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悪役令嬢は今日もお淑やかに微笑む  作者: 土鍋敷布団
第Ⅰ章 気づいたら乙女ゲームの悪役令嬢になってた
4/8

Ⅳ 仮面の舞踏会

王宮において、夜会はただの社交の場ではなかった。

それは、きらびやかな衣装と笑顔の仮面に隠された、駆け引きと探り合いの舞台だった。


エリスが大広間へ足を踏み入れた瞬間、燭台の炎に照らされた空気は、華やかさの奥にひりつく緊張を孕んでいるのを感じた。

シャンデリアが天井から宝石のように光を落とし、絹やビロードの衣擦れが響く。

だが、その美しさの中に漂うのは、微笑みを装った毒気だ。


 (……やはり、仮面の舞台。誰もが笑みの裏に何かを隠している。)


ワインを片手に談笑する貴族、優雅に踊る若い令嬢。

彼らの視線の矛先は、王太子の姿へと集まっていた。

今日の主役は彼だが、その周囲には影のように后の一派がまとわりついている。


エリスは距離を取りつつ、その様子を観察する。

后は優美に笑いながら王太子へ歩み寄り、軽やかに言葉を交わす。

一見すれば穏やかな会話。

だが、その手には仄かに煌めく封蝋の小さな手紙が握られていた。


 (やっぱりそうね…夜会の賑わいを隠れ蓑にして、動き出したのね。)


エリスは唇の端をほんのわずかに上げる。

その視線の鋭さに気づいたのか、后がちらりと振り返る。

目と目が交わる。

互いに微笑を浮かべたまま……まるで何事もないかのように。


 「エリス様、よろしければご一緒に」

声をかけてきたのは、王太子の隣に控える青年騎士だった。


エリスは軽く会釈し、グラスを持ち直す。

 「ありがとうございます。ですが、私は観察しているだけで十分ですわ」


 「観察、ですか?」

青年は不思議そうに眉を寄せる。


 「ええ。夜会では笑顔も礼儀も仮面に過ぎません。

本当に見極めるべきは、誰がどんな仮面をつけているか……でしょう?」


そう答えると、青年は息をのむように彼女を見つめた。

だが、すぐに何も言わず、ただ静かに頭を下げて去っていった。


エリスの視線は再び后へと戻る。

 彼女はすでに王太子へと近づき、さりげなく封蝋の手紙を差し出そうとしていた。

 その仕草は巧妙で、周囲の誰も気づかない。

ただ一人、エリスを除いては。


 (仮面の下の真意……それを暴けば、嵐の火種は小さく潰せる。)


エリスはグラスの赤ワインを口に含み、視線を逸らすことなく考える。

 (だが、下手に介入すれば、こちらが悪役に仕立て上げられる。

それもまた仮面の一部。夜会の舞台では、役割を間違える者が断罪される)


そのとき、不意に背後から声がした。

 「エリス様は……随分と冷静に見ていらっしゃるのですね」


振り返れば、そこにいたのは王太子本人だった。

彼の瞳はまっすぐに彼女を射抜くようで、だがどこか探る色を帯びている。


エリスは仮面のような微笑を浮かべ、答えた。

 「夜会は芝居のようなものですわ。役者を眺める観客の立場でいれば、筋書きが少しずつ見えてまいります」


王太子は小さく笑う。

 「では……君は観客か。それとも、役者か?」


一瞬の沈黙。

その問いは、ただの冗談ではない。

この王宮における立場をどう定めるのか──

探る眼差しだ。


エリスはグラスを置き、静かに会釈する。

 「観客を装う役者……でしょうか。けれど、舞台を壊すつもりはございません」


 「……なるほど。仮面を被る覚悟はあるのだな」


王太子の声は低く、どこか含みを持っていた。


その背後では、后が王太子へ差し出した手紙をそっと侍女に託し、仮面の笑顔を絶やさぬまま会場を歩いていく。

まるで、何事もなかったかのように。


エリスはその光景を目の端でとらえ、内心で静かに息をついた。

 (夜会の仮面は外れない。けれど……必ず、ほころびが現れるはずよ!)


 音楽が鳴り響き、舞踏会は華やかに続いていく。

だが、仮面の下に潜む企みは、確かに息づいていた。

──エリスの視線は冷ややかに、そして確実にその火種を追い続けていた。

今回は仮面=笑顔っていうミーニング?というか掛け合わせてみました。

少し早めのタイミングで投稿してみようかなと思います。日が明けたのとPV数とか比較してみたいので検証するものとして見ています。

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