Ⅱ 中庭の小さな嵐
断罪イベントを無事に乗り越えたエリスは、今日も王宮中で「聖女令嬢」と呼ばれていた。
だが本人は心の中でそっとため息をつく。
(聖女……まるで私が誰かのためだけに存在しているみたい。でも、本当は違う。私は自分の未来を守るために動いているだけ。)
中庭は柔らかな日差しに包まれ、花壇の花々が軽やかに揺れている。
土の匂い、微かに漂う花の香り、鳥のさえずり。
こうした日常の細部が、なぜか心を落ち着けてくれる。
しかし、この平穏もほんの一瞬で壊れそうな予感が、胸の奥にくすぶっていた。
──その瞬間だった。
「うわっ!」
ヒロインのリリアが足を滑らせて花壇に倒れ込む。
「エリス様!」
エリスは瞬時に手を伸ばし、リリアを支えた。
「まあ、リリアさん! 大丈夫ですの?」
「エリス様……ありがとうございます……」
リリアは顔を赤らめ、涙がほんの少し滲んでいる。
取り巻きの令嬢たちは思わず顔を見合わせ、視線を逸らすものもいた。
(またやっちゃった……これで“聖女”評価がさらに上がるのね……でも、私は何も望んでいないのに!)
心の中でそう思う一方、エリスは、自分の行動が意図せず周囲に影響を与えることの怖さも感じていた。
平和主義を貫くつもりが、知らぬ間に「聖女令嬢」として王宮中に認識されてしまう。
もし誰かがその評判を逆手にとれば、容易に利用される。そう思うと、微笑みの裏に小さな緊張感が忍び込む。
──そのとき、背後から足音が近づく。
「……また助けてるのか?」
振り返ると、王太子が中庭に立っていた。
普段は冷静沈着な彼の目が、少しだけ揺らいで見える。
(この視線、何を思っているのかしら……)
エリスは微笑を保ちながらも、心の奥で戦略を練った。
平静を装うのは簡単だが、見せ方ひとつで相手の印象は大きく変わる。
王太子はしばらく無言で二人を見つめた後、そっとため息をついた。
「……面白い子だ」
その言葉にエリスは心の中で小さく拳を握る。
(面白い、ですって……褒め言葉なのか、ただの呆れなのか……)
リリアは少し恥ずかしそうに顔を伏せた。
「エリス様……本当に、ありがとうございます。」
「ふふ、いいのですわ。こうしてお互い助け合えるのが、楽しいじゃありませんか」
エリスは優雅に微笑みながら、次の花壇の手入れを始める。
心の中で、静かに決意を新たにする──
(この平和を守るために、少しずる賢く生きるしかない……)
◇◇◇
翌日、宮殿の廊下でエリスは別の令嬢、クラリスと鉢合わせた。
「エリス様、昨日の件、ちょっと驚きましたわ。リリア様を支える姿、まさかあんなに自然に……」
「まあ、些細なことですわ」
エリスは軽く手を振り、微笑む。
(自然に見せるだけ、計算しているようで、実はほとんど心からの行動なの)
クラリスは少し考え込み、やがて口元を緩めた。
「ふふ、なるほど……あなたの魅力は、計算ではなく、本当に自然なものなのですね」
エリスは胸の中でほっと息をつく。
(計算じゃないわ、少しだけ計算しているけれど、それも自然に見せるのがコツ。)
◇◇◇
午後になり、王太子が中庭に現れた。
「君は……また誰かを助けていたのか」
「ええ。ただ、助けられるときは助けるだけですわ」
エリスは軽やかに微笑む。
王太子は少し微笑み、近づく。
「……君は予想外だ。どうして、そんなに自然に人を動かせるのか」
エリスは心の中で思わず笑った。
(自然に見せてるだけ……でも、ほんの少しだけ“ずる賢さ”も混ぜてる。)
中庭には小鳥のさえずりが戻り、花々が揺れる。
平和な日常のようで、しかし静かに次の嵐の予感が漂う。──
エリスはその予感を胸に、柔らかく微笑んだ。
(次に何が来ても、私はただ、最善を尽くすだけ。それだけが、私の自由──)
風が花を揺らす音、鳥のさえずり、静かな中庭の空気。
それらすべてを心に刻みながら、エリスは今日という日を、静かに終えた。
いつか大量のPV数とユニアク数が増えてますようにってずっと願ってる。欲を言えばレビューとか欲しいかも(そうなれば初めて貰うことになるね)




