Ⅷ 接近する聖女
王宮の朝は、普段以上に眩しく整えられていた。
だがエリスには、その光が舞台を照らす残酷な照明のように思えた。
(昨夜の茶会で見え隠れしたセリーヌの表情や仕草……全てが、今や謎解きのピースとして頭の中で組み合わさろうとしているわね)
深夜、庭園で目撃した紙束のこと。
あの微妙な笑み、手の動き、視線の流れ……ほんのわずかな違和感も見逃さなかった自分を、少し誇らしく思える。
だがそれ以上に、恐怖もまた胸を締めつける。
(セリーヌは確かに巧妙だ。何も知らぬ人には、ただの優雅な貴婦人にしか見えない。でも私は、違う。見抜く目を持っている…そう、自分に言い聞かせる)
◇◇◇
朝の帳が下りる前、エリスは重い扉を押し開けた。セリーヌの居室は既に明るく、淡い陽光が絨毯を照らしている。金糸を編み込んだ衣をまとったセリーヌは、微笑みを浮かべ、香り高い紅茶のカップを傾けていた。
「まあ……朝から珍しいお客様ですこと、エリス嬢。あなたが私のもとを訪れるなんて」
声は柔らかく、しかし冷たく鋭い刃のように響く。エリスは視線を逸らさず、間合いを測った。
(声色だけで多くを計り、推理する。これが私の仕事だ)
「昨夜、庭園でお見かけしました。紙束をお持ちでしたね」
セリーヌは微笑を崩さず、静かにティーカップを置いた。
「夜の気配を楽しむのが好きでして……お気に召さないかしら?」
(その一言で、推理が加速する。紙束の内容、それを動かした目的、受け取った人物の名前……全ては伏線として繋がるはずだ)
エリスは机に広げた帳簿を差し出した。数字の羅列、商会名、金額。偶然とは思えぬ規則性を、目の前に示す。彼女の指先が帳簿をなぞるたび、セリーヌの反応を観察する。
(微妙な眉の動き、唇の一瞬の歪み……これが心理の証拠だ)
「この支出、妙だと思いませんか?ある商会から莫大な金が動いています。その名義をたどれば──あなたの側近に行き着くはずだわ。」
セリーヌは瞳を細め、しかし表情を崩さない。
「推理ごっこかしら。でも、証拠には程遠い。単なる偶然では?」
(偶然の積み重ねが必然を生む。論理の糸が絡まり、頭の中で事件の構図が浮かぶ。だが口には出さず、静かに観察を続ける。)
二人の間に流れる沈黙は、まるで光と影が交錯するように濃く、長い。窓の外、朝の光は徐々に増し、影を伸ばしていく。
(手の動き、紙束の位置、ティーカップの角度……全てが心理の手がかりだ)
「あなたの動き、読める気がします」
と小さく呟く。
(まだ不確かな仮説に賭ける勇気を奮い立たせなければ…)
セリーヌは立ち上がり、優雅に裾を翻した。
「面白いことを言うのね、エリス嬢。……あなたの目、昔より鋭くなった気がするわ」
(挑発と警告が同時に放たれる。でも、胸の奥の火は恐怖よりも強く燃えている。知りたい……真実を)
「真実は、隠せば隠すほど滲み出るものです。私は──必ず掴みます…」
セリーヌは微笑みを崩さぬまま扉の方へ歩き、振り返って低く告げた。
「では、またお会いしましょう。次は、もっと愉快なお話を期待していますわ」
(扉が閉じる音が重く響く。緊張と余韻だけが残る……ここからが、本当の戦いだ)
エリスは窓際に歩み寄り、庭園の向こうに朝日を見つめた。光に照らされた葉や噴水が、昨夜見た影の輪郭を薄めていく。
(なぜあの紙束を庭園に持ち出したのか、誰に届けたかったのか……推理の断片は未完成のまま残る)
机に戻り、再び帳簿と紙束を並べる。
(手の動き一つ、視線の軌跡一つに意味を読み取る。心理描写と推理が絡み合い、事件の地図が頭の中で立体的に広がる。危険と知りつつ、推理の興奮に胸が高鳴るわ。)
やがて朝の光が完全に差し込み、王宮の壁を金色に染める。次に会うときは、より鮮明に真実を掴む……セリーヌの微笑の裏に潜む影を、必ず暴き出すまでよ。
内容を色濃く書きたいのでどうしても作品を等間隔で投稿できないのはご容赦いただきたいです。
─の割には文字数意外と少ないですよね。もう少し増やしてみますね。




