Ⅲ 王宮の陰謀
中庭の小さな嵐から数日──
王宮は一見、静けさに包まれていた。
花壇の花々は柔らかな日差しを浴び、そよ風に揺れる。
小鳥のさえずりも穏やかに響く。
だが、平穏の裏側では、確実に小さな波が立っていた。
エリスは今日も中庭を歩きながら、目を巡らせる。
(平和……長くは続かない。誰かが小さな嵐を仕掛けているに違いないわ。)
視界の端、廊下を歩く一人の姿が目に入る。
宮中で最も優雅とされる女性。
だが、その微笑みの裏には、王太子への接近を狙った策略が潜んでいると噂されていた。
表向きは穏やかに微笑み、周囲を和ませる。
だが、空気や所作のわずかな違和感は、エリスの鋭い観察力を逃さない。
(……彼女、何かを企んでいる。確実に動きがある。)
廊下を進む后の後ろ姿に合わせ、エリスは自然に距離を保ちながら歩く。
目立たず、しかし全てを観察する。
これが、彼女の小さな戦術だった。
心の中で、微かに笑う。
(静かに見守るだけでも、十分情報は集まる……)
耳に入るのは、侍女たちの囁き。
「后様が王太子に、特別なお茶を出したとか」
「手紙を密かに渡していたとか」
誰もが噂話を面白おかしく語る。
だが、エリスは冷静だった。
(表面には何も出さない……けれど、確実に計画は進行しているはずだわ。)
午後、再び中庭でリリアと顔を合わせる。
「エリス様、今日も花壇のお手入れですの?」
「ええ、リリアさん。花々が静かに揺れるこの時間は、心を落ち着けることができますから」
リリアは少し不安げに目を伏せる。
「でも……后様が、なんだか……」
エリスは軽く微笑み、リリアの手を優しく握る。
「心配はいりませんわ。観察すれば、全てが見えてきます」
その声には揺るがない自信が宿っていた。
◇◇◇
夕刻、王太子が中庭に現れる。
「君は……よく気づくな」
エリスは軽やかに微笑む。
「宮殿には、見えない動きがたくさんありますの。
少し目を凝らせば、誰もが小さな影を落としていることに気づきますわ」
王太子の視線は鋭くなるが、微かに好奇心を含む笑みを浮かべる。
「……面白い。君の観察眼は見事だ」
その言葉に、エリスは心の中で微笑む。
(観察するだけで、相手の意図が少しずつ見えてくる。これも私なりの策略の一部……)
◇◇◇
夜の回廊、静かな空気の中、エリスは思案する。
(后の小さな計画が、どの段階で動き出すのか……
私が先に気づけば、波に飲まれずに済む)
廊下の奥から、密かに差し出された手紙の影を見つける。
王太子に渡すものらしい──だが、誰にも知られず、正確な内容は不明。
エリスは息を潜め、観察を続ける。
(手紙の内容も、タイミングも、すべて計算されている。だが、私なら…出し抜ける!)
中庭の花は夜風に揺れ、小鳥たちは巣へ戻る。
外界が静かに眠るその裏で、王宮の陰では確実に小さな嵐が育っていた。
エリスはその気配を胸に刻み、柔らかく微笑む。
(誰も気づかない。でも、私は知っている……)
王宮の陰謀の渦中で、悪役令嬢は今日も静かに、しかし確実に動いていた。
──そして明日、再び小さな嵐が吹き始めるのだ。
1日1本を目標に頑張ります。
次回の刊行は明日です。
時間はまだ特には決定していないので不定期更新です。
さてさて、后の目論みとは一体何か?!
乞うご期待。




