヒーをただ燻らせるだけ──。

 目が疲れたら漫画を読み進める。

 水の音と微かな風に木々が揺れる音だけの山の中。

 まるで別荘でも持った気分だ。


「うん……。これは癖になるなー」


 コーヒーを一杯飲み干す頃には、あっという間に数冊の漫画を読み終えた。

 そのあとは、プラモを一気に完成させていく。

 

 手元にあるのは、某国の戦車のプラモ。

 すでに大まかに塗装は終わっているで、あとは仕上げだけだ。


 藤堂は、スプレーで下処理を済ませていたそれに、小さな刷毛で細かいディティールを書き込んでいく。


 ……そこに香るかすかなシンナーの匂いも、山の風で洗い流されていくので、木漏れ日と相まって実に心地よい。


 そんな時であった。


「…………あれ?」


 木漏れ日がやたらと眩しいなと感じた瞬間、それが陽光などでないとようやく気付く。


 見上げた空には、一条の光──。


 まるでSF映画のワンシーンだな……。

 そう思ったのもつかの間、空には巨大な幾何学模様が浮かび上がり、その中心から差し込む光が藤堂を直撃していた。


「うわ?!」


 え?


 なにこれ?

 なにあれ?



 一際(ひときわ)光が輝いた瞬間、藤堂の視界は白く濁り、すぐに意識は落ちていった。



※ ※ ※



「お、おぉぉ! 成功だ! 成功したぞ!」


 突然、周囲で響き渡る声に、思わず体を起こす藤堂。

 その瞬間、気持ち悪さに襲われるが、なんとか踏ん張るとそこは暗い空間でローブ姿の人々が多数いた。


「へ? だ、誰? どこ?」


 え? え?


(こ、これはもしかして──……)


 一瞬、山の中で寝落ちして警察に職質でもされたのかと思った藤堂。

 河原とは言え、不審な車両が一台。

 長時間とまっていれば釣り人に通報だってされよう。


 ……しかし、冷静になって考えれば、ローブ姿の男たちが警察なはずがない。


 そもそも、河原どころか見知らぬ空間だ。


「ええー?」


 石造りの床に、見たこともない彫像がなら礼拝堂のような空間。

 河原でもなければ、警察署でもないのは一目瞭然だ。


 ローブ(……あれは法衣というのだろうか?)を纏った男たちだって、そもそも顔つきからして日本人じゃない。


「えっと、ここは……?」

「あれ? レン? え、この人たち誰??」


「な、なんだこりゃ?!」


 そこに、藤堂の他にも別の声が響く。

そちらに目を向ければそこには数名の男女。制服男女が一組と、いかにもチャラそうな若いホスト姿の男が一人の計3名。全員美形だ。


 どうやら、他にも日本人がいたらしい。

 見慣れた東洋人の顔にホッとするとともに、顔面偏差値にちょっと凹む。

 

 ……藤堂さん? 実に普通だよ!


 っと、それ(顔面偏差値)はさておき、突然ここで気が付いたのは、彼らも同じらしい。


 不安そうな顔でキョロキョロ回りを見回し、藤堂にも気づいた様子で、なんとなく体を寄せ合う3人────おいおい、オジサンもその3人に加えてくれたまえよ。


 内心ツッコミを入れていると、そこに静々(しずしず)と、金髪が目を引く美女が現れる。


 シースルーというのだろうか? 肢体が際立つ、ちょっとアダルトな雰囲気が強調された女性が進み出ると、4人の前に立ち二コリと微笑む。

 少しトウが立った感じはするがかなりの美人。むしろそれがいい。


 そんな美女が藤堂達に言った。

「異界より召喚された皆様。さぞや戸惑いのこととは思いますが、どうか我々の話を聞いてくださいませんか?」


 そう言うなり、先頭にいたホスト君の手をそっと握りしめると美しく微笑む。

 それだけでホスト君は顔を緩めて、美女の胸元をのぞき込もうと少し目線が下がるが、美女はそれに気づきつつも何も言わない。


「は、はい! 俺──いえ、僕でよければなんなりと!」


 あっさりと安請け合いしちゃったホスト君。

 パクパクと女を食ってそうな顔と恰好なのにチョロいな(きみ)は……。


「まぁ、本当ですか?! とても頼もしいですわ。実は我が国は、北の大地より復活した魔王によって苦しめられています──どうか、その魔王を倒し我が国に平和をもたらしてくれませんか?」


 潤んだ瞳でそう言われれば中々嫌ですと言える男はいないだろう。

 実際、ホスト君は何度も無言でウンウン頷いているし、高校生二人に至っては、ちょっと楽しそうに周囲を観察し始めている。


 ……君らの適応力凄いな?

 オジサンもういっぱいいっぱいだよ?


 むしろ、明日の仕事の休みの連絡どうしようかなとしか考えてませんよ?……つーか、今何時よ?


「それでは、さっそくですが、異界の勇者に渡す3つの神器をお選びください──きっとあなた方なら、神器のほうから道を示してくれるはずです」


 へー。

 向こうが選ぶのか。三つの神器ねー。ありきたりなら所なら、日本神話のあれか、「鏡(八咫鏡)」、「剣(草薙剣)」、「勾玉(八坂瓊曲玉)」だったっけ?



 …………ん?

 三つの神器??



「あ、あら? ひ、ひーふーみーよ。……四人?」


 藤堂がそれに気づいた時、向こうもそれに気づいたらしい。


 指さし数える美人さんのほかにも、異変に気付いたのかローブ姿の男たちもざわつき始める。


「ど、どういうことだ? 生贄は3人分しか……」

「そもそも、中年が混じっているなんて前代未聞だぞ?」

「顔も普通だし」


 おい、顔は関係ないだろ!


 しかも、藤堂さんの方見て言うな! バレバレだっつーの!


「ひ、ひーふーみー……よ? え、えーっと、おかしいわね」


 そして、美人さんや。

 何回数えても4人は4人だよ。あと、最後に藤堂さんを指す指が震えてるのは何でだよ。明らかに藤堂だけ、最後に回してるよね?


 え? なんかそう言うオーラ出てる?!



「……もしかして、俺いらない子──?」



 藤堂に冷や汗が流れるのであった。

※ おしらせ ※


新作です。本日から複数回投稿します

気になった方は、是非とも高評価、ブックマークをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ